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第十五章 晩餐にて
癒されたい
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瑶がダイニングに戻ると、叔父様も戻ってきた。
「叔父様、服着てきたんだ? 食事中に欲情するような犬は服着たらいけないのに」
潤はおじ様にツンツンして言った。
「潤は、勝手に人間に戻ったりして。怒っているのか?」
おじ様がたずねた。
「叔父様が、浮気するのが悪い」
潤が言った。叔父様は、微笑んで聞いていた。
「地下室だって、譲と使ったんでしょ? 聞いてないよ、そんなの」
「ああ、悪かった」
「譲と寝ないでよ」
潤が、おじ様に訴えた。
「必要があったからだよ」
おじ様が、答えた。
「譲が反抗的だから?」
「お前が、正統な後継者なんだから、敵対勢力である譲は、おさえておこうと思った、とでも言えば、納得するかい?」
「叔父様の世は千代に八千代に」
潤が自嘲的に言った。
「で、潤は、カオスを去り、秩序ある世界へ、旅立とうというのか?」
「そのつもりだよ。俺は、叔父様のようには、ならない」
潤がきっぱりと宣言した。
「と思ってたのに、なってしまった、という題名の本があるね」
「いやなこと言わないで。俺なんか二十歳まで生きられるか、わからないんだから」
「そんなに悩んでるのか?」
「幼い俺を散々もてあそんでおいて、俺が、まともに成長するとでも思ってんの?」
「今夜は、だいぶ強気だなあ。友達の影響か? それとも、何か読んだか?」
「影響じゃないよ。味方がいるから」
「一つ忠告しておくけれど、フーコーは、エイズで死んでいる」
おじ様は、にやりとした。
「俺の読んだ本、いちいちチェックするなよ」
潤が怒ったように抗議した。
「書店から購入リストが送られてくるから、仕方がない」
おじ様は、うそぶいた。
「俺に、いろんな人とセックスするようにしむけておいて、今さらエイズがどうとか言うなよな」
「しむけて?」
おじ様が、聞き返した。
「俺が、セックス依存なのは、あんたらが、俺を虐待したからだ」
潤が言った。
「ふうん、潤が、そんな発言をするとは、友達の入れ知恵かな?」
おじ様は、瑶の方を見た。
「違うよ。前から思ってたけど、味方がいないから、言えなかっただけだよ。俺の意見は、言っても否定されるからね」
潤は、訴えた。
「ほう。潤が、そう思っているなら、もう、私とは距離をとった方がいいということになるんだろうね」
おじ様は、潤の隣の席に座って、人ごとのように言った。
「なかなか、そう思えないから苦しいんじゃないか」
潤が苦痛を訴えても、おじ様は、あくまで客観的姿勢を崩さず応えた。
「でも、離れた方がいいだろうね。潤が、そんな風に思っているのに、私も無理強いするつもりは、さらさらない。まあ、私には譲も昴もいるから、潤がいなくなっても、いっこうにかまわないよ」
潤は、不安そうな顔になり、黙ってしまった。
「もし、私や大洗家と距離を置きたいのだったら、潤は、ここに毎週帰ってくるのは、やめたらいいんじゃないか?」
おじ様は、さらに提案した。潤が言った。
「そんなの嫌だ。俺が捨てられるみたいじゃないか。俺の家なのに、なんで帰ってきちゃいけないの?」
「帰ってきちゃいけないなんて私は一言も言ってないだろう? 虐待されたとか言い出したのは潤じゃないか。虐待されているだとか思うようなら、ここに帰ってこない方がいいだろう」
おじ様は、冷静そうに、だが、少し意地悪く言うと、潤は目をうるませた。
「だって、俺の家なのに……」
潤の涙が、蝋燭の灯りに照らされて、きらきら頬に光った。
「じゃあ、潤は、どうすれば満足なんだ?」
おじ様が、潤の涙を見ても心一つ動かされないようすで尋ねた。
「過剰なセックスを必要としないくらいに、癒されたい」
潤は答えた。
「どうやって?」
「どうやってかは、わからないけれど、あらゆる手段を使って、癒されたい」
「ほう」
「で、そのお金は、叔父様が払ってほしい」
「なぜ?」
「叔父様が、原因だからだよ」
「どのみち、保護者だから、支払いは私になるわけだが、つまり、私が加害者で、私のせいだから、私に償ってほしいというわけだな?」
「そういうことです」
潤は、要求を述べて、ほっと息をついた。
緊張に上がっていた潤の肩が、少しほっとして下がったが、潤の背中は緊張しているようだった。
「叔父様、服着てきたんだ? 食事中に欲情するような犬は服着たらいけないのに」
潤はおじ様にツンツンして言った。
「潤は、勝手に人間に戻ったりして。怒っているのか?」
おじ様がたずねた。
「叔父様が、浮気するのが悪い」
潤が言った。叔父様は、微笑んで聞いていた。
「地下室だって、譲と使ったんでしょ? 聞いてないよ、そんなの」
「ああ、悪かった」
「譲と寝ないでよ」
潤が、おじ様に訴えた。
「必要があったからだよ」
おじ様が、答えた。
「譲が反抗的だから?」
「お前が、正統な後継者なんだから、敵対勢力である譲は、おさえておこうと思った、とでも言えば、納得するかい?」
「叔父様の世は千代に八千代に」
潤が自嘲的に言った。
「で、潤は、カオスを去り、秩序ある世界へ、旅立とうというのか?」
「そのつもりだよ。俺は、叔父様のようには、ならない」
潤がきっぱりと宣言した。
「と思ってたのに、なってしまった、という題名の本があるね」
「いやなこと言わないで。俺なんか二十歳まで生きられるか、わからないんだから」
「そんなに悩んでるのか?」
「幼い俺を散々もてあそんでおいて、俺が、まともに成長するとでも思ってんの?」
「今夜は、だいぶ強気だなあ。友達の影響か? それとも、何か読んだか?」
「影響じゃないよ。味方がいるから」
「一つ忠告しておくけれど、フーコーは、エイズで死んでいる」
おじ様は、にやりとした。
「俺の読んだ本、いちいちチェックするなよ」
潤が怒ったように抗議した。
「書店から購入リストが送られてくるから、仕方がない」
おじ様は、うそぶいた。
「俺に、いろんな人とセックスするようにしむけておいて、今さらエイズがどうとか言うなよな」
「しむけて?」
おじ様が、聞き返した。
「俺が、セックス依存なのは、あんたらが、俺を虐待したからだ」
潤が言った。
「ふうん、潤が、そんな発言をするとは、友達の入れ知恵かな?」
おじ様は、瑶の方を見た。
「違うよ。前から思ってたけど、味方がいないから、言えなかっただけだよ。俺の意見は、言っても否定されるからね」
潤は、訴えた。
「ほう。潤が、そう思っているなら、もう、私とは距離をとった方がいいということになるんだろうね」
おじ様は、潤の隣の席に座って、人ごとのように言った。
「なかなか、そう思えないから苦しいんじゃないか」
潤が苦痛を訴えても、おじ様は、あくまで客観的姿勢を崩さず応えた。
「でも、離れた方がいいだろうね。潤が、そんな風に思っているのに、私も無理強いするつもりは、さらさらない。まあ、私には譲も昴もいるから、潤がいなくなっても、いっこうにかまわないよ」
潤は、不安そうな顔になり、黙ってしまった。
「もし、私や大洗家と距離を置きたいのだったら、潤は、ここに毎週帰ってくるのは、やめたらいいんじゃないか?」
おじ様は、さらに提案した。潤が言った。
「そんなの嫌だ。俺が捨てられるみたいじゃないか。俺の家なのに、なんで帰ってきちゃいけないの?」
「帰ってきちゃいけないなんて私は一言も言ってないだろう? 虐待されたとか言い出したのは潤じゃないか。虐待されているだとか思うようなら、ここに帰ってこない方がいいだろう」
おじ様は、冷静そうに、だが、少し意地悪く言うと、潤は目をうるませた。
「だって、俺の家なのに……」
潤の涙が、蝋燭の灯りに照らされて、きらきら頬に光った。
「じゃあ、潤は、どうすれば満足なんだ?」
おじ様が、潤の涙を見ても心一つ動かされないようすで尋ねた。
「過剰なセックスを必要としないくらいに、癒されたい」
潤は答えた。
「どうやって?」
「どうやってかは、わからないけれど、あらゆる手段を使って、癒されたい」
「ほう」
「で、そのお金は、叔父様が払ってほしい」
「なぜ?」
「叔父様が、原因だからだよ」
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