パスコリの庭

リリーブルー

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第八章

燕の死

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よく朝
 窓の下に、鳥の羽が散らばっていた。最初に目を留めたのは一枚。一枚、二枚、ばらばら、山のように。血。喉ぶえをかききられた燕、死んだ。獣が戯れに掻いたのか。戯れに。ただ弄ぶだけの目的で。幸福の燕。軒先に巣を作り、幸運を運びこむという燕。僕は、傷ついて死んだ自分の屍骸を見るように、見下ろした。僕がたたずんでいると、歩いてきた弓弦さんが少しはなれた所で立ち止まった。
「rondine」
僕の部屋のベランダの屋根には、つがいの燕が巣を作っているところだった。毎日どこからか、藁と泥を運んできていた。つがいの燕のどちらか片方か。もう一匹の燕が、狂ったように、夫(つま)を捜し求めて飛び回っていた。
 弓弦さんがまた僕の背後の何かを見ているのに気付き、僕はくるりと向きをかえ部屋に戻った。彼は僕を見ていない。僕は戯れに掻かれて死んだ燕。非力な燕。

 弓弦さんが玄関のドアを入ってきたとき、僕は、悲しみのあまり、キッチンで手をすべらせて、グラスを割った。ぱりんと割れた華奢なグラスの破片が、僕の指を切った。痛みと悲しみが、繊細な神経の走る指先と、僕の心を襲った。
「燕を埋葬してきた」
そう言って、弓弦さんが立ちすくんでいる僕を見た。弓弦さんは僕の足元の割れたガラスの破片と、僕の顔を交互に見た。僕は手で顔を覆って言った。
「壊れないものが欲しい」
生暖かい液体が、痛みとともに、僕の指を伝った。彼が、僕の傷ついた手を取り、吸血鬼のように、僕の血を舐めた。死神のように、冷たい手だった。

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