言の葉の国(春隣編)

リリーブルー

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逃げ出した活字

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 歩いていると雪がやんで、周りがざわざわし始めた。
「逃げやがったな」
リリーは舌を打つ。
「兄さん、あそこ」
シミーが指差す方向に活字の「ゆ」が転がっていた。「ゆ」は丸さを利用して回転しながら逃げてゆく。

 勤務時間外だが仕方ない。

 リリーはポケットから携帯網を取り出し、活字に向かって投げた。
 すかさずシミーが駆け出した。
 リリーが追いつくとシミーは「ゆ」を押さえこんでいた。
「これ、マナさんの『ゆ』ですね」
シミーがリリーを振り仰いだ。
「そうだな」
リリーは懐中時計で時刻を確認した。
「急ごう」
リリーとシミーは踵を返した。
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