349 / 396
第二十一章 麓戸の追憶(麓戸視点)
麓戸と池井 4
しおりを挟む
別の日。
麓戸は池井の話を屋上で聞いていた。
「ねえ、そして神崎先生がなんて言ったと思う?」
池井は嬉々として話す。池井はどうでもいい話をいちいち麓戸に報告してくるのだ。
「そんなこと、どうだっていいよ」
くだらない報告を聞いているのにいいかげん疲れて麓戸は言った。
「それより、なんで神崎に抱かれてるんだよ」
麓戸の問いに、池井は答えなかった。池井は肝心なことは話さなかった。
池井は神崎に執着していた。執着というよりマインドコントロールされていたと言っていい感じだった。
「やめた方がいい。神崎先生が好きならなおのこと。わかってるのか? そんな関係が皆にバレたら先生はクビだぞ」
麓戸は忠告した。
「大丈夫だよ。僕の方でも神崎先生のことを好きなんだから」
池井は、まるで神崎に洗脳されているかのような表情で、見ているこっちが怖くなってくる。
素直で夢見がちな少年なのかもしれない。
「知ってるのか? 神崎が近々結婚するって話」
麓戸が尋ねると、池井は衝撃を受けたようにしばらく黙っていた。
池井は小声で答えた。
「知ってる……」
本当に知っていたのかわからない。知らなかったのかもしれない。
「だったら、もう、やめろよ」
なのに池井は言うのだ。
「そんなの嘘だと思うから」
「嘘じゃないよ。前から婚約者がいるって聞いてなかったのか?」
麓戸が言うと、
「ハルトは、なんで知ってるの?」
と池井は見開いた目を潤ませて見つめ返した。
「みんな知ってるよ。大学時代から付き合ってたらしいぜ。すごい美人だってうわさ」
「そんなのうわさでしょ」
池井は唇を震わせた。
「自分に都合よく考えるのはもうやめろよ。神崎から何も聞いてないのか?」
「神崎先生も僕のこと好きだと思う」
池井は自分に言い聞かせるように呟いた。
「それは生徒としてだろ? 普通に考えて」
ドSの神崎が池井との行為にハマっているだけだろう、懇願されて拒みきれずにという体にすればちょうどいいから結婚前に最後にちょっと遊んでやろうと思ったんだろう、とは言えなかった。そんな風にはっきり言ってしまえば池井を傷つけることになるだろう。
しかし、あの時の二人の様子を思い出すとグロテスクで吐き気がしそうだった。気持ち悪い。最悪だ。
「違うよ。だって、僕と……エッチしてるし」
池井は恥ずかしそうに顔を赤くして言う。あんな過激な行為をしているのに心はウブなのだ。不憫でならない。なんとか目を覚まさせてやりたかった。騙されてるんだよ。いいように遊ばれてるだけだ。そう言っても聞かないだろう。神崎のことを信じきっているのだから。
「だから、エッチなんかするなって言ったんだよ。神崎だって迫られたら拒めないんじゃないか?」
悪いやつだからさ、という言葉を呑み込んだ。池井は神崎の信奉者で、崇拝しているような勢いなのだ。そんなことを言ったら、怒り出して口をきいてくれなくなる。それまでにも何回もそうだった。
麓戸は池井の話を屋上で聞いていた。
「ねえ、そして神崎先生がなんて言ったと思う?」
池井は嬉々として話す。池井はどうでもいい話をいちいち麓戸に報告してくるのだ。
「そんなこと、どうだっていいよ」
くだらない報告を聞いているのにいいかげん疲れて麓戸は言った。
「それより、なんで神崎に抱かれてるんだよ」
麓戸の問いに、池井は答えなかった。池井は肝心なことは話さなかった。
池井は神崎に執着していた。執着というよりマインドコントロールされていたと言っていい感じだった。
「やめた方がいい。神崎先生が好きならなおのこと。わかってるのか? そんな関係が皆にバレたら先生はクビだぞ」
麓戸は忠告した。
「大丈夫だよ。僕の方でも神崎先生のことを好きなんだから」
池井は、まるで神崎に洗脳されているかのような表情で、見ているこっちが怖くなってくる。
素直で夢見がちな少年なのかもしれない。
「知ってるのか? 神崎が近々結婚するって話」
麓戸が尋ねると、池井は衝撃を受けたようにしばらく黙っていた。
池井は小声で答えた。
「知ってる……」
本当に知っていたのかわからない。知らなかったのかもしれない。
「だったら、もう、やめろよ」
なのに池井は言うのだ。
「そんなの嘘だと思うから」
「嘘じゃないよ。前から婚約者がいるって聞いてなかったのか?」
麓戸が言うと、
「ハルトは、なんで知ってるの?」
と池井は見開いた目を潤ませて見つめ返した。
「みんな知ってるよ。大学時代から付き合ってたらしいぜ。すごい美人だってうわさ」
「そんなのうわさでしょ」
池井は唇を震わせた。
「自分に都合よく考えるのはもうやめろよ。神崎から何も聞いてないのか?」
「神崎先生も僕のこと好きだと思う」
池井は自分に言い聞かせるように呟いた。
「それは生徒としてだろ? 普通に考えて」
ドSの神崎が池井との行為にハマっているだけだろう、懇願されて拒みきれずにという体にすればちょうどいいから結婚前に最後にちょっと遊んでやろうと思ったんだろう、とは言えなかった。そんな風にはっきり言ってしまえば池井を傷つけることになるだろう。
しかし、あの時の二人の様子を思い出すとグロテスクで吐き気がしそうだった。気持ち悪い。最悪だ。
「違うよ。だって、僕と……エッチしてるし」
池井は恥ずかしそうに顔を赤くして言う。あんな過激な行為をしているのに心はウブなのだ。不憫でならない。なんとか目を覚まさせてやりたかった。騙されてるんだよ。いいように遊ばれてるだけだ。そう言っても聞かないだろう。神崎のことを信じきっているのだから。
「だから、エッチなんかするなって言ったんだよ。神崎だって迫られたら拒めないんじゃないか?」
悪いやつだからさ、という言葉を呑み込んだ。池井は神崎の信奉者で、崇拝しているような勢いなのだ。そんなことを言ったら、怒り出して口をきいてくれなくなる。それまでにも何回もそうだった。
0
お気に入りに追加
2,465
あなたにおすすめの小説
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる