驟雨(しゅうう)

リリーブルー

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嫉妬と契り

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 私は、手紙を渡さぬまま、自室に篭った。藤松がそんなことに首をつっこんでいるということに、動揺していた。「お堂で」と言われたのを思い返すと、腹さえ立ってきた。可愛いだけと思ってきたが、油断のならないやつではないか。
「夏さん」
簾戸の向こうから藤松が可愛い声で呼んだ。
「何だい」
私は、ついと返事をしてしまった。藤松が簾戸を開けて顔を出した。
「怒っているの?」
「どうしてそう思う」
私がそう問うと、
「わからないけど」
と藤松は答えた。
 ああ、そうなのだ。藤松はわけがわかって言っているのではないのだ。自分でもわけがわからずに、子どもらしくもないことを習い覚えては、人に聞いたままを言っているに違いない。
「お前は、そんなに度々磯松と会っているのかい」
「ううん、二、三回だよ」
「手紙を渡すだけでなく、会って話しをしているんだね」
「うん、まあ、そうだけど」
「そうだけど、何だい」
「そんなに長く話すわけじゃないよ。だって、店先で話すだけだもん」
あんな遠くの町中まで私に無断で、こっそり二三度も歩いて行ったというのか。私は、うかつだった。すっかり油断していた。私の監督はずさんだった。
「ふうん、それにしては、いろいろ知っているようじゃないか」
尋ねていて、私は、だんだん自分が嫌になってきた。まるでこれでは、恋人の行いを詮索する、嫉妬深い男のようだ。
「やっぱり僕のこと怒っているんだ」
藤松はわっと泣き出した。私はいやみな言い方になっていたことを恥じた。
「これこれ、泣くことはないよ。どれ、私が悪かったよ。藤坊は悪くない、堪忍な」
私は、藤松を抱き寄せてあやした。
「そうだ、夏さんが悪いんだ」
藤松は私を叩きながら責めた。
「ああ、そうだ、悪い、悪い、お前を疑るようなことを言って私が悪かった。お前はいい子だよ」
藤松は泣き止んだ。藤松が涙と鼻で濡れた顔を袖で拭おうとするのを私がさえぎって、ちり紙と手ぬぐいで拭ってやると藤松は、唐突に言った。
「僕が大人になったら、夏さんのお嫁になるかもしれない」
私は何を言い出すのかとおどろいて硬直した。だが、少し笑った。
「なんだ、その、かもしれないというのは」
「だって、大人になるのは、まだ先のことだから」
「まあ、いいが、そんなことをあんまりよそで言ってくれるなよ。私が責められるからね」
私は泣いた藤松の鬢の乱れを直してやりながら言った。
「そう」
藤松は、私の喜ばないのを見て、がっかりしたようだった。
「お前は、そんなことを言えば、私が喜ぶとでも思ったのかい?」
私は聞いてみた。
「ううん、そうじゃないけど」
藤松はしょげていた。
「けど、何だ?」
「けど、僕、夏さんのことが好きなんだもの。なるかもしれないと言ったのは、夏さんが承知してくれなければ、お嫁にはなれないから」
藤松は、私の膝に抱かれて、うつむいて袖をいじりながら、がんぜなく言った。
「そうでしょ?」
藤松が私を見上げた。私は、愛おしさに負けた。
「ああ、私もお前をお嫁にしたいよ。私もお前が好きだよ」
私は、そう言って、藤松を抱きしめた。藤松の頬が赤らんだ。藤松は私の胸に顔をうずめた。私は藤松の手を握りしめ、頬に唇を寄せた。藤松がうっとりとまたたきをした。藤松の柔らかな唇に唇を重ねた。私は藤松に覆い被さって畳の上にくずれた。藤松の襟を分けて、桜色の乳首を吸った。私はとまらなくなった。藤松の腰に舌を這わせた。
「あっ、あ、夏さん……」
藤松が大人のように、腰を上下させた。私は藤松の口を吸いながら、藤松の下帯に手をかけた。下帯の隙間から手を入れて、触ってやった。
「うぅん、気持ちいいよぅ。もっとしてよぅ」
藤松がねだった。だが、さすがにその先に進むのはためらわれた。藤松が私にのしかかってきた。藤松は私の襟元をはだけさせ、私がしたように私の乳首を吸った。
「くすぐったい」
私は笑った。
「夏さん」
藤松は私の指を舐めると尻の穴へ、私の指をさそった。
「アァァ」
指に感じて藤松は声をあげた。私は藤松の口を吸いながら、自分の一物をしごいた。藤松が手をのばした。私は藤松の下帯をのけて、下帯の脇から、藤松の穴に当てた。
「あぁぁ……」
私の口から喘ぎが漏れた。私と藤松は大股をひろげ、着物を乱して畳の上をはいずりまわった。



「夏さん、これで僕は、夏さんのお嫁になったんだよね?」
藤松は、目を上げてたずねた。
「そうだよ。藤松は、私の花嫁だ」
私がそう言って、藤松を抱きしめると、藤松は安心したように畳に寝転んだまま、寝息を立てはじめた。

 いいや、これでは、咲之助と稚児の磯松のようだ。咲之助はそれでよいのかもしれない。稚児の磯松だって、承知の上で奉公しているのだろう。
 だが、私と藤松は違う。私は藤松を雇っているわけではない。あずかって育てているのだ。藤松はかわいそうな身の上だ。私はせめてもの世のため人のためになることを、ということで藤松をあずかったのだ。咲之助のように、もとより享楽のために稚児を囲っているわけではない。

 藤松が目を覚ました。
「夏さん、僕のこと、まだ、好き?」
 私が答えないので、答えを催促するように、藤松は私の顔を見上げた。
「ああ、好きだよ」
眠っている間に嫌いになったかと心配したのか。私は微笑んだ。幼い子の時間の概念は、大人と違う。
「ずっと、ずっと好き?」
「ずっと好きだよ」
藤松は微笑んだ。

「だけど、そうだなあ、お前にはやはり、同じような年ごろの友達が必要かもしれないなあ。でも、お前は、友達といても、何だか変な遊びになるようだから、困ったものだなあ。いや、お前が悪いわけではないけれどもな」
私は、藤松がいったいどこからそんな風になったのか、と考えた。 すると、不意に藤松が言った。
「僕、やっぱりさっきの手紙、渡してくるよ。咲之助さんに」
「どうして」
藤松は、なんとかして私を喜ばせようとしているのかもしれないと思った。
「きっとうまくやるから、ねえ」
私は、藤松を利用することを恥じたばかりだったから、手紙を渡すことは、もう諦めていた。それでも、あんまり幾度も藤松が頼むので、とうとう藤松に手紙を託すことにした。

「無理に渡さなくてもいいのだよ。渡せぬようだったら諦めて帰っておいで。気をつけて行くんだよ。寄り道するんじゃないよ。早く帰っておいで」
私は、藤松に言い聞かせて、その後ろ姿をいつまでも見送った。
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