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第二章

吐き気

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 譲の唇がせまってくる。

「イヤだ」

潤は、逃れようとした。

「おい、キスさせるっていう約束だっただろう」

譲が抗議した。

「やだ」

潤は、拒否した。

「なんで?」

譲が聞いてくる。


「あ、わかった……」

譲はニヤニヤして言った。

「勃っちゃうから?」

「違うもん」

潤はかぶりを振った。譲はほんとうにゲスい。


潤が怒って、黙っていると、

「なぁなぁ、潤、学校でなんかあったんだろ?」

譲が潤の肩を揺さぶってきた。

 どうして譲はこう、勘がいいのだろう。単純なくせに、妙に時々、さえている。こと、潤に関しては。

「動物的勘?」

潤は声に出して言う。

「なんだよ、動物的って。俺をケダモノみたいに」

譲は心外だというふうに口をとがらせた。

「だって、ケダモノじゃない」

「俺のこと、バカだと思ってるんだろ」

「うん」

「コラァ!」

また、はがいじめにされた。

「ギブ! ギブアップ!」

馬鹿力の譲といたら骨がいくつあっても足りないだろう。

「潤に言われたくないね。だってお前の方がバカじゃん」

キモ先に進級できないと言われている身にはこたえる。心にグサッときた。

 潤はシクシク泣きだした。

「えっ、なんで泣くの!?」

譲は驚いている。人のことバカとか言っといて、なんではないだろう。

「ふざけて言っただけだって。俺もそんな大したことないし」

そんなことない。従兄はちゃんと高校を卒業して大学も受かって大学生活を楽しんでいる。なのに、自分ときたら進級だって危ういのだ。

「筋肉バカだって言いたいんだろ?」

譲がふてくされたように言う。

「事実だし……」

潤は涙を拭く手をとめて片目で従兄をうかがいながら合いの手をいれる。

「おい!」

譲がゲンコでぶつまねをする。

「うわぁん」

潤は泣きまねをする。

「あー、ごめんごめん」

譲は慌てる。

「もう、泣くなよ。よしよし」

譲が潤を抱きしめて頭を撫でてくれる。

 ほんとは叔父さまにしてほしかったのに……。でも少し嬉しい。譲と叔父さまは少し似ているから。背も高くて、ハンサムだ。譲は叔父さまの若いころに少し似ているらしい。こうしていると、叔父さまに抱かれているみたい。ほっとするような、いいにおいがする。

 キモ先なんかとは大違いだ。

 キモ先との記憶が突然、脳裏に侵入してきた。急に吐き気がこみあげてきた。キモ先のキモいタバコの匂いと体臭、そして口に押しつけられたキモい身体の一部、体液……苦い不味い体液の味……。

「お……オエッ……」

がまんできず、えずいてしまった。

「え……ごめん……もしかして、汗臭かった……?」

譲がうろたえている。

「……シャワー浴びたんだけどな」

譲は自分の身体をクンクンにおっている。

 違う。そうじゃないよ。兄さんのにおいでなったんじゃない。そう言おうと思うけれど、吐き気がこみあげる。

 たすけて。

 目から涙がこぼれてしまう。

「えっ、どうしたんだよ」

潤は口をおさえて部屋から出ていこうとした。このままでは、従兄の部屋を汚してしまいそうだ。従兄の声が後ろで聞こえた。
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