26 / 53
第八章
燕の死
しおりを挟む
よく朝
窓の下に、鳥の羽が散らばっていた。最初に目を留めたのは一枚。一枚、二枚、ばらばら、山のように。血。喉ぶえをかききられた燕、死んだ。獣が戯れに掻いたのか。戯れに。ただ弄ぶだけの目的で。幸福の燕。軒先に巣を作り、幸運を運びこむという燕。僕は、傷ついて死んだ自分の屍骸を見るように、見下ろした。僕がたたずんでいると、歩いてきた弓弦さんが少しはなれた所で立ち止まった。
「rondine」
僕の部屋のベランダの屋根には、つがいの燕が巣を作っているところだった。毎日どこからか、藁と泥を運んできていた。つがいの燕のどちらか片方か。もう一匹の燕が、狂ったように、夫(つま)を捜し求めて飛び回っていた。
弓弦さんがまた僕の背後の何かを見ているのに気付き、僕はくるりと向きをかえ部屋に戻った。彼は僕を見ていない。僕は戯れに掻かれて死んだ燕。非力な燕。
弓弦さんが玄関のドアを入ってきたとき、僕は、悲しみのあまり、キッチンで手をすべらせて、グラスを割った。ぱりんと割れた華奢なグラスの破片が、僕の指を切った。痛みと悲しみが、繊細な神経の走る指先と、僕の心を襲った。
「燕を埋葬してきた」
そう言って、弓弦さんが立ちすくんでいる僕を見た。弓弦さんは僕の足元の割れたガラスの破片と、僕の顔を交互に見た。僕は手で顔を覆って言った。
「壊れないものが欲しい」
生暖かい液体が、痛みとともに、僕の指を伝った。彼が、僕の傷ついた手を取り、吸血鬼のように、僕の血を舐めた。死神のように、冷たい手だった。
窓の下に、鳥の羽が散らばっていた。最初に目を留めたのは一枚。一枚、二枚、ばらばら、山のように。血。喉ぶえをかききられた燕、死んだ。獣が戯れに掻いたのか。戯れに。ただ弄ぶだけの目的で。幸福の燕。軒先に巣を作り、幸運を運びこむという燕。僕は、傷ついて死んだ自分の屍骸を見るように、見下ろした。僕がたたずんでいると、歩いてきた弓弦さんが少しはなれた所で立ち止まった。
「rondine」
僕の部屋のベランダの屋根には、つがいの燕が巣を作っているところだった。毎日どこからか、藁と泥を運んできていた。つがいの燕のどちらか片方か。もう一匹の燕が、狂ったように、夫(つま)を捜し求めて飛び回っていた。
弓弦さんがまた僕の背後の何かを見ているのに気付き、僕はくるりと向きをかえ部屋に戻った。彼は僕を見ていない。僕は戯れに掻かれて死んだ燕。非力な燕。
弓弦さんが玄関のドアを入ってきたとき、僕は、悲しみのあまり、キッチンで手をすべらせて、グラスを割った。ぱりんと割れた華奢なグラスの破片が、僕の指を切った。痛みと悲しみが、繊細な神経の走る指先と、僕の心を襲った。
「燕を埋葬してきた」
そう言って、弓弦さんが立ちすくんでいる僕を見た。弓弦さんは僕の足元の割れたガラスの破片と、僕の顔を交互に見た。僕は手で顔を覆って言った。
「壊れないものが欲しい」
生暖かい液体が、痛みとともに、僕の指を伝った。彼が、僕の傷ついた手を取り、吸血鬼のように、僕の血を舐めた。死神のように、冷たい手だった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜
水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。
そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー
-------------------------------
松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳
カフェ・ルーシェのオーナー
横家大輝(よこやだいき) 27歳
サッカー選手
吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳
ファッションデザイナー
-------------------------------
2024.12.21~
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
逃げられない罠のように捕まえたい
アキナヌカ
BL
僕は岩崎裕介(いわさき ゆうすけ)には親友がいる、ちょっと特殊な遊びもする親友で西村鈴(にしむら りん)という名前だ。僕はまた鈴が頬を赤く腫らせているので、いつものことだなと思って、そんな鈴から誘われて僕は二人だけで楽しい遊びをする。
★★★このお話はBLです 裕介×鈴です ノンケ攻め 襲い受け リバなし 不定期更新です★★★
小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる