133 / 407
第十一章 再び生徒会室
イケメン教師、生徒会長と風紀委員長のやりとりを聞く
しおりを挟む
「本当は俺が生徒会長になるべきだった」
風紀委員長が、メガネを中指で押し上げながら、神妙な面持ちで言った。
「ああ、そうだな。君は、剣道部の主将だしな」
生徒会長が投げやりに応えて、どさりとソファに身体を投げ出した。
「そうだ。文武両道の者が生徒会長になる。これは我が校の伝統だった」
風紀委員長は、謹厳な様子で続けた。
「ラグビー部の連中もそれが不満で、僕に従わないのだ」
生徒会長が足をテーブルに乗せた。
「君が初めての……文人生徒会長だからな」
風紀委員長は、そんな生徒会長のふてくされた様子を見て言った。
「今、なぜ言いよどんだ?」
キッと生徒会長が風紀委員長を振り返った。
「え?」
風紀委員長が、夕陽に照らされた端正な横顔を曇らせた。
「『性奴隷会長』と言おうとしたんだろう」
生徒会長はテーブルから足を降ろし、起き上がった。
「え……」
いわれのない言いがかりをつけられた風紀委員長は、思いがけないという様子で後ずさった。
「知っているよ。皆が陰で僕のことをそう呼んでいるのは」
立ち上がった生徒会長が、風紀委員長の胸ぐらをつかんだ。
「皆が? 誰だ、そんないいかげんなうわさを。諜報部の村田からでも聞いたのか?」
風紀委員長は、胸ぐらをつかまれたまま苦しげに聞いた。
「君だって、本当は僕のことを、そう思ってるんだろう」
生徒会長は質問に答えず、一方的に風紀委員長を問い詰めた。
「そんなこと、思っているわけないじゃないか」
ぐいぐいと締めあげる生徒会長の手に、されるがままで風紀委員長は答えた。
「だったら何だというんだ、さっきの発言は。君も、僕が生徒会長にふさわしくない、と言いたいんだろう?」
生徒会長は攻めた。
「違うよ。そうじゃない。俺は、君が矢面に立ったり、つらそうにしているのを、見ていられない、と言いたかったんだ」
風紀委員長は、怖じずに、真摯な表情で生徒会長の目を見つめて答えた。
「僕がそんなに弱く見えるか?」
生徒会長はムキになったように問いかけた。
「いや、俺が勝手に心配してるだけだ」
風紀委員長は答えた。
生徒会長は、やっと風紀委員長の胸ぐらから手を放した。
「こんなことなら、自分が苦しむ方がマシだと思ったんだ」
解放された風紀委員長は息をついてから言った。
「俺が生徒会長になるべきだった。それなら、君が苦しむ姿を見なくてすんだ」
風紀委員長が男泣きに泣いていた。
「僕が苦しんでいるのは、君のせいじゃない」
生徒会長は、目を伏せて言った。
「僕は、生徒会長にならなかったら、もっと苦しかっただろう」
窓から射しこむ夕刻の日が、向きあった二人を照らしていた。
「僕が生徒会長になれたのは、君が立候補を辞退してくれたおかげだ」
生徒会長は風紀委員長を見つめて言った。
「僕は生徒会長にならなかったら、ラグビー部の性奴隷のままだった。僕が生徒会長になったから、性奴隷などという忌まわしい闇の制度を廃止できたのだ」
「そうか……」
風紀委員長は、涙をげんこつで拭いた。思わず泣いてしまったことを恥じているように唇を噛みしめて。
「だったら、敵はラグビー部だな」
風紀委員長の決意に似たことばに、生徒会長はあらためてうなずいた。
だが、風紀委員長の、
「小坂先生は関係ない」
という言葉には、生徒会長は即座に反対した。
「いや、関係ある。小坂先生は、ラグビー部出身の校長のいいなりになっている。それが、余計、やつらをのさばらせることにつながる」
小坂は、ベッドに横たわったまま考えた。はたして自分たちは、自分たちの代で、この呪わしい因習を打ち砕くことができるのか、と。
「ううん……それは、まあ……小坂先生が、風紀を乱す行いをしているのは事実だからな」
風紀委員長が、しぶしぶのように、うなずいた。
「きみは小坂先生にあまいね。小坂先生を解放したいの?」
生徒会長は、風紀委員長に尋ねた。
「そういうわけではないが」
風紀委員長は、小坂を気づかうように見た。
「ふうん。まあ、いいさ。きみも、おおかた彼の毒に当てられてるんだろうから」
生徒会長は、風紀委員長を軽蔑するように言った。
「だけど、このことを知っても、まだ、きみが冷静でいられるかな。まだ小坂先生をかばうのかな」
生徒会長は、もったいぶった調子で風紀委員長を挑発するように言った。
「なんだよ。さっさと言えよ」
風紀委員長は、焦れたように催促した。
「でも、こんなこと、言ってもいいのかな」
生徒会長は、言いながら、小坂の方をちらちらと見た。
「いいから、早く言えって」
風紀委員長はせかした。
「じゃあ、言うけど……」
風紀委員長に促されて、生徒会長は小坂の様子を気にしながら口を開いた。
「小坂先生は、僕の入っているトイレの隣で、しょっちゅう、自慰をしていたんだ」
生徒会長は、思いきったように、いっきに暴露した。
聞いていた小坂は身体をこわばらせた。手にじっとりと汗がにじんだ。
「え?」
風紀委員長が驚いたように聞き返した。
「それは、君が隣にいると知った上でってこと?」
「偶然にしては何度も……だから」
小坂の胸が早鐘のように打った。バレていたのか。やっぱりバレていたのか。生徒会長に……。
風紀委員長が、メガネを中指で押し上げながら、神妙な面持ちで言った。
「ああ、そうだな。君は、剣道部の主将だしな」
生徒会長が投げやりに応えて、どさりとソファに身体を投げ出した。
「そうだ。文武両道の者が生徒会長になる。これは我が校の伝統だった」
風紀委員長は、謹厳な様子で続けた。
「ラグビー部の連中もそれが不満で、僕に従わないのだ」
生徒会長が足をテーブルに乗せた。
「君が初めての……文人生徒会長だからな」
風紀委員長は、そんな生徒会長のふてくされた様子を見て言った。
「今、なぜ言いよどんだ?」
キッと生徒会長が風紀委員長を振り返った。
「え?」
風紀委員長が、夕陽に照らされた端正な横顔を曇らせた。
「『性奴隷会長』と言おうとしたんだろう」
生徒会長はテーブルから足を降ろし、起き上がった。
「え……」
いわれのない言いがかりをつけられた風紀委員長は、思いがけないという様子で後ずさった。
「知っているよ。皆が陰で僕のことをそう呼んでいるのは」
立ち上がった生徒会長が、風紀委員長の胸ぐらをつかんだ。
「皆が? 誰だ、そんないいかげんなうわさを。諜報部の村田からでも聞いたのか?」
風紀委員長は、胸ぐらをつかまれたまま苦しげに聞いた。
「君だって、本当は僕のことを、そう思ってるんだろう」
生徒会長は質問に答えず、一方的に風紀委員長を問い詰めた。
「そんなこと、思っているわけないじゃないか」
ぐいぐいと締めあげる生徒会長の手に、されるがままで風紀委員長は答えた。
「だったら何だというんだ、さっきの発言は。君も、僕が生徒会長にふさわしくない、と言いたいんだろう?」
生徒会長は攻めた。
「違うよ。そうじゃない。俺は、君が矢面に立ったり、つらそうにしているのを、見ていられない、と言いたかったんだ」
風紀委員長は、怖じずに、真摯な表情で生徒会長の目を見つめて答えた。
「僕がそんなに弱く見えるか?」
生徒会長はムキになったように問いかけた。
「いや、俺が勝手に心配してるだけだ」
風紀委員長は答えた。
生徒会長は、やっと風紀委員長の胸ぐらから手を放した。
「こんなことなら、自分が苦しむ方がマシだと思ったんだ」
解放された風紀委員長は息をついてから言った。
「俺が生徒会長になるべきだった。それなら、君が苦しむ姿を見なくてすんだ」
風紀委員長が男泣きに泣いていた。
「僕が苦しんでいるのは、君のせいじゃない」
生徒会長は、目を伏せて言った。
「僕は、生徒会長にならなかったら、もっと苦しかっただろう」
窓から射しこむ夕刻の日が、向きあった二人を照らしていた。
「僕が生徒会長になれたのは、君が立候補を辞退してくれたおかげだ」
生徒会長は風紀委員長を見つめて言った。
「僕は生徒会長にならなかったら、ラグビー部の性奴隷のままだった。僕が生徒会長になったから、性奴隷などという忌まわしい闇の制度を廃止できたのだ」
「そうか……」
風紀委員長は、涙をげんこつで拭いた。思わず泣いてしまったことを恥じているように唇を噛みしめて。
「だったら、敵はラグビー部だな」
風紀委員長の決意に似たことばに、生徒会長はあらためてうなずいた。
だが、風紀委員長の、
「小坂先生は関係ない」
という言葉には、生徒会長は即座に反対した。
「いや、関係ある。小坂先生は、ラグビー部出身の校長のいいなりになっている。それが、余計、やつらをのさばらせることにつながる」
小坂は、ベッドに横たわったまま考えた。はたして自分たちは、自分たちの代で、この呪わしい因習を打ち砕くことができるのか、と。
「ううん……それは、まあ……小坂先生が、風紀を乱す行いをしているのは事実だからな」
風紀委員長が、しぶしぶのように、うなずいた。
「きみは小坂先生にあまいね。小坂先生を解放したいの?」
生徒会長は、風紀委員長に尋ねた。
「そういうわけではないが」
風紀委員長は、小坂を気づかうように見た。
「ふうん。まあ、いいさ。きみも、おおかた彼の毒に当てられてるんだろうから」
生徒会長は、風紀委員長を軽蔑するように言った。
「だけど、このことを知っても、まだ、きみが冷静でいられるかな。まだ小坂先生をかばうのかな」
生徒会長は、もったいぶった調子で風紀委員長を挑発するように言った。
「なんだよ。さっさと言えよ」
風紀委員長は、焦れたように催促した。
「でも、こんなこと、言ってもいいのかな」
生徒会長は、言いながら、小坂の方をちらちらと見た。
「いいから、早く言えって」
風紀委員長はせかした。
「じゃあ、言うけど……」
風紀委員長に促されて、生徒会長は小坂の様子を気にしながら口を開いた。
「小坂先生は、僕の入っているトイレの隣で、しょっちゅう、自慰をしていたんだ」
生徒会長は、思いきったように、いっきに暴露した。
聞いていた小坂は身体をこわばらせた。手にじっとりと汗がにじんだ。
「え?」
風紀委員長が驚いたように聞き返した。
「それは、君が隣にいると知った上でってこと?」
「偶然にしては何度も……だから」
小坂の胸が早鐘のように打った。バレていたのか。やっぱりバレていたのか。生徒会長に……。
0
お気に入りに追加
2,508
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。


わるいむし
おととななな
BL
新汰は一流の目を持った宝石鑑定士である兄の奏汰のことをとても尊敬している。
しかし、完璧な兄には唯一の欠点があった。
「恋人ができたんだ」
恋多き男の兄が懲りずに連れてきた新しい恋人を新汰はいつものように排除しようとするが…

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる