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1、教室

○○○○がしたいんです

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「いや、今は、つきあっている恋人は、いない」
 安田は、教師である自分は今、恋愛などには全く興味がない、ということを相手の生徒に印象づけるように答えたつもりだった。成人男性である自分さえそうなのだから、まして学生の君は、勉学にいそしみたまえ、と。なのに、西島は、嬉しそうに、ぱっと目を輝かせて、
 「ほんとですか!? 僕もいません。したことも、ありません」 
と言ったのだ。誤算だ。キスも初めてなら、セックスなどしたことなどないのは当たり前だろう、そんなことはどうでもいい。なんとか、話の流れを断ち切ろうと、
 「誰か君を好きな子がいるんじゃないか?」
 と安田は聞いた。
  だが、自分で聞いておいて『君は、可愛いから』とあやうく言いそうになって、そんなことを言ったら事態を悪化させるであろうことに気づき、言葉を呑み込んだ。 
「いません……そんな人いません。いたとしても、僕は、僕の好きな人としか、つきあいません」
 西島は、きっぱりと言った。 
「僕、先生とセックスがしたいんです」
 「西島……」
 安田は、あわてた。生徒に告白されることはあっても、好きです、と言われるだけで、つきあってくださいと言うものは、まれだった。まして、こんなことを、性交をしてほしいなどと面と向かってはっきりと口にして頼まれたことは初めてだった。この状況に、西島は、きっと、おかしくなっているのだ。そうとしか思えない。こんな大人しそうな生徒がこんな、大胆な発言……。
 「気を確かにするんだ」 
「気は確かです。僕、前から、先生のこと、好きだったんです。もう、がまんできません」
 何を言っているんだ。化け物に言わされているのか? 
「だめだよ。教師と生徒で、そんなこと、するもんじゃない」
 すがりつく西島に安田は、かろうじて残った理性で言った。
 「したいんです。僕、がまんできないんです。僕のこと、そんなに嫌いですか?」 
「嫌いじゃないよ」
 ナイーブな生徒の心を、無げに断ることで、傷つけたくはない。
 「嫌いじゃないなら、好きですか?」
 西島は重ねて聞いた。 
「……好きだよ。でも、そういうんじゃない。生徒として、好きだ」
 安田は、教師らしくふるまおうと努力した。
 「僕は違います。先生としても好きですが、男として、性の対象として、好きです。僕としてください」
 安田は、くらくらした。こんな可愛らしい口から、そんな激しく、恥ずかしいことばが出るなんて。 
「男が、好きなのか?」 
安田は聞いた。 
「違います。安田先生が好きなんです」
 西島は、安田の身体にぎゅっとつかまった。
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