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第二十三章
イケメン教師、村田親子と食事をする 2
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「ふふん。あんたたちには逆立ちしても真似できないだろ。このイケメン先生は、私のものさ」
村田の母は、勝負はついたというように得意げに言い放った。
「それで、今日は、レストランでお祝いなんだよ。ほら、何かお祝いのサービスはないのかい? オーナーさん」
「はい……何かご用意いたします」
麓戸は、ほかの客たちの視線を気にするように引き下がった。
「あの……本当ですか?」
小坂は、村田の母に、おそるおそる聞いた。疑うのも悪いと思ったが、元夫である麓戸をぎゃふんと言わせるための、はったりではなかろうかと思ったのだ。
「マジかよ! やったね! 弟かな? 妹かな? オデちゃんの子どもなら、超かわいいじゃん」
村田は、嬉しそうにケタケタ笑った。さっき「俺の彼氏なのに」とか言ってたのは、どうでもよくなったのか?
「ほかの男の子どもかと疑ってるんだろ」
村田の母は小坂の顔を覗き込んで言った。
「いえ」
なんの避妊もしていなかったのだから自分が悪いと思った。ピルを飲んでいるとか、安全日だとか言われたけれど、そういうのは100%ではないんだな、と思った。
「別にいいよ。悪照だって一人で育てたんだ。悪照が高卒で働いてくれれば、また育てられるさ」
村田母が言う。産む気らしい。
「僕にも責任が……」
小坂は、おずおずと言いかけた。
「当然だよ」
女が眉をつり上げた。
「その、慰謝料的な……」
小坂のことばに、女はキッと小坂をにらみつけ、
「ふざけるんじゃないよ」
と言って席を立った。
「待ってください」
小坂は女を追いかけた。
「すみません僕が悪かったです。言葉を間違えました。おろせとか、そういう意味じゃなくて、僕も急なことで、驚いて……心の準備が……。月々の養育費をお支払いするですとか」
「あたりまえだよ。お願いしますよ。でもね、私がほしいのは、それだけじゃないから。もちろん、お金もほしいさ。お金だって愛だからね。だけど、私は、あんたが私をかまってくれたのが、嬉しかったんだよ。だから、そんな関係を切るようなことを言われてカッとなったんだ。私は私なりに、あんたのことが好きだったんだよ」
と言って、女は涙を流した。
「すみません。ごめんなさい。僕が悪いんです」
小坂は頭を垂れて詫びた。
「僕が一生をかけて償いますから許してください」
女は言った。
「バカだね。あんたってどこまでお人よしなんだろうね。そんな犠牲はいらないよ。もう、あんたの罪は許されてるんだよ。かわいそうに」
小坂は聞き返した。
「僕が許されている?」
小坂は、自分のおかしたあらゆる罪を思った。
「あんたのおかした罪は、ただ一つ。自分を大切にできなかったこと。それだけだよ。それも、これから償っていけばいい」
女は言った。
小坂は、ぼうぜんとした。
罪悪感にかられてした数々の行い。罪に罪を重ねていた……。それが、すべて許されているだって?
しばし、ぼんやりした小坂だったが気を取り直し、
「あなたも、これからは、自分を大切にしてください」
と言い、女は、
「そうだね」
と答えた。
「人生は、いつも、これからだから」
女は言って、
「化粧をなおしてから席に戻るよ」
と化粧へ消えた。
小坂は、複雑な思いだった。
小坂も女も席に戻った頃、パティシエが、「おめでとう」とチョコクリームで書かれた小さなホールのケーキを持ってきた。
村田が嬉々として切り分けたが、結局、半分以上食べていた。
麓戸が作らせたであろうケーキは甘さ控えめで、ほろ苦さとベリーの酸っぱさを小坂の舌に感じさせた。
村田の母は、勝負はついたというように得意げに言い放った。
「それで、今日は、レストランでお祝いなんだよ。ほら、何かお祝いのサービスはないのかい? オーナーさん」
「はい……何かご用意いたします」
麓戸は、ほかの客たちの視線を気にするように引き下がった。
「あの……本当ですか?」
小坂は、村田の母に、おそるおそる聞いた。疑うのも悪いと思ったが、元夫である麓戸をぎゃふんと言わせるための、はったりではなかろうかと思ったのだ。
「マジかよ! やったね! 弟かな? 妹かな? オデちゃんの子どもなら、超かわいいじゃん」
村田は、嬉しそうにケタケタ笑った。さっき「俺の彼氏なのに」とか言ってたのは、どうでもよくなったのか?
「ほかの男の子どもかと疑ってるんだろ」
村田の母は小坂の顔を覗き込んで言った。
「いえ」
なんの避妊もしていなかったのだから自分が悪いと思った。ピルを飲んでいるとか、安全日だとか言われたけれど、そういうのは100%ではないんだな、と思った。
「別にいいよ。悪照だって一人で育てたんだ。悪照が高卒で働いてくれれば、また育てられるさ」
村田母が言う。産む気らしい。
「僕にも責任が……」
小坂は、おずおずと言いかけた。
「当然だよ」
女が眉をつり上げた。
「その、慰謝料的な……」
小坂のことばに、女はキッと小坂をにらみつけ、
「ふざけるんじゃないよ」
と言って席を立った。
「待ってください」
小坂は女を追いかけた。
「すみません僕が悪かったです。言葉を間違えました。おろせとか、そういう意味じゃなくて、僕も急なことで、驚いて……心の準備が……。月々の養育費をお支払いするですとか」
「あたりまえだよ。お願いしますよ。でもね、私がほしいのは、それだけじゃないから。もちろん、お金もほしいさ。お金だって愛だからね。だけど、私は、あんたが私をかまってくれたのが、嬉しかったんだよ。だから、そんな関係を切るようなことを言われてカッとなったんだ。私は私なりに、あんたのことが好きだったんだよ」
と言って、女は涙を流した。
「すみません。ごめんなさい。僕が悪いんです」
小坂は頭を垂れて詫びた。
「僕が一生をかけて償いますから許してください」
女は言った。
「バカだね。あんたってどこまでお人よしなんだろうね。そんな犠牲はいらないよ。もう、あんたの罪は許されてるんだよ。かわいそうに」
小坂は聞き返した。
「僕が許されている?」
小坂は、自分のおかしたあらゆる罪を思った。
「あんたのおかした罪は、ただ一つ。自分を大切にできなかったこと。それだけだよ。それも、これから償っていけばいい」
女は言った。
小坂は、ぼうぜんとした。
罪悪感にかられてした数々の行い。罪に罪を重ねていた……。それが、すべて許されているだって?
しばし、ぼんやりした小坂だったが気を取り直し、
「あなたも、これからは、自分を大切にしてください」
と言い、女は、
「そうだね」
と答えた。
「人生は、いつも、これからだから」
女は言って、
「化粧をなおしてから席に戻るよ」
と化粧へ消えた。
小坂は、複雑な思いだった。
小坂も女も席に戻った頃、パティシエが、「おめでとう」とチョコクリームで書かれた小さなホールのケーキを持ってきた。
村田が嬉々として切り分けたが、結局、半分以上食べていた。
麓戸が作らせたであろうケーキは甘さ控えめで、ほろ苦さとベリーの酸っぱさを小坂の舌に感じさせた。
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