からすうり〜廃屋の美青年〜

リリーブルー

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貴人に語りかける

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「いらっしゃったのですね。お声がしないのでいらっしゃらないのかと。文は届けました」

あのような人には言えぬ行為をいいつかって無事に成し遂げたのだ。せめてねぎらいの言葉の一つもかけてほしかった。

しかし返答はない。

どうだったかと、貴方様もお聞きになりたいのではありませぬか。

焦れてそう言おうとして思いとどまった。

会えぬ理由のある恋人たちの間に入ってたかが媒介者が。そんな残酷なことを。私は己を恥じた。

しかし、そこにいるのに出てこないのは、恋人に代わりに会ってきた私に複雑な思いを抱いているからかもしれない。

感謝はしているが会いたくはない。

そんなところか。

会うことのかなわぬ恋人に代わりに会って慰めてやってほしいという貴人も変わっているとは思う。

しかし貴人の考えはわからない。

頼んでは見たものの、やはり私が憎くなっているのかもしれない。

その怒りをじっと耐えているのかもしれない。

ああ、何という気の毒なお方だ。

私はこうして自由にとびまわれる。しかし貴人である彼の方は私のように自由には振る舞えないのだ。

「そこにおられるのですよね? 今ひとたび、貴方様の尊いかんばせを拝見したいのです。私の願いはただそればかりです。無体なことはいたしませぬゆえ、どうかお許しを」

私はそう言って簾を押し上げ縁へ上がった。

私は彼の人の白い足を求めて蔀戸の内へ踏み込んだ。

彼の人が板張りの床の上に伏していた。

「お気の毒に。泣いておられるのですね」

私は彼の人の白い着物に手を触れた。

白く長い衣の裾は足を包みこむように丸まっている。

まるでしぼんだ花のように生気がない。

「そんな風にお気を落とされるのも無理のないことです。けれど貴方様の想い人は息災で貴方様の文を大層お喜びでした」

貴人は伏したままぴくりともしない。

それ以上の詳細を語るのは残酷なことだろう。私の報告など聞きたくなくて耳を塞いでいるのかもしれない。

「もうお顔を見せてはいただけないのですね。さらば仕方ありますまい。私はこれでお暇いたしましょう」

あまりしつこくして嫌われたくもなかった。また明日の夜くればよい。

私は立ち上がった。
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