潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第三章 お邸の前庭にて

ことの是非

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「潤の家って、まだ遠い?」
僕は、だいぶ歩くんだなあ、と思って尋ねた。
「ここだよ?」
立派な鉄格子の門があって、脇に、人が通るための扉がついていた。
「ここが、潤の実家?」
見ると門柱に「大洗」と表札があった。
「ここって、森の隣だよね?」
「うん」
「さっき、森の隣家は、譲って人の家だって言ってなかった?」
「言ったよ。あれ?  そのこと、話したじゃないか」
「知らない人に、写真を撮られたって話だったから、てっきり、その知らない人が、譲って人かと思ったんだ。写真撮ってたから」
「ああ、それは、本当に知らない人だったんだ」
「譲って人と、いっしょに住んでいるんだ?」
「そうだよ、兄だからね」
「え?」
「だから、話したじゃないか。知らない人に写真撮られた話じゃなくて」
「あ、兄さんたちに、されたって話しの方?」
「そう」
「あ、そうか、僕、混乱してた」
「でも、知らない人に写真撮られた話も、譲に関係しているんだ。そういう意味では、あながち、瑤の推測も間違いとは言えない」
潤は、僕を慰めるように言った。
「譲に、『礼拝堂の裏で知らない人に写真撮られた』って言ったら、『警察に言うから、どういうことされたか、実際にその場所に言って説明してみて』って言われて、譲に説明しているうちに、二人とも興奮してしまって、ああいうことをするようになってしまったんだ」
「警察には、言わなかったんだ?」
「ううん。言ったよ。でも、被害届けは出さなかった。出さなかったというより、受理されなかった」
「どういうこと?」
「素人が行っても、相手にされない感じだった。親と来いって言われたけど、親には、言いたくなかったから、譲と言ったんだけど」
「素人というか、子どもだから?」
「もう、この話、したくない」
「ごめん、いろいろ聞いてしまって」
「うん。話せるようになれればいいんだけど、話すのつらいから」
「そうだよね、ごめんね。手を握ってもいい?」
潤は、一瞬びくっとしたけれど、すぐに、ほっとしたように、差し出した僕の手を握り返してきた。
「ありがとう」
「潤って、手をつなぐの好きだよね」
「そうかな」
僕には、潤の傍らにいて、潤の手を握っていることしかできなかった。
「つまり、森で、さっき潤と散々、性交してた譲は、潤の兄さんだったんだね?」
僕は、確認した。
「さっき、わからなかった?  よく、わからないで平気でしてたな」
潤は、いらっとしたように言った。
「逆に、潤の兄さんだって、知ってたら、あんなことしなかったよ」
「どういうことだよ」
「だって、よくないことだよ」
「誰としようが、褒められたことじゃないんじゃないか?  あんな色欲魔みたいな行動」
潤は、怒っているようだった。
「僕は、潤が、譲って人と恋人同士なのかと思ったんだ。愛する人とするなら、ありかなって思ったんだ。向こうは、大人だから、こうなるのかなあって。潤が、まだ高校生なのにするのは、どうかと思うけど、それは、潤の方で事情があるから、と思ったんだよ」
「ああ、そうか。瑤の考えでは、恋人同士なら、同性間でも、過激な性行為でも、してもいいってことか」
「うーんと、それは、僕の経験が浅いから、まだ判断できないんだけど。どういうのが過激な行為か、よく知らないし。でも、前提として言えるのは、性交って、愛する者同士の行為なんじゃないの?」
「譲は、俺を愛してるんじゃないの?  知らないけど。俺のエッチ動画や、エッチ写真をコレクションしてるし」
潤は、めんどくさそうに言った。
「それって愛なのかよくわからないけど。まあ、それは置いておくとしても、兄弟は、だめだよ」
「あ、そう。じゃあ、俺の家に来るのやめたら?  今ならまだ最終バスに、間に合うよ。帰るなら送るよ」
潤は、振り向いて、僕を、きっ、と見据えて言った。
「そんな……」
「瑤から見たら、汚らわしいんだろう?  だったら、俺にもう、関わらない方がいいよ」
「嫌だよ」
「どうして」
「潤のことが好きだからだよ」
「エッチは、してやるよ。洋講堂で。心配するな」
「そんなことじゃないよ」
「俺も、瑤のことは、気に入ったんだ。大丈夫だよ、一回だけで終わりにするつもりは、最初からなかったから」
森にいた時は、素直だったのに、またトゲトゲした潤に戻っていた。

「潤の家には行くよ。せっかく来たんだもん。お腹すいたし、シャワー借りたいし」
「じゃあ、飯と風呂は提供するけど、その後、ハイヤー呼ぶから帰れよ。深夜バスもあるけど」
「いい、帰らない」
「無理するなよ」
「だって、何か、事情があるんでしょ?」
「うん、実の兄じゃない」
「なんだ。早く、そう言ってよ」
「なら、許せる?」
「ちょっと、ほっとした」
「よかった」
「完全に納得したわけじゃないけど、お腹すいたから、中に入りたい」
「中に入りたいんだ?」
「潤が言うと、いやらしいよ」
「ふふ」
潤は、人が入る扉に手をかけて開けた。
「でも、潤に面差しが似ているよね?」
僕は、ずっと気になっていた事実について、思いきって尋ねた。
「譲?  ああ、従兄だからね」
「そうなんだ?」
「うん」
「本当は、潤に似てるから、潤の兄さんなんじゃないかって、最初に思ったんだ。でも、怖くて、知らない近所の人で、潤の恋人なんだって、思いこもうとしてた」
「怖くて?」
「僕が、潤を傷つけることに加担してるんじゃないかって、間違ったことを、いっしょになってしてるんじゃないかって、怖かったんだ」
「そうか。実の兄じゃなくても、兄は兄だ。だから、本当はよくないってことは、俺だって、わかってはいるんだけど」
僕は、言えなかった不安を潤に伝えることができて、少しほっとした。
僕は、門をくぐり、中に入った。
「従兄ってことは、譲の親が、潤の伯父さん、伯母さんってこと?」
「うん、叔父。亡くなった父の弟」
潤は簡単に答えた。
「あの、悪いけど、家に入ったら、あんまり、そういうこと、詮索しないでくれる?」
「うん、わかった」
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