潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第一章 学校と洋講堂にて

ミスコン

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 潤は、女扱いされるのに、うんざりしているのかもしれない。だけど潤にはかわいそうだけれど、背が伸びればという潤の観測は、甘いと思った。僕だって男っぽくなりたいけれど、僕の両親はずっと童顔なので、僕は自分の成長にあまり期待を持てないでいた。なので道づれにしたいわけでもないけれど、潤は、一生こんな感じじゃないかなあと思えた。年取っても女性っぽくてきれいな人っているし。高校生の時かわいくても大学生になると突然おっさん化する人もいるし、まあわからないけど。

 あたりが暗いせいか、僕らは普段より饒舌だった。僕は、潤と急に親しくなった気がして嬉しかった。潤も、学校にいる時より少しリラックスしているように思えた。学校にいる時は、警戒心で全身、武装している感じがした。四六時中、上級生に狙われているのだから、仕方ないとも思えた。
 洋講堂にいる時は、また違った雰囲気で気取っていた。けれど、学校のある街を離れると、潤は、急に子どもっぽく感じられた。潤は、大人っぽくもあり、子どもっぽくもあり、それらの側面がランダムに現れるので、僕は、少し戸惑った。けれど、そんな、いろいろな潤の面を、どれも僕は好きだと思った。
 今の、のびのびしたフレンドリーな潤とは、一気に距離を縮められた感じがして、嬉しかった。
「そういえば、潤って、去年の文化祭のミスコンで優勝してたよね?」
ミスコンは男子が女装してミスを決める文化祭のビッグイベントだった。
 残念ながら僕は、自分も出場していたので、潤の美少女姿をじっくり見られなかったけれど、噂では、キラキラしてて天使が舞い降りたかのように美しかった、と聞いていた。僕は、潤を横目で見て、女装してなくても普通に美しいよ、と思った。
「やめろよ、その話し。その後、その姿のまま、上級生に集団で犯されたんだから……サイアク」
潤は吐きすてるように言った。
「……うそだぁ?」
「そんな嘘言ったとして、何が楽しいんだよ」
潤が、うんざりしたように言った。
「うーん……そういうこと言えば、僕が興奮すると思って言ってるんでしょ?」
僕は、公園から、いや洋講堂で初めて話した時から、潤に挑発されっぱなしだったから、その延長で、僕がドキドキしそうなことを、潤がまた、わざと言っているのだろうと思ったのだ。
「瑤は、平和だな。ま、いいか。これから、俺に犯されるんだし」
潤が悪の顔になって、物騒なことを言った。
「潤は、そんなことしないもん」
「あっ、そう」
潤は、鼻でせせら笑った。僕の認識の甘さを笑ったのだろう。でも僕は潤を信じていた。
「だって、僕も一年の時のミスコン、無理やり出場させられたけど、別に、後でひどい目になんてあわなかったよ?」
僕は、潤の態度に少し不安になりながらも説明した。もしかして、僕も、怖い目にあったらどうしよう。今日も、藤木さんって三年生に目をつけられちゃったもんな。上級生に集団でいじめられるなんて絶対嫌だな。
「瑤も出てたの?」
「うん、僕、三位だった」
「あれ? じゃあ表彰式のステージに、瑶もいたってことか。なんか俺、その時のこと全然覚えてないんだよな」
僕は、表彰式の時、潤の隣に立っていたはずだ。
「うん、いたよ。でも、女の子の格好してるのを全校生徒や父兄とか他校の人にまで注目されて、恥ずかしすぎだったから、僕も、全く、周り見る余裕なんてなかったよ。だから、残念だけど、潤の姿も、よく見られなかったんだ。潤は女子高生の格好してたよね。ミニスカートで紺色ハイソで」
後で写真とか見てもフツーに可愛い女子高生にしか見えなかった。僕は、そのままの美少年の潤の方が好きだけど、女の子が好きな人は、普通に萌えるだろうなあと思った。あ、僕も潤のプロマイド欲しいなって思った。僕の場合、美少年の潤が女装してるってとこが萌えだったけど。ん? なんかおかしい?
「あれって、無理やりじゃなくて、自分からすすんで出るやつなんているのかよ?」
潤が言った。
「潤とか」
「違うよ」
「ナルシストな人とか。女装好きの人とか」
「俺が、そうだってこと? 心外だな」
「だって潤って、ナルシストなんでしょ?」
僕は、洋講堂での潤を思い出して、言った。
「喫茶室の鏡の前で、『自分の姿に恋してるなんて、自分で自分を異常だと思う』って、うっとり言ってたじゃない」
潤は、苦笑した。
「それはそうと、瑤が優勝じゃないのは、おかしいな」
「うん、僕もそう思う」
僕の女装は、両親も見に来ちゃったんだけど、特に母に、すごいうけてた。なんか、母の同級生の友達とかに僕の女装写真をFBで見せてイイネをいっぱいもらったらしい。おいおいって感じ。父は息子の女装に正直、最初はフクザツな顔をしてたらしいけど、意外に嬉しそうだったという。母さんの学生のころに似てるとかなんとか言って。あまりにも母さんがキャーキャー言って喜んでいるので、しまいに、対抗心を燃やしたのか、俺も学生の頃は可愛くて男にモテたんだ、とか変な自慢をしだしたらしい。そうなの? 父さん。ヤバイよ父さん。人のこと言えないけど。僕がこうなのはDNAのせいってわけだ。そんなわけで、僕は、けっこう自分の女装は可愛いいという今後の人生で役に立つのかビミョーな自信を持つにいたったのだった。
「俺は謙遜で言ったんだけど、なんだよ、瑤のがナルシストじゃないか」
潤が、あきれ果てたように言った。謙遜なら、結局、潤はナルシストってことか。
「僕のは正常な自己愛の範疇だと思うよ。フロイトは、自己愛にとどまるのは異常なこととしたようだけど、コフート以降は、そうでもないようだし」
「あっ、そう。俺は異常で、瑶は正常なんだな」
潤は、すねたように言った。
「そんな意味で言ったんじゃないよ。正常な自己愛は人間の成長にとって大事だって話」
たぶん特に潤にとっては。噂から推すると、潤が数々の浮き名を流している点などは、潤の自傷的な側面であるようにも疑えたので、潤にとって自己愛を育むことは大事だろうと僕は類推したのだった。
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