潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第十六章

問わず語り 10

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「もう、そんなことしたくないけどね」

潤は、僕を安心させるように微笑んで言った。

「負けたくなかったんだね?」

「うん。負けたくなかった。でも、俺は、そんなにエロのことばっかり考えてる人間じゃないんだ」

「でも、そう見えるよ」

僕は、潤を傷つけないように、冗談めかして指摘した。

「うん、俺もそう思う。まだまだだめだなあ」

「だめじゃないけど、きっと、まだ、事件の影響を引きずってるんだね」

僕は、潤をいたわって言った。

潤は、言いづらそうに打ち明けた。

「事件の影響は、直後の最悪だった時よりは、薄らいでると思うんだけど……そこまで常に強烈に、死にたいとは、思わなくなったから」

えええ?  強烈に常にって。

「常にとか、強烈でなく思うってこと?」

僕は、おそるおそる聞き返した。

「誰でもそうじゃない?」

潤は、諦めのように微笑みながら言った。

「違うと思うよ」

僕は、慌てて首を振った。

潤を傷つけない程度に。

「時々強烈に思うだけだから、大丈夫だよ」

潤は、僕に心配をかけまいとするためだろう、微笑みを見せた。

「時々ってどのくらいの頻度で?」

僕は確認した。

「一時間に一回くらいかな」

それって常にじゃないんだ!?

「前の頻度はどうだったの?」

「一秒に5回くらい」

コンマ単位!

「それに比べたら楽だからよかった。瑤のおかげかも」

潤の唇だけが笑っていた。

「違うよ、それ、潤の、類いまれなる精神力のなせる技だよ」

僕は少なからず動揺していた。

「ううん。今だから言うけど、瑤がいなかったら、本当にまずかった」

潤は、唇の微笑みを消さない努力をしているような唇だけの笑顔で打ち明けてきた。

「え、だって、僕と仲良くなったのって最近じゃない?」

「最近でも、かなりやばかったから」

やっぱり、大丈夫じゃなさそうだ。

毎日そんなこと思うなんて重症だ。

おじ様は、そこまで潤が重症だって、知らないのだろうか?

それとも、知っていても病院に連れていったりしないのかな?

他人にいろいろなことがバレるのがまずいからって。

「だから、瑤を巻き込んで悪いとは思うけど、でも、瑤がいてくれてよかった」

潤は僕に感謝を述べた。

その言葉を、潤は心をこめて言っているつもりだろうが、それは、悲しいことに、どこか空々しく、実感がともなっていなように聞こえた。
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