パスコリの庭

リリーブルー

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後日譚

白薔薇の花束(6)

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「そうなんですか……」
差し出された花束を、千蔭は受けとった。
 思い出をいっしょに偲ぶのは、きっとよいことに違いない。こばむ理由はない。他人を部屋にあげることをしない千蔭にしては珍しく、弓弦の弟だという人を、千蔭は部屋に上げた。
「すみません、夜遅く……すぐ来られればよかったんですけど」
確かに、こんな夜に、初めて会った人を、いくら亡き元恋人の家族だとはいえ、部屋に上げたりするのは、無用心かもしれない、と千蔭は、そのことばに、自分の浅慮を思って、今さらながら、少し、警戒して、身がまえた。治療をしたとはいえ、やはり、あのことの後遺症があったのだ。だから、人嫌いと勘違いされるくらい、警戒して、ふだんは、慎重にしていたのだ。でも、自分でもきづかない隙が、こうして人寂しい夜には、しのびよるのかもしれない。
「いえ僕も、あの後、用事があって外出していたので夜でないと帰っていなくて、ちょうどよかったんです」
千蔭は、それでも、弓弦にそっくりの人の顔から、目を離すことができなかった。顔だけではないのだ。何もかも、しぐさや声まで、そっくりだったのだから。帰ってほしくない。もうちょっと居て欲しい、そう思った。
「そうですか。それにしても、アポなしで、いきなりお訪ねしてしまって失礼しました」
そんな丁寧な物腰も、弓弦にそっくりだった。
「お気になさらないでください……わざわざ訪ねてきてくださって僕は、ほんとうに嬉しいんです」
千蔭は、受けとった花束をどうしようか迷った。花瓶など、持っていないのだ。千蔭は、いくつもあったワインの空き瓶に水を入れ、次々に花を挿していった。ずらりと、花を挿した空き瓶が並んだ部屋は、現代アートのような、不思議な空間になった。
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