上 下
343 / 396
第二十一章 麓戸の追憶(麓戸視点) 

麓戸、再び追憶から覚め小坂と会話する

しおりを挟む
「麓戸さん」
小坂の声で麓戸はハッとする。
「何を思い出してるんですか」
小坂に尋ねられて、麓戸は答える。

「お前と出会った頃のことだよ。二人で俺の部屋で引きこもっていた幸せな頃のことさ」
麓戸は答えて、優しく小坂の前髪に触れた。

「幸せな頃……?」
案に相違して小坂が眉を曇らせた。

「幸せ……ではなかったかい?」
麓戸は手を止めて、小坂の目を見つめた。不安がよぎる。

「ううん……どうだろう……」
小坂は視線をはずして足元を見つめた。

ああ、そうだ。俺にとっての幸せな時も、オデトにとっては……。
「オデトは苦しかった時だもんな」
何気なく口にした言葉だったが、配慮が足りなかったかもしれない。小坂の気持ちを慮って言い直した。

「ええ。そうですね……」
小坂は、ため息をつく。

 そうか。そんな些細なところにも、二人の感じ方の違いがあった。その小さなずれが少しずつ重なって、大きなずれになって。いったいどこから、やり直したらいいのだろう。どこで間違えたのだろう。今からでも、やり直せるだろうか。

 麓戸がそう悩んでいると、小坂が口を開いた。
「そういえば、さっきの質問ですけど。麓戸さんが僕を助けられているだろうか、僕の望むようにできているだろうか、って聞いたじゃないですか」
「ああ、うん」
「できているんじゃないんですか」
小坂の答えは麓戸を慰めているように聞こえた。

 オデトは優しいから、そう言ってくれるんだろう。

 確かに麓戸の店は、麓戸が仕切っていたから、小坂は安全だったかもしれない。だが、それは、小坂が街やネットで片っ端から誘ったり誘われたりするのに比べたら、にすぎない。本当の意味で安全とは言えない。
 スリリングなプレイに、オデトも麓戸もはまっていた。
「オデトの要求を叶えることが本当にオデトのためになっていたんだろうか」
麓戸は自問を小坂にぶつけた。

「さあ。でも麓戸さんは僕がほかの人とすることも許してくれるから束縛ってほどでもないし、僕の自由にさせてくれていて、いいんじゃないですか」
 小坂はプレイの関係性のことを言っているのかもしれなかった。

 そうだよな、オデトにとっては、俺は、ただのプレイの相手にすぎない。

 麓戸は、ため息をついた。
「必ずしも許しているわけではない。特に生徒については」
小坂は、それを聞いて不満そうな顔をした。麓戸は言葉を付け足した。
「いつもオデトのことは心配しているよ」
生徒とのことが取りざたされて、オデトが悪いとされて、つかまったら困る。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...