イケメン教師陵辱調教

リリーブルー

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第三章 生徒編

イケメン教師、階段下で村田に

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 小坂が村田のアパートのドアから出ると、階段の一番下に座って、スマホをいじっている村田の背中が見えた。

 小坂は、ゆっくりステップをおりた。そっと足をおろしても鉄の階段はカン、カンと小さな金属音をたてた。
 村田は自分を軽べつし、拒否するだろう。憎んで殴るかもしれない。母親を犯した男……。自分は生徒に殺されるかもしれない。それも仕方ない。死刑台の階段をのぼるような気持ちで、小坂は一段一段を踏みしめながら降りた。
 小坂がステップの一番下に到達したとき、村田が立ち上がり、スマホをポケットにしまった。再びポケットから出された村田の右の手は、ぶるぶるするくらい強く握りしめられていた。その拳を握りしめながら、村田は、ゆっくりと小坂の方を振り返った。殴られる……! 小坂は次の衝撃を予測して身構えた。

 だが、振り上げられた村田の拳は、力なく小坂の胸に振り下ろされた。
 意外だった。
「先生、どうしてだよ……」
村田はうなだれた頭を小坂の胸に押しつけて、小坂のワイシャツをつかんだ。
 村田は泣いていた。

 我慢していた空から、ぽつり、ぽつりと、静かに雨が落ちてきた。鉄琴のように階段が鳴った。
 空を見上げると、雲が動いていた。アパート前のぼんやりした外灯で夜空は少し明るく見えた。雲の厚みの違いなのか灰色の濃い部分薄い部分があって薄い部分はほとんど白に見えた。
 村田の肩に小坂は手を置いた。
 
 小坂がステップをおり村田と並ぶと、いつの間にか村田の方が、少し背が高くなっていた。一年前は、確か、村田のが小さかったのに。校門で遅刻した村田を、よく叱ったっけ。下を向いていた村田は、上目づかいで小坂を見た。

「やったの?」
村田の低くかすれた声は少し照れくさそうで、唇の端は微かに笑っているようにさえ見えた。
「いや」
犯られたのであって犯ってない。
 村田は、フッと笑って、
「ファミレスでいいから、なんかおごってよ。腹減っちゃった」
と甘えるように言った。
 小坂は、うなずいた。


 村田といっしょのテーブルでグラタンを食べる小坂の頬を涙がつたった。
「せんせー、どうして泣いてるの?」
特大ハンバーグステーキセットをほおばりながら、村田が聞いた。
小坂は、自分の胸がなぜヒリヒリするのか、わからなかった。
 小坂はカードで二人分払って、店を出た。


 駐車場まで歩く間ずっと、話していたのは、村田だけだった。
 駐車場までは、すぐだった。車のキーを取り出した小坂に、村田は、
「もうちょっと、いっしょにいようよ」
とせがんできた。
「なんか、先生、泣いてるし。心配」
村田は、からかうように言った。
「泣いてなんかいない」
生徒の前で泣くなんて迂闊だった。もう、泣くまい。
「もっと泣いてもいいんだぜ」
村田はニヤニヤした。
「泣いてない」
のぞきこむ村田を突き放した。
「泣けよ」
泣きそうな顔をしているのは村田の方だった。
「僕は大丈夫だ」
小坂は答えた。
「泣いてる小坂なんて、危なくって一人で帰せるかよ」
村田は大人ぶった口調で言った。
「また誰かにかどわかされて犯されっぞ」
村田は小坂を帰らせまいとするかのように、小坂の腕をつかんだ。

「大丈夫だ」
小坂は、安心させるようにそう言って、村田の手をそっと放させた。
「小坂……帰るの?」
村田の顔が、ますます泣き出しそうになった。
 階段下で泣いていた村田の背中が目に浮かんだ。小坂は、村田の背中を抱いた。
 小坂が後部座席のドアを開けると、二人は重なりあい、もつれこむように車にもぐりこんだ。
 車体が揺れた。

 身体を折り曲げて、せまい後部座席でクスクス笑う村田に、
「なんだよ」
と小坂は口を開いた。
 村田は、照れかくしなのか、嬉しくてたまらないように、まだ笑いをこらえながら、小坂の身体を触ってきた。
「村田のエッチ」
村田の手を封じて小坂は言った。
「どっちが」
と村田は恥ずかしそうに笑った。

 村田は狭い車内で小坂の肩に頭をのせて背中に手をまわしてきた。
「ねえ、小坂、ハグしてよ」
「うん……?」
小坂は身体を起こし、おずおずと村田の背中に両手をまわした。
 小坂は、しびれるような充足感を感じた。必要とされている、という充足感だった。

 村田が、小坂の肩に頭をあずけたまま、甘えたように言った。
「なんか、変なの。ね?」
村田が顔をあげ小坂を見た。
「家族……みたいな?」
口もとがほころんでいた。

「共犯者だろ」
小坂は、即座にそう答える自分を冷酷だと思った。まるで、麓戸のようだ。麓戸も村田も校長も自分も、少しずつ、違う部分で似ているのかもしれない。少しずつ歪んでいて、少しずつ冷酷で、少しずつ互いを傷つけている。傷つけるたびに傷つくのに。

「同じことだよ」
と村田は年にそぐわない、あきらめたような皮肉な笑いを浮かべた。その笑いが誰かに似ている、と思ったが、思い出そうとすると、女の顔がちらついた。

「そうか……そうだな」
小坂は寄る辺ない二人が、寄り添っているのだと気づいた。

 衣服ごしに伝わってくる生き物の温もりが心地よく、小坂は、うとうとして目をつぶった。

 小坂が目覚めると、ずいぶん長いこと眠ったように感じたが、まだいくらも時間は経っていなかった。だが、夜遅く、もう、とっくに高校生が出歩いていい時間ではなかった。
 小坂が目を覚ました気配に、村田も目を開けた。その寝起きのぼんやりした顔は、さっきの女と同じ顔だった。
「変な感じだな」
今度は、小坂が言う番だった。
 家族……か。嫌な言葉だ。だが、そういう意味か……。村田は、小坂が村田の母と寝たことを言ったのだと気づいた。
 小坂の否定を追及しなかったが、村田が最初、階段下で小坂を殴ろうとしたのは、そのせいだ。だが、小坂を許したのもそのせいだ。
 小坂が村田の父になる……。その可能性を言っているのだ。そんな馬鹿なことはありえない。だが村田は、父のいない子だったし、小坂は独身だからか……。くだらない。ばかばかしい。ヘドが出そうだ。小坂は、身勝手な村田母子に怒りと哀れみを覚えた。

 小坂は起き上がって、ドアを開けた。外に出ると月が煌々と輝いていた。

 小坂は、運転席のドアに手をかけた。

 駐車場に取り残される村田に、小坂は小さく手を振り、扉を閉めた。
 小坂は、車のエンジンをかけた。
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