潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第十二章 テラスにて

譲の心配

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 潤の従兄である譲が、自分の父のことを潤に愚痴った。
「前までは、俺の前では、潤といちゃつくのを控えてたのに。最近では、逆に、まるで潤との関係を俺に見せつけるようにする」
「瑤が来てるから、叔父様も興奮してるんじゃないの?」
潤が、テラスでの裸ランチを楽しんでいる表情で答えた。
「対抗意識かな」
譲は思案げだ。
「誰に対して、張り合ってるの?」
潤は、たずねた。
「全員。潤をめぐる争い。潤、総受けってやつだから」
譲の答えに、
「何それ」
潤は、蒸し地鶏の、骨のまわりの肉をかじってから鼻で笑った。
「潤、昴とは、どうなの?」
昴とは、譲の弟のことであるらしい。
「どうって?」
潤は聞いた。
「最近、潤は昴とやってんの?」
「いいや?」
「うそ、潤と毎晩いて、発情しないなんて男じゃないな」
譲は、驚いたような、安心したような顔つきで言った。
「いや、男は、男に発情しないのがマジョリティだから」
潤は、言ってから、空豆の薄皮をつまんで中身の緑色の豆を口に入れた。
「よく知ってるな」
譲が、当たり前のことを、ご苦労さん、というように言った。
「それくらいわかってる。一応、俺は、バイだし」
潤も殊勝そうに言い返した。
「ああ、俺だって、親父だって、みんなバイだろ」
「だねぇ。譲のことは知らないけど」
潤は、譲の様子をうかがうように応えた。
「俺だって、将来結婚するからな」
譲は、潤に、張りあうように言った。
「あっ、そうなんだ?」
潤は、笑った。
「なんだよ、その余裕」
「俺、もう、子ども仕込んだし」
「てめえ、殴るぞ。そんな口、今度きいたらぶっ殺す。人の母親を犯しやがって」
また物騒な話になった。
「ごめんなさい。でも、光源氏だって、継母との間にできた息子が帝になって、自分は帝の後見人で」
潤が言うと、
「で、親戚の少年をそのうち拾ってくるわけか」
譲が、憤ったまま言った。
「それは、しないよ」
「四人の男をこの家に住まわせるとかやめろよ?」
瑶は、あり得ない話ではないと思った。
「だから、しないって」
「本当だな?」
「先のことなんて考えられないよ」
潤が、ファルファッレを取り皿に取った。
「ああ、潤が女だったらなあ」
譲がモモ肉にかぶりつこうとしながら、嘆息した。
「それは最悪だね」
潤が、逃げるファルファッレを、ステンレスのフォークで突き刺して言った。
「同意」
瑶も話に加わった。
「潤は、男なのに、こんなにみんなに狙われて心休まることのない日々をおくっているのだから、女性だったら、もっと大変そう」
「だね」
潤が同意した。
「うーん、でも、女性のが、聖書と反対で、人間の原型とも言われるから強いのかな」
瑶が考え直して言うと、
「男のが自殺率高いし」
と潤も言いだした。瑶は、慌てて、
「それは社会的な理由じゃない?」
とフォローしたが、
「男のが短命だし」
と潤は気弱なことを言った。あげく、
「俺、将来結婚できない気がする」
などと言うので、
「ないない、潤もてるし」
と瑶が言うと、
「だって、俺が誰と寝てるか知ったら、みんな引くよ。引かないのは、瑤くらいだろ」
潤が、意外と現実的なことを言った。
 瑶は、励ますように言った。
「僕だけということは、ないと思うよ。家族療法や依存症治療や、性虐待、性暴力に詳しい、経験のあるカウンセラーだったら、ひかないで話しを聞いてくれると思うよ。知識のない人に話したら、悪気はなくとも、防衛的な反応をされて、心ないことを言われる可能性も大きいと思うけど」
潤は、譲の手前もあるのか、黙っていた。
「もう、これからは、人に言えないような人とは関係するのをやめればいいじゃない?」
瑶は、潤に言った。すると、潤は、
「過去の事実は、消せないし」
などと、暗い顔をして、自分を責め、裁くように言った。
「それに、一番の問題は、自分でも、やめられる自信がないってことだな」
潤は、悲しそうに言った。
「みんな同級生は、俺みたいに、家族と寝たりしないってことくらい、本当は知ってるんだ。だから、自分でも、やめたいとは思うんだけど」
と、困ったように、潤は悲観的に言った。
「今、潤が、そう思うのは、事実だと思うよ。だけど過去の事実って、記憶だから。間違って認識している事実は、とらえ方を変えることができるから。潤が自分を責めている事実も、考え方を変えたら……」
と瑶が続けようとすると、
「潤が女だったら、潤と結婚するぜ」
と譲が、瑶の話しを乱暴に遮った。せっかく潤が自分に向き合いかかったのに、譲がぶち壊しにきた。
「兄弟だから無理」
潤も、譲の横暴にムッとしたのか、譲の求婚を冷たくはねのけた。
「従兄弟だから平気だ」
と譲が言えば、
「俺、男だし」
と事実を言った。
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