89 / 366
第十二章 テラスにて
譲の心配
しおりを挟む
潤の従兄である譲が、自分の父のことを潤に愚痴った。
「前までは、俺の前では、潤といちゃつくのを控えてたのに。最近では、逆に、まるで潤との関係を俺に見せつけるようにする」
「瑤が来てるから、叔父様も興奮してるんじゃないの?」
潤が、テラスでの裸ランチを楽しんでいる表情で答えた。
「対抗意識かな」
譲は思案げだ。
「誰に対して、張り合ってるの?」
潤は、たずねた。
「全員。潤をめぐる争い。潤、総受けってやつだから」
譲の答えに、
「何それ」
潤は、蒸し地鶏の、骨のまわりの肉をかじってから鼻で笑った。
「潤、昴とは、どうなの?」
昴とは、譲の弟のことであるらしい。
「どうって?」
潤は聞いた。
「最近、潤は昴とやってんの?」
「いいや?」
「うそ、潤と毎晩いて、発情しないなんて男じゃないな」
譲は、驚いたような、安心したような顔つきで言った。
「いや、男は、男に発情しないのがマジョリティだから」
潤は、言ってから、空豆の薄皮をつまんで中身の緑色の豆を口に入れた。
「よく知ってるな」
譲が、当たり前のことを、ご苦労さん、というように言った。
「それくらいわかってる。一応、俺は、バイだし」
潤も殊勝そうに言い返した。
「ああ、俺だって、親父だって、みんなバイだろ」
「だねぇ。譲のことは知らないけど」
潤は、譲の様子をうかがうように応えた。
「俺だって、将来結婚するからな」
譲は、潤に、張りあうように言った。
「あっ、そうなんだ?」
潤は、笑った。
「なんだよ、その余裕」
「俺、もう、子ども仕込んだし」
「てめえ、殴るぞ。そんな口、今度きいたらぶっ殺す。人の母親を犯しやがって」
また物騒な話になった。
「ごめんなさい。でも、光源氏だって、継母との間にできた息子が帝になって、自分は帝の後見人で」
潤が言うと、
「で、親戚の少年をそのうち拾ってくるわけか」
譲が、憤ったまま言った。
「それは、しないよ」
「四人の男をこの家に住まわせるとかやめろよ?」
瑶は、あり得ない話ではないと思った。
「だから、しないって」
「本当だな?」
「先のことなんて考えられないよ」
潤が、ファルファッレを取り皿に取った。
「ああ、潤が女だったらなあ」
譲がモモ肉にかぶりつこうとしながら、嘆息した。
「それは最悪だね」
潤が、逃げるファルファッレを、ステンレスのフォークで突き刺して言った。
「同意」
瑶も話に加わった。
「潤は、男なのに、こんなにみんなに狙われて心休まることのない日々をおくっているのだから、女性だったら、もっと大変そう」
「だね」
潤が同意した。
「うーん、でも、女性のが、聖書と反対で、人間の原型とも言われるから強いのかな」
瑶が考え直して言うと、
「男のが自殺率高いし」
と潤も言いだした。瑶は、慌てて、
「それは社会的な理由じゃない?」
とフォローしたが、
「男のが短命だし」
と潤は気弱なことを言った。あげく、
「俺、将来結婚できない気がする」
などと言うので、
「ないない、潤もてるし」
と瑶が言うと、
「だって、俺が誰と寝てるか知ったら、みんな引くよ。引かないのは、瑤くらいだろ」
潤が、意外と現実的なことを言った。
瑶は、励ますように言った。
「僕だけということは、ないと思うよ。家族療法や依存症治療や、性虐待、性暴力に詳しい、経験のあるカウンセラーだったら、ひかないで話しを聞いてくれると思うよ。知識のない人に話したら、悪気はなくとも、防衛的な反応をされて、心ないことを言われる可能性も大きいと思うけど」
潤は、譲の手前もあるのか、黙っていた。
「もう、これからは、人に言えないような人とは関係するのをやめればいいじゃない?」
瑶は、潤に言った。すると、潤は、
「過去の事実は、消せないし」
などと、暗い顔をして、自分を責め、裁くように言った。
「それに、一番の問題は、自分でも、やめられる自信がないってことだな」
潤は、悲しそうに言った。
「みんな同級生は、俺みたいに、家族と寝たりしないってことくらい、本当は知ってるんだ。だから、自分でも、やめたいとは思うんだけど」
と、困ったように、潤は悲観的に言った。
「今、潤が、そう思うのは、事実だと思うよ。だけど過去の事実って、記憶だから。間違って認識している事実は、とらえ方を変えることができるから。潤が自分を責めている事実も、考え方を変えたら……」
と瑶が続けようとすると、
「潤が女だったら、潤と結婚するぜ」
と譲が、瑶の話しを乱暴に遮った。せっかく潤が自分に向き合いかかったのに、譲がぶち壊しにきた。
「兄弟だから無理」
潤も、譲の横暴にムッとしたのか、譲の求婚を冷たくはねのけた。
「従兄弟だから平気だ」
と譲が言えば、
「俺、男だし」
と事実を言った。
「前までは、俺の前では、潤といちゃつくのを控えてたのに。最近では、逆に、まるで潤との関係を俺に見せつけるようにする」
「瑤が来てるから、叔父様も興奮してるんじゃないの?」
潤が、テラスでの裸ランチを楽しんでいる表情で答えた。
「対抗意識かな」
譲は思案げだ。
「誰に対して、張り合ってるの?」
潤は、たずねた。
「全員。潤をめぐる争い。潤、総受けってやつだから」
譲の答えに、
「何それ」
潤は、蒸し地鶏の、骨のまわりの肉をかじってから鼻で笑った。
「潤、昴とは、どうなの?」
昴とは、譲の弟のことであるらしい。
「どうって?」
潤は聞いた。
「最近、潤は昴とやってんの?」
「いいや?」
「うそ、潤と毎晩いて、発情しないなんて男じゃないな」
譲は、驚いたような、安心したような顔つきで言った。
「いや、男は、男に発情しないのがマジョリティだから」
潤は、言ってから、空豆の薄皮をつまんで中身の緑色の豆を口に入れた。
「よく知ってるな」
譲が、当たり前のことを、ご苦労さん、というように言った。
「それくらいわかってる。一応、俺は、バイだし」
潤も殊勝そうに言い返した。
「ああ、俺だって、親父だって、みんなバイだろ」
「だねぇ。譲のことは知らないけど」
潤は、譲の様子をうかがうように応えた。
「俺だって、将来結婚するからな」
譲は、潤に、張りあうように言った。
「あっ、そうなんだ?」
潤は、笑った。
「なんだよ、その余裕」
「俺、もう、子ども仕込んだし」
「てめえ、殴るぞ。そんな口、今度きいたらぶっ殺す。人の母親を犯しやがって」
また物騒な話になった。
「ごめんなさい。でも、光源氏だって、継母との間にできた息子が帝になって、自分は帝の後見人で」
潤が言うと、
「で、親戚の少年をそのうち拾ってくるわけか」
譲が、憤ったまま言った。
「それは、しないよ」
「四人の男をこの家に住まわせるとかやめろよ?」
瑶は、あり得ない話ではないと思った。
「だから、しないって」
「本当だな?」
「先のことなんて考えられないよ」
潤が、ファルファッレを取り皿に取った。
「ああ、潤が女だったらなあ」
譲がモモ肉にかぶりつこうとしながら、嘆息した。
「それは最悪だね」
潤が、逃げるファルファッレを、ステンレスのフォークで突き刺して言った。
「同意」
瑶も話に加わった。
「潤は、男なのに、こんなにみんなに狙われて心休まることのない日々をおくっているのだから、女性だったら、もっと大変そう」
「だね」
潤が同意した。
「うーん、でも、女性のが、聖書と反対で、人間の原型とも言われるから強いのかな」
瑶が考え直して言うと、
「男のが自殺率高いし」
と潤も言いだした。瑶は、慌てて、
「それは社会的な理由じゃない?」
とフォローしたが、
「男のが短命だし」
と潤は気弱なことを言った。あげく、
「俺、将来結婚できない気がする」
などと言うので、
「ないない、潤もてるし」
と瑶が言うと、
「だって、俺が誰と寝てるか知ったら、みんな引くよ。引かないのは、瑤くらいだろ」
潤が、意外と現実的なことを言った。
瑶は、励ますように言った。
「僕だけということは、ないと思うよ。家族療法や依存症治療や、性虐待、性暴力に詳しい、経験のあるカウンセラーだったら、ひかないで話しを聞いてくれると思うよ。知識のない人に話したら、悪気はなくとも、防衛的な反応をされて、心ないことを言われる可能性も大きいと思うけど」
潤は、譲の手前もあるのか、黙っていた。
「もう、これからは、人に言えないような人とは関係するのをやめればいいじゃない?」
瑶は、潤に言った。すると、潤は、
「過去の事実は、消せないし」
などと、暗い顔をして、自分を責め、裁くように言った。
「それに、一番の問題は、自分でも、やめられる自信がないってことだな」
潤は、悲しそうに言った。
「みんな同級生は、俺みたいに、家族と寝たりしないってことくらい、本当は知ってるんだ。だから、自分でも、やめたいとは思うんだけど」
と、困ったように、潤は悲観的に言った。
「今、潤が、そう思うのは、事実だと思うよ。だけど過去の事実って、記憶だから。間違って認識している事実は、とらえ方を変えることができるから。潤が自分を責めている事実も、考え方を変えたら……」
と瑶が続けようとすると、
「潤が女だったら、潤と結婚するぜ」
と譲が、瑶の話しを乱暴に遮った。せっかく潤が自分に向き合いかかったのに、譲がぶち壊しにきた。
「兄弟だから無理」
潤も、譲の横暴にムッとしたのか、譲の求婚を冷たくはねのけた。
「従兄弟だから平気だ」
と譲が言えば、
「俺、男だし」
と事実を言った。
0
お気に入りに追加
276
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる