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店長はお見通し
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「なあ、真面目な学士さん」
店長はセツをからかうように言った。
「俺は、まだ学士じゃありません……」
セツはまだ、卒業に必要な論文を書くための調査もしていなければ、資料集めもしていなかった。友人は、もう論文の執筆にとりかかったらしいのに。自分は、テーマすら、決まっていなかった。
「へえ、大人ぶるのは、やめたのか。たしか、あんた、入店のときは、二十七歳の身分証を出していたよな」
店長は、おもしろそうに笑った。
「あれは、誰の身分証だ? クソ真面目な四角いメガネの男の写真、たしかにあんたに似ていることは似ていたが、とても、あんたには見えなかったぜ」
兄の身分証をだしたのをバレていたのか。
「年がって意味じゃないさ。たしかにあの男は老けていたし、あんたは若い。だけどそれだけじゃない、顔が似てても、中身がちがう」
店長は、知ったような口ぶりだった。
「おおかた兄さんかだれかのだろう? あんたの年上コンプレックスは、あの眉間にシワをよせた小難しいことをいいそうな男のせいか?」
今日のイベントは二十歳以上とあったので、勝手にもちだした兄さんの身分証を見せたのだ。セツはためいきをついた。
「あはは、図星だろう」
店長は、おかしそうに笑った。
「これで、少しは気が楽になったか? うさばらしでこんな無茶をするのもいいが、そういうのは、後味が悪い。俺も、若いあんたの将来をだめにしたくないんだ」
店長は、セツに説教してきた。
「でも、僕より若い子も……」
「おいおい、ナンパにつきあってくれた子を売る気かい? おおめに見てやれよ。あの少年は、宿なしだったんだ。それでパトロンをさがしに、ここらをうろついていたときがあったんだよ。あの子の友だちといっしょにね。あんたは、そんなことする必要は、ないんだろ?」
セツは驚いて目をみはった。後ろをふりかえると、少年はソファに座って、うたたねをしていた。
「あの子は、かわいそうな子なんだよ。それに比べて、あんたの悩みはなんだ?」
「で、でも僕だって……」
セツは唇をふるわせた。
「わかったよ。もう説教はやめる。しょうにあわないからな。ま、ドットーレはドットーレなりに、なにか悩みがあるんだろう。おい、こら、泣くなよ。俺は、泣かせるつもりで言ったんじゃないぜ」
店長は苦笑していたが、どこか声は優しかった。
「別に俺は、あんたにやさしくしたいわけじゃないぜ。ミリオンはあんなクールな男だが、弟には甘いらしい。でも、俺は、あんたにやさしくなんかしないぜ」
店長は、照れ隠しのように言った。
「俺はただ、なにか気がかりなことがあると、楽しめないと思ってな。どうせなら、俺はあんたと楽しみたいんだ。たとえ一夜かぎりの関係だとしてもね、俺はそれを大切にしてる。明日死ぬかもしれないんだぜ。最高の夜にしたいじゃないか。あんたも、気持ちよくなりたいんだろう?」
「Oui」
セツはだぶついた長袖のTシャツの袖で涙をぬぐった。
店長はセツをからかうように言った。
「俺は、まだ学士じゃありません……」
セツはまだ、卒業に必要な論文を書くための調査もしていなければ、資料集めもしていなかった。友人は、もう論文の執筆にとりかかったらしいのに。自分は、テーマすら、決まっていなかった。
「へえ、大人ぶるのは、やめたのか。たしか、あんた、入店のときは、二十七歳の身分証を出していたよな」
店長は、おもしろそうに笑った。
「あれは、誰の身分証だ? クソ真面目な四角いメガネの男の写真、たしかにあんたに似ていることは似ていたが、とても、あんたには見えなかったぜ」
兄の身分証をだしたのをバレていたのか。
「年がって意味じゃないさ。たしかにあの男は老けていたし、あんたは若い。だけどそれだけじゃない、顔が似てても、中身がちがう」
店長は、知ったような口ぶりだった。
「おおかた兄さんかだれかのだろう? あんたの年上コンプレックスは、あの眉間にシワをよせた小難しいことをいいそうな男のせいか?」
今日のイベントは二十歳以上とあったので、勝手にもちだした兄さんの身分証を見せたのだ。セツはためいきをついた。
「あはは、図星だろう」
店長は、おかしそうに笑った。
「これで、少しは気が楽になったか? うさばらしでこんな無茶をするのもいいが、そういうのは、後味が悪い。俺も、若いあんたの将来をだめにしたくないんだ」
店長は、セツに説教してきた。
「でも、僕より若い子も……」
「おいおい、ナンパにつきあってくれた子を売る気かい? おおめに見てやれよ。あの少年は、宿なしだったんだ。それでパトロンをさがしに、ここらをうろついていたときがあったんだよ。あの子の友だちといっしょにね。あんたは、そんなことする必要は、ないんだろ?」
セツは驚いて目をみはった。後ろをふりかえると、少年はソファに座って、うたたねをしていた。
「あの子は、かわいそうな子なんだよ。それに比べて、あんたの悩みはなんだ?」
「で、でも僕だって……」
セツは唇をふるわせた。
「わかったよ。もう説教はやめる。しょうにあわないからな。ま、ドットーレはドットーレなりに、なにか悩みがあるんだろう。おい、こら、泣くなよ。俺は、泣かせるつもりで言ったんじゃないぜ」
店長は苦笑していたが、どこか声は優しかった。
「別に俺は、あんたにやさしくしたいわけじゃないぜ。ミリオンはあんなクールな男だが、弟には甘いらしい。でも、俺は、あんたにやさしくなんかしないぜ」
店長は、照れ隠しのように言った。
「俺はただ、なにか気がかりなことがあると、楽しめないと思ってな。どうせなら、俺はあんたと楽しみたいんだ。たとえ一夜かぎりの関係だとしてもね、俺はそれを大切にしてる。明日死ぬかもしれないんだぜ。最高の夜にしたいじゃないか。あんたも、気持ちよくなりたいんだろう?」
「Oui」
セツはだぶついた長袖のTシャツの袖で涙をぬぐった。
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