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第十三章 潤の記憶
潤とコウ
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洋講堂の喫茶室で、潤は、譲の恋人のコウと二人でいた。
「俺、兄さんに似てる?」
「うん、顔立ちが似てる。やっぱり兄弟だね」
「そう?」
コウは、譲と潤が本当の兄弟だと思っているらしかった。
叔父や従兄たちと、似ていると言ってもらえると、潤は、ほっとした。だましているような、本当は違うのに、という落ち着かない気持ちもあったが、血がつながっているのだから他人から見たら多少は似ているのだろう。
「顔以外は?」
「身体つきは全然違うよね。譲は高校生の時から、もっとたくましかったよ」
コウが微笑んだ。譲は、ずっと運動部だったので、そうかもしれない。
「あそこは?」
潤がきわどいことを尋ねてみた。
「そんなこと聞くの?」
コウが笑った。
「聞かなくても自分でわかるでしょ」
「兄さんは大きいのに、俺は小さい」
コウが譲を好きな要因を、潤が、あれこれ考えたあげくの質問だった。
「そんなことないよ。成長途中だし、潤は、もっと背が伸びるんじゃない?」
コウは話しをそらした。
「だといいけど。でも大きさって今から、そんなに変わるのかなあ。見てみて」
「いや、見せてもらわなくてもいいよ」
コウが慌てたように顔の前で手を振って言った。
潤は、うつむいた。
「どうしたの」
コウが心配そうに尋ねてきた。
「コウさん」
潤はコウの腕に取り付いた。
「何?」
「キスして」
「キスだけですまないから、だめ」
肩を押し戻された。
「今日は、がまんするから」
「いつも、そういうけど、結局、がまんできないよね? 潤は」
「いじわる」
「乳首触って、っておねだりしてくるよね」
「だって……」
「乳首だけで、がまんできる?」
「いっちゃう」
「乳首だけで、いっちゃうの?」
コウの指先が、潤の胸をシャツの上から摘んだ。
「いやぁ、いじめちゃイヤ」
「虐めて欲しいくせに」
潤とコウは、ソファに並んで座り、長い時間をかけて少しずつキスをした。
潤は、すぐにでも、ディープなキスが欲しいのに、できれば、そのままソファに押し倒してほしいのに。コウの唇は潤の頬や瞼に落ちるだけだ。
「早く、コウさん、キス」
潤が、唇を突き出すと、コウは、潤の唇に人差し指を当てた。コウの指が、サディスティックな強さで潤の唇に押し付けられた。
「いいなぁ、譲は、こんな可愛い弟がいて」
「うらやましい?」
「うん」
「俺は、コウさんの弟なんかになりたくない」
「そんなに嫌い?」
「違う。好きだから」
潤が、コウの目を、じっと見て言った。
「潤、高校卒業したら」
潤は期待した。
「俺と組んで仕事する? デート相手、絶対リピートするよ」
なんだ、そんなこと。潤は、ため息をついた。
「その仕事、お客さんと寝たらいけないんでしょ?」
「エッチなことは、しないよ」
「だったら、無理」
「ええ?」
「だって、俺、絶対、寝ちゃうもん」
「そんなにガードゆるいの? 潤君」
「そうだよ」
「そうだよって、もうちょっと、自分を大事にしなよ」
「これでも、すっごく警戒してるんだよ?」
潤は言った。
「警戒?」
コウが聞き返した。
「なるべく人と話さないように、親しくならないように、気をつけてるの」
「そうなんだ?」
「でも、そうすると、親しい友達できないし。あ、一応、広く浅く友達っぽい人たちは、できるよ? でも、心をわって話せる、親友ができない。親しくなるのが怖いんだよね」
「怖い?」
「うん。だって、相手がエッチなことしたがってるってわかると、してあげなくちゃって思ってしまうから」
「そんなこと、潤が、したくなかったら、してあげなくて、いいんだよ?」
「ううん、したくなっちゃうの」
「してあげたいの? したいの? 潤の気持ちは、どっち?」
「うーん、相手の気持ちが、俺の気持ち」
「それじゃあ、大変だね……」
「うん、大変なの」
潤は、コウに甘えて抱きついた。
「ねえ、大変な俺を慰めて。俺、どうしたらいいか、わからないんだ」
「困ったね」
「自分の気持ちが、一番わからないよ。見るのが怖い。自分のこと見るのが怖い」
「そうか。潤、こんなに、きれいな顔してるのに?」
「顔とか外見じゃないよぉ」
「そうか、ごめん」
コウさんが笑った。
「潤は、鏡見るの好きだもんな?」
コウは言った。
「いじわる」
潤は、コウの首筋を甘噛みした。
「あ、こら」
「自分の心を見るのが怖いの。過去とか、記憶とか、怖い」
「怖いなら、見なきゃいいのに」
コウは、甘い誘惑のようにささやいた。
「そうしたいんだけど、記憶の淵から、亡霊みたいに、たくさん妖気が、湧き上がってきて、悪夢で、俺を脅かすんだ」
コウに抱きついてつぶやく、潤の緊張した背中を、コウが優しく撫でた。
「気持ちいい、コウさんの手。好き」
「そう?」
「うん」
「潤みたいなことで悩んでるお客さん、よくいるよ。みんな怖いんだよ。過去の記憶が」
「みんなは、どうしてるのかな?」
「今は、いろんな、癒し方が、あるらしいよ」
「ふうん。俺も、楽になりたいんだけど。過去の亡霊から、逃れたい」
「潤は、現在の亡霊もありそうだね」
「どうしてわかるの?」
「なんとなく。同類の匂い」
「同類?」
コウが唇で、潤の唇をふさいだ。
すぐに離れた唇。
「ずるい、こんな時ばっかり」
コウの、白シャツの開いた胸元から、サンダルウッドとムスクの香りが立ち上った。潤は、コウの体臭とまじったその香りを吸い込んだ。
「あれ? 嬉しくないの?」
「俺、兄さんに似てる?」
「うん、顔立ちが似てる。やっぱり兄弟だね」
「そう?」
コウは、譲と潤が本当の兄弟だと思っているらしかった。
叔父や従兄たちと、似ていると言ってもらえると、潤は、ほっとした。だましているような、本当は違うのに、という落ち着かない気持ちもあったが、血がつながっているのだから他人から見たら多少は似ているのだろう。
「顔以外は?」
「身体つきは全然違うよね。譲は高校生の時から、もっとたくましかったよ」
コウが微笑んだ。譲は、ずっと運動部だったので、そうかもしれない。
「あそこは?」
潤がきわどいことを尋ねてみた。
「そんなこと聞くの?」
コウが笑った。
「聞かなくても自分でわかるでしょ」
「兄さんは大きいのに、俺は小さい」
コウが譲を好きな要因を、潤が、あれこれ考えたあげくの質問だった。
「そんなことないよ。成長途中だし、潤は、もっと背が伸びるんじゃない?」
コウは話しをそらした。
「だといいけど。でも大きさって今から、そんなに変わるのかなあ。見てみて」
「いや、見せてもらわなくてもいいよ」
コウが慌てたように顔の前で手を振って言った。
潤は、うつむいた。
「どうしたの」
コウが心配そうに尋ねてきた。
「コウさん」
潤はコウの腕に取り付いた。
「何?」
「キスして」
「キスだけですまないから、だめ」
肩を押し戻された。
「今日は、がまんするから」
「いつも、そういうけど、結局、がまんできないよね? 潤は」
「いじわる」
「乳首触って、っておねだりしてくるよね」
「だって……」
「乳首だけで、がまんできる?」
「いっちゃう」
「乳首だけで、いっちゃうの?」
コウの指先が、潤の胸をシャツの上から摘んだ。
「いやぁ、いじめちゃイヤ」
「虐めて欲しいくせに」
潤とコウは、ソファに並んで座り、長い時間をかけて少しずつキスをした。
潤は、すぐにでも、ディープなキスが欲しいのに、できれば、そのままソファに押し倒してほしいのに。コウの唇は潤の頬や瞼に落ちるだけだ。
「早く、コウさん、キス」
潤が、唇を突き出すと、コウは、潤の唇に人差し指を当てた。コウの指が、サディスティックな強さで潤の唇に押し付けられた。
「いいなぁ、譲は、こんな可愛い弟がいて」
「うらやましい?」
「うん」
「俺は、コウさんの弟なんかになりたくない」
「そんなに嫌い?」
「違う。好きだから」
潤が、コウの目を、じっと見て言った。
「潤、高校卒業したら」
潤は期待した。
「俺と組んで仕事する? デート相手、絶対リピートするよ」
なんだ、そんなこと。潤は、ため息をついた。
「その仕事、お客さんと寝たらいけないんでしょ?」
「エッチなことは、しないよ」
「だったら、無理」
「ええ?」
「だって、俺、絶対、寝ちゃうもん」
「そんなにガードゆるいの? 潤君」
「そうだよ」
「そうだよって、もうちょっと、自分を大事にしなよ」
「これでも、すっごく警戒してるんだよ?」
潤は言った。
「警戒?」
コウが聞き返した。
「なるべく人と話さないように、親しくならないように、気をつけてるの」
「そうなんだ?」
「でも、そうすると、親しい友達できないし。あ、一応、広く浅く友達っぽい人たちは、できるよ? でも、心をわって話せる、親友ができない。親しくなるのが怖いんだよね」
「怖い?」
「うん。だって、相手がエッチなことしたがってるってわかると、してあげなくちゃって思ってしまうから」
「そんなこと、潤が、したくなかったら、してあげなくて、いいんだよ?」
「ううん、したくなっちゃうの」
「してあげたいの? したいの? 潤の気持ちは、どっち?」
「うーん、相手の気持ちが、俺の気持ち」
「それじゃあ、大変だね……」
「うん、大変なの」
潤は、コウに甘えて抱きついた。
「ねえ、大変な俺を慰めて。俺、どうしたらいいか、わからないんだ」
「困ったね」
「自分の気持ちが、一番わからないよ。見るのが怖い。自分のこと見るのが怖い」
「そうか。潤、こんなに、きれいな顔してるのに?」
「顔とか外見じゃないよぉ」
「そうか、ごめん」
コウさんが笑った。
「潤は、鏡見るの好きだもんな?」
コウは言った。
「いじわる」
潤は、コウの首筋を甘噛みした。
「あ、こら」
「自分の心を見るのが怖いの。過去とか、記憶とか、怖い」
「怖いなら、見なきゃいいのに」
コウは、甘い誘惑のようにささやいた。
「そうしたいんだけど、記憶の淵から、亡霊みたいに、たくさん妖気が、湧き上がってきて、悪夢で、俺を脅かすんだ」
コウに抱きついてつぶやく、潤の緊張した背中を、コウが優しく撫でた。
「気持ちいい、コウさんの手。好き」
「そう?」
「うん」
「潤みたいなことで悩んでるお客さん、よくいるよ。みんな怖いんだよ。過去の記憶が」
「みんなは、どうしてるのかな?」
「今は、いろんな、癒し方が、あるらしいよ」
「ふうん。俺も、楽になりたいんだけど。過去の亡霊から、逃れたい」
「潤は、現在の亡霊もありそうだね」
「どうしてわかるの?」
「なんとなく。同類の匂い」
「同類?」
コウが唇で、潤の唇をふさいだ。
すぐに離れた唇。
「ずるい、こんな時ばっかり」
コウの、白シャツの開いた胸元から、サンダルウッドとムスクの香りが立ち上った。潤は、コウの体臭とまじったその香りを吸い込んだ。
「あれ? 嬉しくないの?」
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