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恋文
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そうするうちに、再び咲之助から秘かに手紙を寄越してきた。
「私が、返事をやらないので、焦れているのだな」
咲之助は、何でも自分の思い通りにならぬと、何が何でもと躍起になるところがあった。ところがまた、私は予想を裏切られた。
その手紙には、藤松のことは一言も書かれておらず、言うなれば、私宛の恋文だった。軽い気持ちで、藤松のことだったら、断ってやる心づもりで封を開けて広げたのだったが、文面の違うのに驚いて、私は再び紙を閉じた。
生憎、藤松が傍らで、じっと見ていて、私の手元と私の顔をかわるがわる見て、咎めるような顔をした。
「あ、いや、これは、私宛の手紙だ」
私はそそくさと奥の部屋に入り、襖を立てて、手紙をあらためて広げた。
――お前様のことが夜昼想われ、心がお前様に捕らえられてしまったかのようだ。このままでは、とても生きておれぬような気さえする。お前様に会えなくなってからというもの、生きながらえたところで何になろう、全てがつまらなく情けない世の中、と思い切り、自分を捨てて生きていたが、何のはからいだったのだろう。この間の逢瀬が、どうにも、忘られぬ。何も手につかぬ。こんな苦しい思いをするならば、いっそ死のうと思えども、ままよ、またどんな機会があるとも限らないと思えば欲が出て、それもできない。こんな手紙を書いたところで、何の益にもならず、お前様を苦しめるばかりとわかっているが、どうにもならずに書いてしまった。
起きて居て 焼かるる虫の 夏夜哉――
何だか下手な句まで付いているのに笑った。これぞまさしく恋文に違いない。咲之助、何を考えているのやら。またもや、私を振り回し楽しもうという手でもあろうか。私の名は、夏之丞といったが、夏だとか夏やだとか呼ばれていたので、万が一届かぬことを恐れて、こんなふうに宛名を書かず判じ物のようにしてあるのだろう。
咲之助の苦心を思うと、可愛くもあり、愛しくもなった。私はやはり、相手から手紙をもらえたことが、嬉しかったのだろう。心のつかえが取れたように、少し楽になった。文面を信じるのも怖かったが、信じて楽になるなら、信じてもいいのではないか、私はそう思った。私は筆を執った。
――また会うときもあろうから、死ぬなどと言わず、生きているがいい。つらいのは私も同じだが、けして自棄になってはいけない、と思う。お前も私を思ってくれるなら、無茶をせず、実直に生業に励んでほしい。
咲きもせで 焼かるるばかり 夏の花――
「私が、返事をやらないので、焦れているのだな」
咲之助は、何でも自分の思い通りにならぬと、何が何でもと躍起になるところがあった。ところがまた、私は予想を裏切られた。
その手紙には、藤松のことは一言も書かれておらず、言うなれば、私宛の恋文だった。軽い気持ちで、藤松のことだったら、断ってやる心づもりで封を開けて広げたのだったが、文面の違うのに驚いて、私は再び紙を閉じた。
生憎、藤松が傍らで、じっと見ていて、私の手元と私の顔をかわるがわる見て、咎めるような顔をした。
「あ、いや、これは、私宛の手紙だ」
私はそそくさと奥の部屋に入り、襖を立てて、手紙をあらためて広げた。
――お前様のことが夜昼想われ、心がお前様に捕らえられてしまったかのようだ。このままでは、とても生きておれぬような気さえする。お前様に会えなくなってからというもの、生きながらえたところで何になろう、全てがつまらなく情けない世の中、と思い切り、自分を捨てて生きていたが、何のはからいだったのだろう。この間の逢瀬が、どうにも、忘られぬ。何も手につかぬ。こんな苦しい思いをするならば、いっそ死のうと思えども、ままよ、またどんな機会があるとも限らないと思えば欲が出て、それもできない。こんな手紙を書いたところで、何の益にもならず、お前様を苦しめるばかりとわかっているが、どうにもならずに書いてしまった。
起きて居て 焼かるる虫の 夏夜哉――
何だか下手な句まで付いているのに笑った。これぞまさしく恋文に違いない。咲之助、何を考えているのやら。またもや、私を振り回し楽しもうという手でもあろうか。私の名は、夏之丞といったが、夏だとか夏やだとか呼ばれていたので、万が一届かぬことを恐れて、こんなふうに宛名を書かず判じ物のようにしてあるのだろう。
咲之助の苦心を思うと、可愛くもあり、愛しくもなった。私はやはり、相手から手紙をもらえたことが、嬉しかったのだろう。心のつかえが取れたように、少し楽になった。文面を信じるのも怖かったが、信じて楽になるなら、信じてもいいのではないか、私はそう思った。私は筆を執った。
――また会うときもあろうから、死ぬなどと言わず、生きているがいい。つらいのは私も同じだが、けして自棄になってはいけない、と思う。お前も私を思ってくれるなら、無茶をせず、実直に生業に励んでほしい。
咲きもせで 焼かるるばかり 夏の花――
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