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大学生はクラブでチラシを得る
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巨大スピーカーから流れるベースの重低音が箱の空気もろとも腹を圧する。
「つまり相手を見つけられるんだよ」
赤や青の光が点滅する喧騒の中でセツは、唯一動かない誰かの頭が言っているのを聞いた。陶酔して惑星のように揺れ動く頭の間を縫いセツは恒星目指して移動した。
奥にはバーのカウンター席があって、踊り疲れた男女が気怠げにとまり木にとまっていた。カウンターの向こうから男が
「ビエ」
と叫ぶ。セツはあわててポケットをさぐり、ようやっと、しわくちゃのチケットを取り出して見せたが、間髪を容れず、
「コモンディ」
と聞かれセツはかろうじて
「モヒート」
と答えた。ガラガラと氷の音がして緑のミントが茎ごと突き刺さったグラスに小気味よく氷が入った。透明で青く光るトニックウォーターが注がれると、ミシッと氷が溶ける音がして、氷がくるりと回転した。セツは飲み物を受け取ると、興味なさそうな顔で、慣れないアルコールを口にしながら、さっきの男たちの会話に聞き耳を立てた。
「ねえ、聞いてる?」
目の縁を黒く塗った女の子が隣からしきりに話しかけてきていた。緑のライムがストローに突き刺さり酸っぱい味がセツの舌を刺す。むせてゲホゲホと背中を丸めたセツは、
「ああ、うん、ちょっとごめん」
と女の子の身体を努めて優しく押しやって立ち上がった。
「Chiant!」
女の子のいらだったような侮蔑の声がセツの背中に投げつけられた。
セツは、帰り際さりげなく、出口に置かれていた今週のイベントのチラシを手に取った。ほかのチラシのついでのように二、三枚といっしょに。
「チェッなんだこれ、ゲイ・イベントか」
と誰も聞いていないのに、それどころかセツのことなんか誰も気にかけていないのに、ことさらに、手にした後で気づいたというように、声に出して、そのくせ、ほかのチラシといっしょに折りたたんんで無造作にポケットに突っ込んだ。
クラブを出ると街の古い石畳が街灯の光に濡れたように光っていた。夜中だというのに界隈には、若い人間がたむろしていた。
「ガキはお断りさ」
男が歩道を通るセツに視線を送りながら言った。
「いざとなるとママが恋しくて泣き出すのさ」
男の声に女の子のコケティッシュな笑い声がかぶさった。
自分は大人だ。大学生になってから、ちゃんと、兄と二人で暮らしている。
バカにしてる。
「つまり相手を見つけられるんだよ」
赤や青の光が点滅する喧騒の中でセツは、唯一動かない誰かの頭が言っているのを聞いた。陶酔して惑星のように揺れ動く頭の間を縫いセツは恒星目指して移動した。
奥にはバーのカウンター席があって、踊り疲れた男女が気怠げにとまり木にとまっていた。カウンターの向こうから男が
「ビエ」
と叫ぶ。セツはあわててポケットをさぐり、ようやっと、しわくちゃのチケットを取り出して見せたが、間髪を容れず、
「コモンディ」
と聞かれセツはかろうじて
「モヒート」
と答えた。ガラガラと氷の音がして緑のミントが茎ごと突き刺さったグラスに小気味よく氷が入った。透明で青く光るトニックウォーターが注がれると、ミシッと氷が溶ける音がして、氷がくるりと回転した。セツは飲み物を受け取ると、興味なさそうな顔で、慣れないアルコールを口にしながら、さっきの男たちの会話に聞き耳を立てた。
「ねえ、聞いてる?」
目の縁を黒く塗った女の子が隣からしきりに話しかけてきていた。緑のライムがストローに突き刺さり酸っぱい味がセツの舌を刺す。むせてゲホゲホと背中を丸めたセツは、
「ああ、うん、ちょっとごめん」
と女の子の身体を努めて優しく押しやって立ち上がった。
「Chiant!」
女の子のいらだったような侮蔑の声がセツの背中に投げつけられた。
セツは、帰り際さりげなく、出口に置かれていた今週のイベントのチラシを手に取った。ほかのチラシのついでのように二、三枚といっしょに。
「チェッなんだこれ、ゲイ・イベントか」
と誰も聞いていないのに、それどころかセツのことなんか誰も気にかけていないのに、ことさらに、手にした後で気づいたというように、声に出して、そのくせ、ほかのチラシといっしょに折りたたんんで無造作にポケットに突っ込んだ。
クラブを出ると街の古い石畳が街灯の光に濡れたように光っていた。夜中だというのに界隈には、若い人間がたむろしていた。
「ガキはお断りさ」
男が歩道を通るセツに視線を送りながら言った。
「いざとなるとママが恋しくて泣き出すのさ」
男の声に女の子のコケティッシュな笑い声がかぶさった。
自分は大人だ。大学生になってから、ちゃんと、兄と二人で暮らしている。
バカにしてる。
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