ジャンとアユム

ジャンの居場所が取られる

そこは僕の場所だぞ！

ジャンはお気に入りの場所を取られた猫みたいに怒った。

お前の居場所なんて、ここにはないんだからな！  追い出してやる！

そう息巻いてみても、相手はソファーで前後不覚に眠っている。

こうなったら眠っている間に嫌がらせして、この図々しい泥棒猫が自分から出て行くように仕向けてやるんだ！

ジャンはケイやアユムの勝手な振る舞いに腹を立てていた。

だからケイの大事な息子を傷つけてやってもいいと思ったのだ。

むしろ傷つけてやりたい。

ケイにも思い知らせてやるんだ。

僕が一人で、いつもどんなに寂しい思いをしているかを。


　みんな僕をないがしろにしてる！


　それに引き換え、アユムはみんなに大事にされてるんだろう。見ればわかる。いかにも金持ちのお坊ちゃんだ。服だって持ち物だって、子どものくせにみんなブランドものだ。
　そりゃあケイだってたまには買ってくれるけど。服だってなんだって、ジャンが今身につけているものは、ほとんどみんなケイが買ってくれたものだ。
　それに気色悪いエロオヤジたちとデートすれば高価なものだって買ってもらえないこともない。
　だけど、それはダメだってケイが言うから。
　だから我慢してるのに。

　なのに。

　そう思うとうらやましさと寂しさに胸が痛む。

　みんなに、ちやほやされて甘やかされてるんだろ？
　
　ケイに愛されていることも疑いもせずに。ここに自分の場所があることを当たり前みたいに思って家に入ってくる。自分が受け入れられるのは当然だというように。
　
　僕がやっと見つけた場所なのに！

　音楽学校？  はん！　いいご身分だね。
　僕のことなんて、誰も助けてくれなかったのに！

　ジャンはケイに拾われる前は、ずいぶん荒んだ暮らしをしていたのだ。


　ケイだって、普段偉そうに僕にいろいろ注意するけど、結局、僕より自分の息子のが大事なんだろ？ 

　ジャンは嫉妬で気が狂いそうだった。

　 だから、こうやって、僕になんの相談もなく……！


　ジャンは、怒りにまかせ、アユムの白シャツの襟元をつかんで、引き千切ろうとした。