上 下
1 / 9

プロローグ

しおりを挟む
--求道者の末路は終わりなき渇望と虚無感の連鎖……
--君にその覚悟は本当にあるのかい?


時計は深夜を回った位だっただろうか
路地裏の一角でそれは起きた……

すでに息絶えているのかもしれない、腹を刺され横たわる男性の隣には、両手を真っ赤に染めて立ち尽くす男の姿があった。

男は震えながら肩で大きく息をして、その場を立ち去り、暗がりへと姿を消した。

「ハァ、ハァ、俺は何もやってない……」

人々のざわめきを遮るようにサイレンの音が鳴り響く……

男の名は『アラタ』今日は朝から頭痛に悩まされ1日寝込んでいたが、空腹に耐えきれず夜食を買いに出掛けた矢先の出来事だった。

ビルの間の小路から物音がしたので立ち止まり視線を向けると、うめき声をあげ必死に助けを求める人影を発見した。
辺りに人の姿はなく恐る恐る近づいてみると、おびただしい出血を目の当たりにし凍りついてしまった。

刺された男は、アラタの足にしがみつくように手を回して死にたくないと何度も涙ながらに訴えてきた。

男は仰向けになり刺さっていたナイフを引き抜こうとする。止めようとしたが一足遅く、もう手遅れかもしれないと絶望がアラタの頭をよぎった。

「すぐに救急車を呼ぶからしっかりしろ!」

立ちあがり震える手でスマホを取り出そうとした時、また強烈な頭痛に襲われ意識が遠のいてしまった--

気がついた時には人集りひとたかになり、パトカーのサイレンも聞こえてくる。この状況はどう考えても自分が犯したと思われてしまう、そう思うと怖くなりとっさに逃げ出してしまったのが今回の経緯だった。この選択肢がそもそもの間違いだったと気づいた時……

「止まれ!動けば打つ!」

銃口を向け凄む警官隊を前に、もはや抵抗は無意味と判断し逃走劇は幕を閉じる。

「俺はやってない!助けようとしただけなんだ話を聞いてくれ!」

「言い訳は署で聞こう……さっさと連行しろ」

間を割って入ってきたのは『黒田警部補』と呼ばれる男で独特な雰囲気を発し、後部座席からこちらを睨み付けている。
警官隊の一人が、黒田の隣に座るようアラタに指示し乗車させる。

『俺は無罪だ……ちゃんと捜査して真犯人を捕まえてくれるはずだ……』

祈る思いで瞳を閉じると、沈黙を破り黒田が口を開いた。

「--お前には感謝している、新しいにえよ、お前の絶望は格別だな」

「……なんだと?!どういう意味だ」

黒田に詰め寄ろうとした所で隣の警官が拳を振り上げ顔面を殴打する、2発、3発と。
--助けて……くれ……
薄れゆく意識の中で不敵に笑う悪魔達に漆黒へと突き落とされた……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偉人魔界戦記~ナポレオンと聖女の涙~

煌珞
ファンタジー
センターホーン大陸・ビストリア帝国にある都市アラヴェスタ。 そこに勇者がいた。彼の名はナポレオン・ボナパルト。 彼は、道中で逢った仲間たちとともに旅に出る。 しかし、魔獣に出会ったり、帝国軍に追われたり、その旅は前途多難!? 恋あり、ギャグあり、自由すぎる偉人たちの異世界冒険ファンタジー開幕! ※この物語はフィクションですが、登場する人物は実在した偉人の名前を使用しています。なお、登場する国、団体、物語中に起こる事件は現実のものと一切関係ありません。 表紙イラスト→マキーナ様[link:crea_u?c=U2FsdGVkX18xXOTc5MDkyNmdxPMntlVvgQRYRTqbRkSC01]

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

ハコニワールド

ぽこ 乃助
ファンタジー
少しずれた高校生、灰ヶ原黒時(はいがはらくろとき)。 彼が学校から家へと帰っているある日、突如空が漆黒に染まる。 辺りにいた人の姿はなくなり、代わりに黒い人影現れる。その中の一体、光る人影は己を神と名乗った。 新たな世界を創造する権利を手にした黒時は、七人の人間を探し悪魔を倒し始める。 しかし、その先に待っていた結末は。あまりにも惨いものだった。 人間の本質に迫る、異様で狂気的なバトルをご覧ください。 *約18万字で完結となります。 *最終話まで、毎日7時30分、20時30分に更新されます。最終話は10月29日更新予定です。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

偉人と踊れ

ファンタジー
これは、歴史のない世界で、偉人の力を引き出せる少年と、全ての歴史を知る少女の、戦いの物語。

魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙
ファンタジー
真実を司りし神ウェルスの名のもとに、 魔法公証人が秘められし真実を問う。 舞台は多くのダンジョンを近郊に擁する古都レッジョ。 多くの冒険者を惹きつけるレッジョでは今日も、 冒険者やダンジョンにまつわるトラブルで騒がしい。 魔法公証人ルロイ・フェヘールは、 そんなレッジョで真実を司る神ウェルスの御名の元、 証書と魔法により真実を見極める力「プロバティオ」をもって、 トラブルを抱えた依頼人たちを助けてゆく。 異世界公証人ファンタジー。 基本章ごとの短編集なので、 各章のごとに独立したお話として読めます。 カクヨムにて一度公開した作品ですが、 要所を手直し推敲して再アップしたものを連載しています。 最終話までは既に書いてあるので、 小説の完結は確約できます。

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

処理中です...