潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第十三章 潤の記憶

瑶との仲

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「潤は、ヨウ君と付き合うなら、その方がいいよ。ヨウ君は、いい子そうだし。親父なんかと、いつまでも、付き合ってたら、本当、一生逃れられないぜ?」
譲が、意外に真面目な様子で、潤に忠告してきた。
「瑶とは、遊びの関係だよ」
潤が何の気なしに言うと、
「えっ」
と、瑶が小さく叫んで、その少年らしい美しげな手からフォークを白い皿の上に滑り落とした。
「潤、その発言は、あんまりだろ? 撤回しろよ」
譲も慌てたようすで、とりなすように潤に言ってきた。潤は答えた。
「瑶は、いい奴だと思うし、俺なんかに付き合ってくれて、貴重な人間だとは思うよ。でも、譲や、叔父様と比べてしまうと……」
瑶が、潤の左隣で椅子をガタッと鳴らし立ちあがった。譲も、潤の右隣で、瑶を心配するように立ちあがった。
 瑶は席をはずし潤に背を向けたまま、テラスから室内へと逃げこもうとしたようだった。その瑶の腕を、譲がすばやく捕まえて、言った。
「ごめん、ヨウ君。潤に代わって、兄の俺から謝るよ。せっかく潤の友達になってくれたのに、ひどいよな。ごめんな?」
譲は瑶をなだめるように謝っていた。
「おい、潤も、ヨウ君に謝れよ」
譲は潤を振り返って言った。潤は言った。
「瑶、ごめん。でも、それが今の正直な気持ちだから。期待させても悪いし。期待なんてしてないかもしれないけど」
瑶の背中が震えていた。瑶が、譲の胸に抱きついて泣きだした。譲が瑶を抱きながら
「おい、潤、その言い方はないだろう?」
「瑶とエッチするのは、かまわないよ? 瑶は可愛いし。そういう意味では、付き合ってもいいと思う。瑶になら、挿れてみたいって思うし」
「は? お前、こんなときに何言ってんの?」
譲が、眉根を寄せて言った。
「そういうんじゃないだろ?」
「俺は、本当のこと言った方がいいと思って」
「ひどいな、お前」
譲が批難した。
 瑶が、ひっくひっく泣いていた。
「早く言った方がいいと思って」
「い、いいです。無理に謝らなくて」
瑶が顔を隠して、泣きながら言った。
「潤が、どう思ってるのか、ずっと不安だった。でも、もう、わかったからいいです」
瑶は、また譲の胸にしがみついて泣いた。譲が、瑶の背中をなでてあやしながら、
「あーあ、女の子、泣かせちゃって。潤はー、悪い男だなー」
と言った。
「僕、女の子じゃないですしっ、いいんですっ」
瑶は、嗚咽にむせびながら言った。無理をしてるのが見え見えだった。潤は、困った。
「あー、えーと。まあ、上級生と付き合うくらいだったら、同級生のがいいと思うよ。うちの高校、上下関係が厳しいから。俺、そういうの苦手で。面倒なんだよ。それに、瑶は、同じクラスだし、クラスの中では、一番可愛いんじゃないかな。俺を抜かして。あ、俺は、可愛いとかいうタイプじゃないか。えーと、俺は、きれい? ん? 美人? んーと、あっ、俺の話じゃなかった。で、瑶は、学年の中でも、相当可愛い方だと思うよ。だからさ、見た目でいったら、だんぜん、瑶は可愛いから」
潤は、慌てて、ナルシストぶりまで発揮してしまった。
「うわーん、それひどいよ中身が可愛いくないって言ってる」
瑶が涙を手の甲で拭きながら言った。譲が瑶にティッシュを渡したので、瑶は鼻をかんでいた。潤は言った。
「うーんと、中身も可愛いよ。ウブだから可愛い。反応が可愛いよ」
瑶の嗚咽が止まった。ほっとした潤は、うっかり、
「ウブだから、なびかせるのも簡単だったしね」
と言ってしまった。
「うわー」
瑶がまた泣き出してしまった。
「おい、潤、失言だぞ。なんとかしろよ」
譲が、泣く瑶の肩に手を置いて、弱りきったように言った。
「あの、俺には、瑶が必要なんだよ」
譲が、その調子、というように、潤に向かって、うんうん頷いて見せた。
「あの、俺、一人だといられないタイプだから。でも、事件のせいで、警戒心が強くなっちゃって、人といるのが、きついんだよね。俺って空気読みすぎなとこあるし。だから一人でいるけど、本当は、俺、友達といっしょにいたいんだよ」
瑶の嗚咽が再び静かになって、瑶の背中が、潤の言葉に耳を傾けているように見えた。
「だから、瑶をひっかけたんだ」
潤は、また、ほっとしたあまり、余計な、まとめをしてしまった。瑶が、また、
「うっ」
と泣きかけた。
「潤っ」
譲が、怖い顔をして見せていた。そんなこと言ったって、と潤は、困った。
「あの、俺、瑶を傷つけたり、瑶と喧嘩したいわけじゃないんだ。そういうの苦手だし。困っちゃうな。なんて言ったらいいんだろ」
「いっ、いいよ。ふられるなら、なんて言われても同じだもん」
瑶が、ぐずぐずいわせている鼻をティッシュで押さえながら、半分振り返って言った。
「だよね」
潤は相づちをうった。譲が、瑶に鼻をかませていた。半分振り向いた瑶の顔が涙でぐしゃぐしゃだった。
「俺、けっこう年上が好きなんだよね。だけどさ、大人が、高校生と付き合うことできないから、困っちゃうんだよな。相手がつかまったり、俺も補導されたり、なんて嫌だから」
譲が、甲斐甲斐しく、瑶の世話をやいていた。
「瑶なら、同じ年の高校生同士、多少のことでは、とがめられないと思ったんだ」
潤は、真面目な気持ちで言ったのだが、
「もう、もう、いいよ潤。それ以上、言わないで」
と瑶は、潤の説明を拒んだ。
「あ、いや、俺、対等な関係で寝たいし、友達ほしいし。たかが一つや二つ上の上級生に一方的にやられるのって、いやなんだよ。同じ年頃同士なら。それに、俺だって、たまには抱きたいのにさ。譲とかなら、抱かれて、嬉しいけど。譲とか、叔父様くらい、余裕ある人にしか、抱いてほしくないんだよね。でも、そうも言ってられないから」
潤は、どんどん墓穴を掘っているような気がした。
「潤は、外見とエッチのことしか、考えてないんだ?」
瑶が、涙も枯れ果てたように言った。
「あ? え? だって、その話だろ?」
恋人の話に、外見とエッチと、あと何があったっけ? と潤は、思った。
「いいよ、それならそれで、僕だって、遊びで付き合うから」
瑶が怒ったように言った。
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