10 / 27
美少年、義理パパの会社に行く
しおりを挟む
「10m先、右に曲がってください」
アユムの手ににぎりしめられたスマホが、しゃべった。
「えぇと……どこかな? うぅんと……」
アユムは、スマホかた手にきょろきょろしながら歩いた。アユムは、きれいな樹のある公園のようになった街中の広場に出た。そこには、スーツを着た男の人や、ヒールの靴をはいた女の人や、大人ばかりが右に左に急ぎ足で歩いていた。
「花園コーポレーションってどこ?」
アユムはスマホに口を近づけて話しかけるけれど、スマホは、
「到着しました」
としか答えてくれない。アユムは、あたりを見まわした。見上げると、キラキラ光るガラスが青空をうつして鏡になった、ぐーんとそびえ立つビルがあるばかりだった。
アユムは、今日、急に、学校帰りにパパの会社に行ってみようと思いたったのだ。理由は、学校でお友達にいじめられて悲しくなったから。いじめられていることは、誰にも言っていないけど。だって、かっこ悪いもん。ママに言うと心配するし。
一人でがんばって、ここまで来たんだけど、最後の最後で、迷子になってしまったみたいだ。たぶん、もう少しなのに。
こっそり行って、パパを驚かせようと思ったけど、パパにお電話してもいいのかな? パパにお電話したことないけど。会社にお電話してもいいのかな? おなかもすいてきたし。おやつがほしいな。
「どうしたの? だいじょうぶ?」
スーツ姿の知らないお兄さんが話しかけてきた。「昭島」って名札を首からぶら下げていた。やさしそうだったので、つい、
「あのぅ、花園コーポレーションって、どこですか?」
と聞いてしまった。花園というのはパパの名字だ。
お兄さんは、にっこりして答えた。
「ここだよ。受付は、こっち。おいで」
アユムは、ついて行こうとして、ハッとした。知らない人についていっちゃダメって、学校で言われたんだっけ。だから、ついていっちゃダメだ。でもお菓子あげるからって言われてないから平気かな?
「どうしたの?」
お兄さんがアユムに手をのばした。つかまえられるっ!
「だいじょうぶですっ」
アユムは、走って正面にあった自動ドアに逃げこんだ。自動ドアが、さーっと左右に開いた。高いふきぬけで、エスカレーターが正面にあるガラスばりの明るいロビーがアユムの目の前に広がった。
アユムが立ちすくんでいると、受付と書いた札のところにいる女の人が、じーっとこっちを見ていた。アユムがビルの中に入っていこうとすると、そのきれいなお姉さんに、
「何かご用ですか?」
とひきとめられた。
アユムが緊張して、
「ご用です」
と答えると、お姉さんは笑いをこらえていた。アユムは、お姉さんは、僕みたいな女の子みたいな男の子は、おかしいと思ったのかな?と心配になった。お姉さんに嫌われたらどうしようと不安になった。
「あの、僕は、これでも……」
と言いかけて、何か男の子らしいことできるかな?と考えた。顔にぶつかると危ないってママが言うから、サッカーはしちゃダメだし。体育の授業では、普通にしてるけど……ほかのサッカークラブに入っているような子みたいに上手じゃない。
「将来、すごく有名になるかも……しれ……ない……けど、ならない……かも……」
と、言ってだんだん自信がなくなってきたのは、この間のヴァイオリンのコンクールで、また優勝できなかったから。ヴァイオリンの先生に見はなされるよって、ママが怒ってた。お月謝、また増やさなくちゃ、って。先生に見はなされたら仲よしな人がいなくなっちゃう。でも、先生はアユムの年くらいには、もうコンサートをしていた「神童」だったのだ。
きれいな受付のお姉さんが、
「どちらにご用ですか?」
とアユムに聞いた。
アユムは、はっとして、
「花園コーポレーションって、どこにありますか?」
とたずねた。
「こちらでございます」
「こちらって?」
「こちらのビル全体が花園コーポレーションの本社でございます」
とお姉さんは説明してくれた。
「え……」
アユムは、びっくりした。パパの会社は、どこかの小さい部屋とか、古くて小さくて汚いビルの中にあると思っていたからだ。
たしかにパパは、ハンサムだけど、家にいるパパは、ママがいつも留守だからさびしいと言って、アユムに甘えてくる、ちょっとなさけない、かわいそうな大人だ。スウェットの上下かTシャツにハーパンとか着て、さみしいさみしいって言って、リビングでごろごろしてる。
こんな大きいビルの社長さんだなんて、ウソじゃないの? そうだ。社長さんっていうのがウソなのかも。ほんとは平社員かも。きっとそうだ。名字が花園だから、冗談で言ってただけかも!
「あっ、パパだ!」
アユムは、走り出した。後ろでお姉さんが、何か言っていたけどかまわずに、アユムは走ってパパの姿を追いかけた。
アユムの手ににぎりしめられたスマホが、しゃべった。
「えぇと……どこかな? うぅんと……」
アユムは、スマホかた手にきょろきょろしながら歩いた。アユムは、きれいな樹のある公園のようになった街中の広場に出た。そこには、スーツを着た男の人や、ヒールの靴をはいた女の人や、大人ばかりが右に左に急ぎ足で歩いていた。
「花園コーポレーションってどこ?」
アユムはスマホに口を近づけて話しかけるけれど、スマホは、
「到着しました」
としか答えてくれない。アユムは、あたりを見まわした。見上げると、キラキラ光るガラスが青空をうつして鏡になった、ぐーんとそびえ立つビルがあるばかりだった。
アユムは、今日、急に、学校帰りにパパの会社に行ってみようと思いたったのだ。理由は、学校でお友達にいじめられて悲しくなったから。いじめられていることは、誰にも言っていないけど。だって、かっこ悪いもん。ママに言うと心配するし。
一人でがんばって、ここまで来たんだけど、最後の最後で、迷子になってしまったみたいだ。たぶん、もう少しなのに。
こっそり行って、パパを驚かせようと思ったけど、パパにお電話してもいいのかな? パパにお電話したことないけど。会社にお電話してもいいのかな? おなかもすいてきたし。おやつがほしいな。
「どうしたの? だいじょうぶ?」
スーツ姿の知らないお兄さんが話しかけてきた。「昭島」って名札を首からぶら下げていた。やさしそうだったので、つい、
「あのぅ、花園コーポレーションって、どこですか?」
と聞いてしまった。花園というのはパパの名字だ。
お兄さんは、にっこりして答えた。
「ここだよ。受付は、こっち。おいで」
アユムは、ついて行こうとして、ハッとした。知らない人についていっちゃダメって、学校で言われたんだっけ。だから、ついていっちゃダメだ。でもお菓子あげるからって言われてないから平気かな?
「どうしたの?」
お兄さんがアユムに手をのばした。つかまえられるっ!
「だいじょうぶですっ」
アユムは、走って正面にあった自動ドアに逃げこんだ。自動ドアが、さーっと左右に開いた。高いふきぬけで、エスカレーターが正面にあるガラスばりの明るいロビーがアユムの目の前に広がった。
アユムが立ちすくんでいると、受付と書いた札のところにいる女の人が、じーっとこっちを見ていた。アユムがビルの中に入っていこうとすると、そのきれいなお姉さんに、
「何かご用ですか?」
とひきとめられた。
アユムが緊張して、
「ご用です」
と答えると、お姉さんは笑いをこらえていた。アユムは、お姉さんは、僕みたいな女の子みたいな男の子は、おかしいと思ったのかな?と心配になった。お姉さんに嫌われたらどうしようと不安になった。
「あの、僕は、これでも……」
と言いかけて、何か男の子らしいことできるかな?と考えた。顔にぶつかると危ないってママが言うから、サッカーはしちゃダメだし。体育の授業では、普通にしてるけど……ほかのサッカークラブに入っているような子みたいに上手じゃない。
「将来、すごく有名になるかも……しれ……ない……けど、ならない……かも……」
と、言ってだんだん自信がなくなってきたのは、この間のヴァイオリンのコンクールで、また優勝できなかったから。ヴァイオリンの先生に見はなされるよって、ママが怒ってた。お月謝、また増やさなくちゃ、って。先生に見はなされたら仲よしな人がいなくなっちゃう。でも、先生はアユムの年くらいには、もうコンサートをしていた「神童」だったのだ。
きれいな受付のお姉さんが、
「どちらにご用ですか?」
とアユムに聞いた。
アユムは、はっとして、
「花園コーポレーションって、どこにありますか?」
とたずねた。
「こちらでございます」
「こちらって?」
「こちらのビル全体が花園コーポレーションの本社でございます」
とお姉さんは説明してくれた。
「え……」
アユムは、びっくりした。パパの会社は、どこかの小さい部屋とか、古くて小さくて汚いビルの中にあると思っていたからだ。
たしかにパパは、ハンサムだけど、家にいるパパは、ママがいつも留守だからさびしいと言って、アユムに甘えてくる、ちょっとなさけない、かわいそうな大人だ。スウェットの上下かTシャツにハーパンとか着て、さみしいさみしいって言って、リビングでごろごろしてる。
こんな大きいビルの社長さんだなんて、ウソじゃないの? そうだ。社長さんっていうのがウソなのかも。ほんとは平社員かも。きっとそうだ。名字が花園だから、冗談で言ってただけかも!
「あっ、パパだ!」
アユムは、走り出した。後ろでお姉さんが、何か言っていたけどかまわずに、アユムは走ってパパの姿を追いかけた。
0
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。



【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる