潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第十五章 晩餐にて

権利とやせ我慢のはざま

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 潤は、まじめくさった顔で続けた。斜にかまえていない、真剣な潤は、ちょっと可愛いかった。
「奴隷身分でなく、将来市民になる予定の少年を、支配し、快楽の対象に利用していいなどとは、古代ギリシャ人も思わなかったんだ」
潤は、以前、自分が支配され、快楽の対象にされていることを当たり前と思っているようだった。それが、今は、権利のある市民であれば、たとえ少年でも、支配されたり、利用されたりすることに、あまんじている必要はないのだ、と気づきはじめたようだった。
「潤、前と考え変わったでしょ?」
瑶は、聞いた。
「うん。瑤のおかげだよ」
潤は、自分の考えが変わったことを認めた。潤は、ちょっとでも自分が否定されたと感じると、ひどく不機嫌になることが多く、自分が間違っているとわかっても意固地に考えを変えないところがあったが、あっさり認めたのだ。
「僕は、何もしてないよ」
瑶は言った。
「うん、それが重要なんだ。無理強いされたくないから」
潤が答えた。確かに自分が間違っていると言われると、潤は、ムキになる。不安なんだろう。なんであれ、心の指針になるものを持っていたいのだろう。
「俺は、自分の考えとか、ないと思ってたけど、それは、奴隷身分に落とされていたからで、ほんとは、あったんだよ」
潤は、自分の境遇を古代ギリシャの身分制度になぞらえて説明した。
「それは、そう思うよ」
人間はそれぞれ違った肉体をもつ以上、その肉体を安全に保てるように、自分を守るためのそれぞれ違った考えがあって当たり前だと瑶は思った。潤が、自分の考えがなく相手に合わせているように見えたのは、そうしないと生きていけなかったからだと思った。
「瑶が、俺の、でたらめな生活に入ってきてくれたことが、嬉しかったんだ」
潤の表情は、例によって、無表情になっていたので、あまり、嬉しいという感じは、瑶に伝わってこなかった。
 むしろ、哀れな、捨てられた少年、必死で、虐待相手にしがみついて愛されることを願っている小さな子どものように思えた。
 瑶は、瑶の親の事務所に相談にくる人や子どもで、潤に似た痛みを抱えた人たちについて、よく見知っていた。
「潤、無理してない?」
瑶は、潤をこわがらせないように気づかって微笑みながら潤に聞いた。
「ほんとは、譲さんに叔父様をとられて悲しいんでしょ?」
瑶が、追及すると、
「人ががまんしてるのに、はっきり言うなよ」
潤が、怒った顔をした。
「瑤なんか嫌いだ」
潤が、ぷいっと顔をそむけた。
「潤は、おじ様が好きなんだね」
瑶が、問うと、
「そうだよ」
ぶんっと瑶の方に顔をふりむけて、ひらき直ったように挑戦的に肯定した。
「俺、瑤と違うから」
と、意地を張ったように潤は答えた。
「瑤は、俺が他の人と寝てるの嫌なんだろ?」
と、潤が聞いてきた。瑶がうなずくと、潤は、
「でも、俺、別に、そういうの平気だし」
と言い放った。とても平気そうには見えなかったけれど、やせ我慢しているのだろう。
「それに叔父様は、譲に気があるわけじゃなくて、従わせておきたいだけだから」
と潤は、冷静な分析をしてみせた。
「下に置いておきたいから、配下にしたいから、マウンティング行為なんだよ、あれは」
潤は説明した。潤は、一生懸命、痛みに耐えて、必死で、自己の矜恃を保っているように見えた。無理しちゃって、ほんとは動揺してるくせに、と瑶は思った。
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