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第二十三章
イケメン教師、村田親子と食事する 1【挿絵あり】
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小坂は二人を車に乗せて、言われるままに食事場所に出かけた。
連れて行かれた扉の前で、
「こんな高級レストラン……ですか」
安い定食屋かファミレスだろうとたかを括って自分が払うなどと言ってしまったが、しまった。
特定の生徒と保護者に高級レストランで食事をおごったなどと知られたら大問題だ。誰かに見られたら。生徒指導でした、と言っても、高級レストランで話す必要があるのか、と責められるだろう。
小坂は別れを告げにきたのに。こんな洒落たレストランを指定するなんて村田母はデート気分なのだろうか。罪悪感を煽られる。ますます別れを切り出しにくい。別に付き合っているわけじゃない。こっちが襲われたんだ。被害者なんだ。と自分に言い聞かせるが、何かにつけ断るのは苦手だった。
「大丈夫だよ。こっちの、おごりだって言ってるじゃないか」
村田の母に背中をどつかれた。別に金額にびびっているわけじゃない。このくらい出せる。男の沽券に関わるとムッとして、
「いえ、自分の分は出します」
と強情に答えた。保護者に奢られるのはだめだ。成績を上げろなどの賄賂と思われる。
誰か知り合いに見られないといいのだが。変に誤解されたくない。
席に案内されメニューを見ていると、背後で、
「オーナー」
と呼ぶ声がした。レストランのスタッフがオーナーを呼びとめているようだった。
聞き慣れた声に小坂は振り向いた。
「え?」
と小坂は驚いた。スタッフと立ち話をしているオーナーと呼ばれた男は、麓戸だった。
悪照も気づいて、
「あっ、父さん!」
と麓戸に手を振った。
麓戸が小坂たちのテーブルに向かって歩いて来た。
「悪照、来てくれたのか。こちらは……」
麓戸は、並んで座っている村田の母と小坂の顔を見てぎょっとした様子だった。
「先生を招待したんだ」
悪照が誇らしげに麓戸に言う。
「悪照じゃないよ。私が誘ったんだ」
張り合うように村田の母が麓戸に告げる。
「いい男だろう? 私の彼氏さ」
自慢げに村田母が笑う。
「えぇ? 俺の彼氏なのに……」
村田が小声でブツブツ言う。
麓戸も心で「俺の彼氏なのに」と思ってくれているだろうか。
修羅場すぎる。
「先日はどうも」
小坂は、極力平静を装って挨拶し頭を下げた。麓戸も頭を下げた。
「こちらこそ。私どもの店へようこそ。どうぞ、おくつろぎください」
「茶番だね。そんなわざとらしい他人行儀で」
村田の母が、麓戸と小坂の堅苦しい様子を見て、あざ笑うように言った。
「あんたたち、もともと知り合いなんだろ?」
「えっ?」
麓戸が驚いたように聞き返した。
「やっぱり。そんなことだろうと思った。その、かわいそうなイケメン先生を開発したのは、麓戸だって、すぐわかったよ」
村田の母は、ばかばかしいというように言った。
開発。息子の前で、そんなことを言うなんて。生徒の前でやめてくれ。
生徒の前で開発だとかいう話題を出されたのみならず、麓戸との関係も見抜かれ暴露されたことに動揺して焦りすぎて、かたまって、小坂は、
「さすがですね」
と変な相槌を打つのがやっとだった。
小坂のおかしな反応に、
「先生、感心してる場合じゃないって」
と、村田が腹をかかえて笑った。
そんな際どい話を笑い飛ばせる村田悪照もどうかしている。さすが麓戸と村田母の息子だ。やばすぎる。
「すぐわかったって? まさか、おまえはまた……」
麓戸が女に言った。
女は、
「おまえ呼ばわりされたくないね。もう、あんたとは関係ないんだから。私はね、イケメン先生の子を身ごもったんだよ」
と言い出した。
「はあっ!?」
その場にいた男三人が驚愕の声をあげた。
連れて行かれた扉の前で、
「こんな高級レストラン……ですか」
安い定食屋かファミレスだろうとたかを括って自分が払うなどと言ってしまったが、しまった。
特定の生徒と保護者に高級レストランで食事をおごったなどと知られたら大問題だ。誰かに見られたら。生徒指導でした、と言っても、高級レストランで話す必要があるのか、と責められるだろう。
小坂は別れを告げにきたのに。こんな洒落たレストランを指定するなんて村田母はデート気分なのだろうか。罪悪感を煽られる。ますます別れを切り出しにくい。別に付き合っているわけじゃない。こっちが襲われたんだ。被害者なんだ。と自分に言い聞かせるが、何かにつけ断るのは苦手だった。
「大丈夫だよ。こっちの、おごりだって言ってるじゃないか」
村田の母に背中をどつかれた。別に金額にびびっているわけじゃない。このくらい出せる。男の沽券に関わるとムッとして、
「いえ、自分の分は出します」
と強情に答えた。保護者に奢られるのはだめだ。成績を上げろなどの賄賂と思われる。
誰か知り合いに見られないといいのだが。変に誤解されたくない。
席に案内されメニューを見ていると、背後で、
「オーナー」
と呼ぶ声がした。レストランのスタッフがオーナーを呼びとめているようだった。
聞き慣れた声に小坂は振り向いた。
「え?」
と小坂は驚いた。スタッフと立ち話をしているオーナーと呼ばれた男は、麓戸だった。
悪照も気づいて、
「あっ、父さん!」
と麓戸に手を振った。
麓戸が小坂たちのテーブルに向かって歩いて来た。
「悪照、来てくれたのか。こちらは……」
麓戸は、並んで座っている村田の母と小坂の顔を見てぎょっとした様子だった。
「先生を招待したんだ」
悪照が誇らしげに麓戸に言う。
「悪照じゃないよ。私が誘ったんだ」
張り合うように村田の母が麓戸に告げる。
「いい男だろう? 私の彼氏さ」
自慢げに村田母が笑う。
「えぇ? 俺の彼氏なのに……」
村田が小声でブツブツ言う。
麓戸も心で「俺の彼氏なのに」と思ってくれているだろうか。
修羅場すぎる。
「先日はどうも」
小坂は、極力平静を装って挨拶し頭を下げた。麓戸も頭を下げた。
「こちらこそ。私どもの店へようこそ。どうぞ、おくつろぎください」
「茶番だね。そんなわざとらしい他人行儀で」
村田の母が、麓戸と小坂の堅苦しい様子を見て、あざ笑うように言った。
「あんたたち、もともと知り合いなんだろ?」
「えっ?」
麓戸が驚いたように聞き返した。
「やっぱり。そんなことだろうと思った。その、かわいそうなイケメン先生を開発したのは、麓戸だって、すぐわかったよ」
村田の母は、ばかばかしいというように言った。
開発。息子の前で、そんなことを言うなんて。生徒の前でやめてくれ。
生徒の前で開発だとかいう話題を出されたのみならず、麓戸との関係も見抜かれ暴露されたことに動揺して焦りすぎて、かたまって、小坂は、
「さすがですね」
と変な相槌を打つのがやっとだった。
小坂のおかしな反応に、
「先生、感心してる場合じゃないって」
と、村田が腹をかかえて笑った。
そんな際どい話を笑い飛ばせる村田悪照もどうかしている。さすが麓戸と村田母の息子だ。やばすぎる。
「すぐわかったって? まさか、おまえはまた……」
麓戸が女に言った。
女は、
「おまえ呼ばわりされたくないね。もう、あんたとは関係ないんだから。私はね、イケメン先生の子を身ごもったんだよ」
と言い出した。
「はあっ!?」
その場にいた男三人が驚愕の声をあげた。
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