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第三章
uccidere
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弓弦さんを疑うまい、と自分に言い聞かせるものの、やはりおかしい。
この件について、――事件と呼ぶのを、僕は怖くて避けた――弓弦さんは何かを隠している、それは間違いないことのように思った。でも、弓弦さんが秘密にしておきたいなら、それでいいじゃないか。何も僕が暴き出さなくても。
とは思いつつも、弓弦さんが毎夜うなされているのを、僕は聞かされていて、弓弦さんが事実を隠し続けるのが、僕にとっても、弓弦さんにとっても、あまり良いことだとは思えないのは確かだった。つまり、一言で言うと、僕は、弓弦さんのことが心配だったのだ。友人を心配するのは、普通ではないだろうか? それとも、僕のエゴだっただろうか。僕は、自分を防衛しつつ、彼を精神的に利用していただけだろうか。
「uccido uccidi uccide uccidiamo uccidete uccidono」
彼が放心した表情で、居間の入り口にぼんやり立ったまま、活用をつぶやいていた。
「何をぶつぶつ言っているの?」
「俺、今何か言っていたか」
「言っていた……ere動詞の活用、そんな物騒な単語で覚えたの? 僕はtemereで……」
「そんなに、恐れることはない」
uccidere 殺す。temere 恐れる。aspettare 待つ。僕は自室に入って、テキストを確認した。
aspetto aspetti aspetta aspettiamo aspettate aspettano
僕もぶつぶつare動詞の活用をつぶやいていた。ふとテキストの余白に目を留めると、僕のテキストなのに、他人の字で、メモ書きのように、小さく何か書かれてあった。
『tornava a casa:l'uccisero:cadde tra spini:come in croce』
前から、こんなメモ、書いてあっただろうか? それはパスコリの詩に似ていた。家に帰る時に、殺されて、いばらの中に、十字架のように。何のことだろう?
この件について、――事件と呼ぶのを、僕は怖くて避けた――弓弦さんは何かを隠している、それは間違いないことのように思った。でも、弓弦さんが秘密にしておきたいなら、それでいいじゃないか。何も僕が暴き出さなくても。
とは思いつつも、弓弦さんが毎夜うなされているのを、僕は聞かされていて、弓弦さんが事実を隠し続けるのが、僕にとっても、弓弦さんにとっても、あまり良いことだとは思えないのは確かだった。つまり、一言で言うと、僕は、弓弦さんのことが心配だったのだ。友人を心配するのは、普通ではないだろうか? それとも、僕のエゴだっただろうか。僕は、自分を防衛しつつ、彼を精神的に利用していただけだろうか。
「uccido uccidi uccide uccidiamo uccidete uccidono」
彼が放心した表情で、居間の入り口にぼんやり立ったまま、活用をつぶやいていた。
「何をぶつぶつ言っているの?」
「俺、今何か言っていたか」
「言っていた……ere動詞の活用、そんな物騒な単語で覚えたの? 僕はtemereで……」
「そんなに、恐れることはない」
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