潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第一章 学校と洋講堂にて

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 潤は、校門付近で待ち伏せしていたらしき、自転車を引いた、同じ学校の制服の男に、声をかけられ、しつこくからまれていた。相手は、大人っぽい背格好で、肩幅も広く背も潤より高かった。たぶん上級生だろう。二人はもめていたので、校門を出てから、いくらも経たずに、瑶は潤たちに追いついてしまった。近付いて見ると、バッジの色から、三年生だとはっきりした。
 瑶が上級生に挨拶すると、彼は気まずそうな顔をして、潤を口説くのをやめ、潤から離れた。
 瑶は、かわりに潤に近づいて、
「潤、いっしょに帰ろう」
と声を掛けた。
 潤が、親しげな笑顔を向けて、
「うん、いいよ」
と応えた。
 潤は並んだ瑶の肩をだいて、ぐいと引き寄せた。さらに潤は、恋人のように、瑶の腰をだいた。潤は、上級生に見せつけるように、顔を振り向けて、後ろを振り返った。
 瑶は、潤に腰をだかれて、嬉しかった。まるで潤の彼女になったような喜びが、瑶の身内を駆けめぐった。そのまま、潤に、その場で激しくキスを求められても応じそうなほどに気分は高揚した。
 上級生は、瑶らのただならぬ雰囲気を察したのか、自転車に跨って、去って行った。
 瑶はほっとした。潤も安堵したように、息をついた。そして、悪戯っぽい顔つきになって瑶を見た。
 潤は、瑶の腰にまわした腕を、ぎゅっとしめ、
「もう、これだけで、興奮しちゃった?」
と瑶の耳元に唇を近づけ、妖しくささやいた。
「うん」
瑶は、問われるままに答えた。全て、潤の言いなりになってしまいたかった。もし、この場で制服を脱げと命じられたら脱いでしまいたいような、幻惑された気持ちになった。
潤は、瑶の腰から手を離し、真顔になって、
「昨日のこと、怒ってる?」
と聞いてきた。
「別に」
「なら、いいんだけど」
瑶は、本当は、ちょっと怒っていた。
 瑶のファーストキスを奪っておきながら、さも、瑶と恋を始めるようなそぶりをしながら、直後に前から親しい男のあることを見せつけるなんて、ひどいと思った。けれど、潤は、最初から、キスは練習と言っていたし、瑶と付き合うとは、一言も言っていなかった。それどころか、恋愛なんかくだらないと思っているようだった。勝手にロマンスを期待したのは、瑶の方だ。だからって、全部、瑶が悪いのだろうか?
「本当は、怒っているんでしょ?」
潤が聞いてきた。
「うん」
潤はたずねた。
「何を怒っているの? マスターのコウさんのこと?」
「うん」
瑶はうなずいた。
「なんだよ。コウさんは、兄貴の恋人だって言っただろう?」
潤は、瑶をなだめるように言った。
「潤って、コウさんが好きなの?」
瑶は思いきってたずねた。
「兄貴の恋人だって言ってるだろう」
潤は不機嫌になった。やっぱり好きだから、潤は、あんなに恋人同士みたいにイチャイチャしてたんじゃなかろうか。瑶は、思いきって潤にたずねた。
「潤にとって、僕は、何?」
まだ一日つきあっただけだから、恋人とは言ってくれないかもしれないけど、キスもしたんだし、と瑶は期待した。
「え? 何って、クラスメイトじゃないか」
潤の答えに、瑶はがっかりした。
「それだけ? 昨日、キスしたのに」
「キス? 結局してないよね? コウさんが帰って来ちゃったから」
「したよ、最初、ちょっとだけ」
「最初? だって、その時は瑤がこばんだから、しなかったじゃないか」
「だけど、ちょっとしたもん」
「ああ? まあ、ちょっとかすったかもしれないけど」
潤との認識の違いに、瑶はむくれた。
「何で、そんなに怒った顔するんだよ」
「人のファーストキスを奪っておいて」
「あー、ごめん。それで、さっきから怒ってたの? やっとわけがわかった」
「怒るよ」
「そっか。じゃあ、俺、責任とって瑤と結婚しなきゃいけないね」
潤が、茶化した。
「そうだよ、結婚してよ」
「いいの? 俺なんかで」
潤が笑って言った。
「いいよ」
「簡単に言うなあ。俺、男なのに」
潤が笑って言った。
「潤こそ、簡単に男にキスするんだ?」
「簡単にってわけじゃないよ。昨日だって、俺としては、自制して、何もしなかったつもりでいたから、瑶が何を怒っているのか、さっぱり、わからなかったんだ」
「えー! あれで? めちゃめちゃ誘惑された気がするんだけど」
「俺は何もしてないって。瑤が勝手に発情しだしたんじゃないか」
「潤が、そそのかしたくせに」
「瑤が敏感すぎるんだろう? 触ってもいないのに感じてるんだもん」
と互いに昨日の責任をなすりつけあいながら歩いていると、洋講堂の前についてしまった。
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