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第十三章 バスの中

前の席の若い教員

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 清潔感あふれる前の席の教員は、学校では生徒のお兄さんのように笑顔を振りまいて、時に厳しく、普段は優しく、愛情深く生徒に接しているのだろう。なのに陰ではこんな不潔な行為を喜んで自らすすんでしているなんて。
 
 若い教員は、貪欲に小坂の唇を割って舌を挿しこみ、ちゅうちゅうと舌を吸おうとするのだがすぐに放してしまう。
「アナルもっと気持ちよくして……アナル気持ちいいの大好き……あぁぁ」
その爽やかな口もとから、よもやこんな猥褻な言葉が吐かれるとは、なんぴとも予想だにできないだろう。ギャップも甚だしい。
 アナルだなどと恥ずかしい言葉を大きな声で恥ずかしげもなく初対面の小坂の前で平気で吐く舌。ゆさゆさ揺れる身体。
「ん……んんん」
絶頂が近いのか、理性の崩壊しきった若い教員は、とろんとした目つきで口もともだらしなく、白目をむいてよがっている。
 前の若い教員は、それでも小坂の舌を求めてきた。その必死さがかわいいと小坂は思った。自分より少しだけ若い教員。だが自分と同じようにすっかり調教されきっている。爛れた性の犠牲者。小坂は哀れみをもって青年を見つめた。

 前の若い教員が閉じていた目をうっすらあけ、小坂の目を見返して言った。
「好き……」
小坂の胸はズキンと鳴った。まるで封印していた痛みのように胸の奥の傷が疼いた。
 いや、違う。そうじゃない。彼は自分のことを好きだと言ったのではない。小坂は否定した。
 沈黙が怖かった。傷の痛みが、怖かった。
 青年が、あきらめたような哀しい顔をしたのを小坂は気づかないふりをした。小坂にかわされて、青年もまた、その発言をなかったことにしようとしていた。青年は、自分はただ淫蕩な性質のビッチだといわんばかりに、
「アナル、気持ちいい」
と小坂から視線をはずしてつぶやいた。小坂から目線をそらしてはいたが、小坂の、つまり見知らぬ男の好奇の視線を意識した、媚を売った言動だった。

 小坂はほっとした。そうして悲しかった。
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