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第十八章 生徒の村田とイケメン教師
村田の父
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「えっ?」
村田の自慢話を延々と聞かされると覚悟していた。そう予想して悔しさと嫉妬と怒りに歯噛みしていた。
なのに突然、自分に話題が向けられた。
小坂は完全に不意を突かれた。
村田が「先生」と呼んだことにもドキッとした。小坂と呼び捨てでなく。先生とつけるときも、いつも揶揄するように、ふざけた調子だった。「せんせー」といった感じのバカにしたような口ぶり。なのに、ちゃんと「先生」と言った。
いや、待て。これは、村田悪照が言った言葉ではない。村田の父が言った言葉を、村田が伝達しただけだ。それにしても、村田の口から出た言葉には違いない。
それに、少なくとも村田の父は小坂に敬意を表しているということになる。村田の父であるのに。
確かに村田の言うように、村田の父にしては、まともな人間なのかもしれない。
ともかくも、村田に、そんな風に普通の調子で先生と呼ばれることに小坂はドキッとした。
まるで、本当に自分のことを「先生」と思ってくれているように聞こえる。本当はそうでなくても。
小坂はしばし感慨に耽った。言葉の語感をじんわりと味わった。言葉のもたらす愉悦が全身に行き渡るのを感じた。
しかし油断は禁物だ。
「なんのために?」
思いがけない村田の言葉に、小坂は動揺しながら、慎重に聞いた。
村田の言葉に期待してはいけない。一喜一憂してはいけない。
自分は翻弄されている。
こんな些細なことで喜ぶなんて。まるで、甘い菓子の欠片がないか探しまわっている乞食のようだ。
村田との間に恋愛などない。愛もない。尊敬もない。欲望。それも生き物として備わった自然な性欲ですらない。醜悪な支配欲。
なのに、自分は認めたくないだけだ。そこに愛があるのだと思いたい。だが実際にはない。
せめて持て余した性欲を分かちあい触れ合いやプレイを楽しんでいるのだと思いたい。
性欲だったら確かに村田は持て余しているだろう。だが自分は、ヘトヘトだ。持て余してはいない。校長とだってしなければいけないのに。
触れ合い? あんなに雑に扱われているのに? ないない。
プレイ。いいや、望んでいない。プレイなら麓戸の店でいくらでもできたのだ。
いつだってそうなのだ。
神崎校長との間にも、麓戸との間にも。彼らの醜悪な支配欲につきあわされているだけ。わかっている。
でも認めたくない。自分も楽しんでいるのだとせめて思いたい。
生きるためにそう思いたい。
人間として、尊厳がなければ生きられない。
村田が親に自分を紹介したいのだろうか? 親に恋人を紹介するように。
そんなはずがないことを、一瞬期待して、すぐに打ち消した。
自分にだけ、大事なことを知らせてくれた。報告してくれた。一瞬嬉しかった。やっと村田との間に、対話が成立した。
だがその気持ちも打ち消した。
担任だから、当たり前だ。
むしろ、今ごろか。
いや、確かに担任ではあるが、信頼の証では?と期待する。
待てよ、そんなはずはない。今までだって、散々裏切られてきたのだ。
好きだと言われて。話しがあると言われて。
村田には何度も騙されてきたのだ。期待しては裏切られ、期待してはこっぴどく傷つけられた。会うごとに前より深く。
今も、村田が何かおどすようなことを、小坂を困らせるような何かを言ってくるのだろうと身構えていたにだ。
だが村田の口にしたことは小坂の予想しなかったことで小坂を困惑させた。
村田の父親。社長だって? 村田はマトモだと言っているが、村田の父親がマトモであるはずがない。いったい、どんなヤクザな男かもわからない。社長だなどといって、どんな、いかがわしい商売をしているのか、わかったものではない。金の力と知恵がある手強い悪、である可能性のが高くないか。
まさか、またいかがわしいことを要求されるのでは。
村田の父親は、小坂と息子の関係を、知っているのだろうか。
危惧するのは、それだけではない。
小坂と、村田の母親、つまり村田の父親からしたら元妻との関係になる、それを、知っているのか。まさか、そのことで脅されるのではなかろうか。村田の母親のように。いや、相手は、村田の父親なのだ。それよりも、さらに凶暴な要求を突きつけられ脅されるのでは?
小坂の胸に不安は渦巻いた。
村田の自慢話を延々と聞かされると覚悟していた。そう予想して悔しさと嫉妬と怒りに歯噛みしていた。
なのに突然、自分に話題が向けられた。
小坂は完全に不意を突かれた。
村田が「先生」と呼んだことにもドキッとした。小坂と呼び捨てでなく。先生とつけるときも、いつも揶揄するように、ふざけた調子だった。「せんせー」といった感じのバカにしたような口ぶり。なのに、ちゃんと「先生」と言った。
いや、待て。これは、村田悪照が言った言葉ではない。村田の父が言った言葉を、村田が伝達しただけだ。それにしても、村田の口から出た言葉には違いない。
それに、少なくとも村田の父は小坂に敬意を表しているということになる。村田の父であるのに。
確かに村田の言うように、村田の父にしては、まともな人間なのかもしれない。
ともかくも、村田に、そんな風に普通の調子で先生と呼ばれることに小坂はドキッとした。
まるで、本当に自分のことを「先生」と思ってくれているように聞こえる。本当はそうでなくても。
小坂はしばし感慨に耽った。言葉の語感をじんわりと味わった。言葉のもたらす愉悦が全身に行き渡るのを感じた。
しかし油断は禁物だ。
「なんのために?」
思いがけない村田の言葉に、小坂は動揺しながら、慎重に聞いた。
村田の言葉に期待してはいけない。一喜一憂してはいけない。
自分は翻弄されている。
こんな些細なことで喜ぶなんて。まるで、甘い菓子の欠片がないか探しまわっている乞食のようだ。
村田との間に恋愛などない。愛もない。尊敬もない。欲望。それも生き物として備わった自然な性欲ですらない。醜悪な支配欲。
なのに、自分は認めたくないだけだ。そこに愛があるのだと思いたい。だが実際にはない。
せめて持て余した性欲を分かちあい触れ合いやプレイを楽しんでいるのだと思いたい。
性欲だったら確かに村田は持て余しているだろう。だが自分は、ヘトヘトだ。持て余してはいない。校長とだってしなければいけないのに。
触れ合い? あんなに雑に扱われているのに? ないない。
プレイ。いいや、望んでいない。プレイなら麓戸の店でいくらでもできたのだ。
いつだってそうなのだ。
神崎校長との間にも、麓戸との間にも。彼らの醜悪な支配欲につきあわされているだけ。わかっている。
でも認めたくない。自分も楽しんでいるのだとせめて思いたい。
生きるためにそう思いたい。
人間として、尊厳がなければ生きられない。
村田が親に自分を紹介したいのだろうか? 親に恋人を紹介するように。
そんなはずがないことを、一瞬期待して、すぐに打ち消した。
自分にだけ、大事なことを知らせてくれた。報告してくれた。一瞬嬉しかった。やっと村田との間に、対話が成立した。
だがその気持ちも打ち消した。
担任だから、当たり前だ。
むしろ、今ごろか。
いや、確かに担任ではあるが、信頼の証では?と期待する。
待てよ、そんなはずはない。今までだって、散々裏切られてきたのだ。
好きだと言われて。話しがあると言われて。
村田には何度も騙されてきたのだ。期待しては裏切られ、期待してはこっぴどく傷つけられた。会うごとに前より深く。
今も、村田が何かおどすようなことを、小坂を困らせるような何かを言ってくるのだろうと身構えていたにだ。
だが村田の口にしたことは小坂の予想しなかったことで小坂を困惑させた。
村田の父親。社長だって? 村田はマトモだと言っているが、村田の父親がマトモであるはずがない。いったい、どんなヤクザな男かもわからない。社長だなどといって、どんな、いかがわしい商売をしているのか、わかったものではない。金の力と知恵がある手強い悪、である可能性のが高くないか。
まさか、またいかがわしいことを要求されるのでは。
村田の父親は、小坂と息子の関係を、知っているのだろうか。
危惧するのは、それだけではない。
小坂と、村田の母親、つまり村田の父親からしたら元妻との関係になる、それを、知っているのか。まさか、そのことで脅されるのではなかろうか。村田の母親のように。いや、相手は、村田の父親なのだ。それよりも、さらに凶暴な要求を突きつけられ脅されるのでは?
小坂の胸に不安は渦巻いた。
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