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第十八章 生徒の村田とイケメン教師
イケメン教師、村田の家に連れこまれる
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古い2DKのアパートが村田とその母の家だ。
「まあ、上がって」
担任の生徒にそう言われ、またもや上がってしまった。見覚えのあるその部屋の内部。
「ところで、話ってなんだ?」
小坂は生徒の村田に聞く。すすめられて座った椅子も居心地悪い。
「まあ、特に、これといってないんだけどさ。なんとなく、小坂と、ゆっくり話したいなっていうか、なんていうか」
村田は、のらりくらりとかわす。
「なんだ。特に用事がないなら僕は帰るぞ」
小坂は腰を上げかけた。
「待ってよ。用事がなければ話しちゃいけないのかよ。その、ほら、特に用事はないけど、なんでもないけど、話したいってことない? そういうのダメなのかよ」
村田は食い下がる。
「ああ、わかったよ」
小坂は引きとめられて仕方なく再び腰を下ろす。
このまま密室に二人きりでいたら流されてしまう。自分が話の主導権を握らなければ。
小坂は気を取り直した。
「そういえば、村田、お父さんと会うんだって?」
小坂は尋ねた。校長室で村田が校長に話していたことが、ずっと気になっていた。
「うん」
村田は、意外にも素直にうなずいた。しかも嬉しそうに、子どもっぽい笑顔を浮かべさえして。
いや、子どもっぽいわけじゃない。年相応なだけだ。
村田はいつも大人ぶっていた。実際、見た目は、というか体つきは、大人の男と遜色なかった。その上、村田は、カッコつけで表情や雰囲気を大人っぽく見せていた。
いや、大人っぽいわけでもない。
いつも、ふてくされた表情で、反抗的な村田。不良的行動の数々。そして、小坂への加害行動。
それが、珍しく高校生らしい無邪気な笑顔になったのだ。
加害者の村田に同情することはない。距離を取らなければ。境界線を引かなければ。
担任を続ける必要だってない。今年度は病気療養にして、来年度、他校へ転任させてもらうことだってできるかもしれない。
校長に言えば、何もかも思い通りになるかもしれない。
でも、そのためには、全てを話さなければならない。それを思うと気が重かった。そんなことは自分にはとてもできない気がした。
自分が責められそうだ。
非難されて、批判されて、反対意見を述べられて、なお自分の考えを述べる勇気はなかった。こと、自分のことに関しては。
自分が間違っていると言われるに違いない。
小坂が自分の傷に触れたくないために、回避行動をとっている間に、事態はどんどん悪くなっていったのだ。だが、誰が小坂を責められるだろう。
誰だって自分の傷には触れられたくないじゃないか。
村田に年相応の無邪気な笑顔を見せつけられて、小坂は、
「よかったな」
と言うほかなかった。
生徒の成長を助け、幸せを願うのが教師の役目だ。
よかったじゃないか。
口ではそう言ったが小坂の気持ちは複雑だった。
村田に慕われているような気がしたのに、実の父親には、かなわないのか、と寂しく思う。
自分を犠牲にして、いや、ないがしろにして、何をやっているんだ自分は。
勝手に幸せになった生徒を恨んでいる。
自分と共に、ずっと不幸に落ちていればいいと、生徒が幸せになることを阻もうとしている。
最低だな。
でも、捨てられたくなかった。
村田は加害者だ。自分に対して悪をなす。小坂を傷つける加害者だった。
なのに、その村田に、しがみついている自分。悲惨だな。
小坂は自分を責めて、自分の心をズタズタに引き裂いた。
「まあ、上がって」
担任の生徒にそう言われ、またもや上がってしまった。見覚えのあるその部屋の内部。
「ところで、話ってなんだ?」
小坂は生徒の村田に聞く。すすめられて座った椅子も居心地悪い。
「まあ、特に、これといってないんだけどさ。なんとなく、小坂と、ゆっくり話したいなっていうか、なんていうか」
村田は、のらりくらりとかわす。
「なんだ。特に用事がないなら僕は帰るぞ」
小坂は腰を上げかけた。
「待ってよ。用事がなければ話しちゃいけないのかよ。その、ほら、特に用事はないけど、なんでもないけど、話したいってことない? そういうのダメなのかよ」
村田は食い下がる。
「ああ、わかったよ」
小坂は引きとめられて仕方なく再び腰を下ろす。
このまま密室に二人きりでいたら流されてしまう。自分が話の主導権を握らなければ。
小坂は気を取り直した。
「そういえば、村田、お父さんと会うんだって?」
小坂は尋ねた。校長室で村田が校長に話していたことが、ずっと気になっていた。
「うん」
村田は、意外にも素直にうなずいた。しかも嬉しそうに、子どもっぽい笑顔を浮かべさえして。
いや、子どもっぽいわけじゃない。年相応なだけだ。
村田はいつも大人ぶっていた。実際、見た目は、というか体つきは、大人の男と遜色なかった。その上、村田は、カッコつけで表情や雰囲気を大人っぽく見せていた。
いや、大人っぽいわけでもない。
いつも、ふてくされた表情で、反抗的な村田。不良的行動の数々。そして、小坂への加害行動。
それが、珍しく高校生らしい無邪気な笑顔になったのだ。
加害者の村田に同情することはない。距離を取らなければ。境界線を引かなければ。
担任を続ける必要だってない。今年度は病気療養にして、来年度、他校へ転任させてもらうことだってできるかもしれない。
校長に言えば、何もかも思い通りになるかもしれない。
でも、そのためには、全てを話さなければならない。それを思うと気が重かった。そんなことは自分にはとてもできない気がした。
自分が責められそうだ。
非難されて、批判されて、反対意見を述べられて、なお自分の考えを述べる勇気はなかった。こと、自分のことに関しては。
自分が間違っていると言われるに違いない。
小坂が自分の傷に触れたくないために、回避行動をとっている間に、事態はどんどん悪くなっていったのだ。だが、誰が小坂を責められるだろう。
誰だって自分の傷には触れられたくないじゃないか。
村田に年相応の無邪気な笑顔を見せつけられて、小坂は、
「よかったな」
と言うほかなかった。
生徒の成長を助け、幸せを願うのが教師の役目だ。
よかったじゃないか。
口ではそう言ったが小坂の気持ちは複雑だった。
村田に慕われているような気がしたのに、実の父親には、かなわないのか、と寂しく思う。
自分を犠牲にして、いや、ないがしろにして、何をやっているんだ自分は。
勝手に幸せになった生徒を恨んでいる。
自分と共に、ずっと不幸に落ちていればいいと、生徒が幸せになることを阻もうとしている。
最低だな。
でも、捨てられたくなかった。
村田は加害者だ。自分に対して悪をなす。小坂を傷つける加害者だった。
なのに、その村田に、しがみついている自分。悲惨だな。
小坂は自分を責めて、自分の心をズタズタに引き裂いた。
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