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サバティカル
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橋田優(はしだ ゆう)三十八歳はサバティカルを取った。
優は優秀な日本文化学者で教授になったばかりだ。退職年齢の違いなどにより国立大と私立大の教員の昇進年齢は異なる場合もあるが、それにしても早い出世だ。一般企業や官庁で言えば教授は課長職相当か。定年までになれればいいポジションだ。だから五十歳前後でなる者が多いように思う。四十代でなれば早い方だ。
今の四十代は、やたら人数が多い。団塊世代の次に人数の多い団塊ジュニアたちだ。だからポストは空席にならず、課長相当という役職が増殖しているらしい。
その上の少子化だ。一生非常勤で食えなくて命を絶つ者までいる。優秀な人材なのに惜しいことだ。非常勤になれるならまだいい。いや、不安定な非常勤でいるのがいいことだとは思わない。
だが、自分にはどうすることもできない。上の世代のやっかみを一身に受け、この度は、この旅は、ナーバスになっての昇進旅行ならぬ、傷心旅行を兼ねている。
「若いのにサバティカルなんてとって」
と教授たちにイヤミを言われた。
「正確には、療養休暇なんです」
「だったら家で大人しくしてればいいのに、仮面うつか?」
正確なところは、大学の事務員にまかせてあるから自分はよく知らない。昨今は、働き方改革で、変則的なことが多く、自分は面倒で、よく把握していない。
研究は孤独だ。そんなことは予想していたし、むしろそれを期待して研究者になった。だからそれはいい。一人でいられてせいせいとする。
そうではなくて、中傷ややっかみだらけの、面倒な人間関係に疲れ果てていた。研究は人間関係が意外と大事だった。
人間関係が面倒な向きは研究者へ、などと子ども向け、若者向け職業案内によくあるが、騙されてはいけない。
研究者こそ人間関係で繋がっている世界だ。
だからもう自分は不適格者だ。昇進してしまえばこっちのものだと思って今日まで頑張ってきた。だが、もう燃え尽きた。優の繊細な心は、キツい研究者仲間にズケズケ嫉妬まじりの失礼なことを言われてボロボロだった。
自分を肯定してほしい。褒めてもらいたい。優しくしてほしい。
それがかなわないなら、誰とも関わりたくない。
もう日本語も聞きたくない。話したくない。
僕は英語は苦手だ。日本関係の研究者なんだからか仕方ないじゃないか。
日本語のない国に行きたい。
優は優秀な日本文化学者で教授になったばかりだ。退職年齢の違いなどにより国立大と私立大の教員の昇進年齢は異なる場合もあるが、それにしても早い出世だ。一般企業や官庁で言えば教授は課長職相当か。定年までになれればいいポジションだ。だから五十歳前後でなる者が多いように思う。四十代でなれば早い方だ。
今の四十代は、やたら人数が多い。団塊世代の次に人数の多い団塊ジュニアたちだ。だからポストは空席にならず、課長相当という役職が増殖しているらしい。
その上の少子化だ。一生非常勤で食えなくて命を絶つ者までいる。優秀な人材なのに惜しいことだ。非常勤になれるならまだいい。いや、不安定な非常勤でいるのがいいことだとは思わない。
だが、自分にはどうすることもできない。上の世代のやっかみを一身に受け、この度は、この旅は、ナーバスになっての昇進旅行ならぬ、傷心旅行を兼ねている。
「若いのにサバティカルなんてとって」
と教授たちにイヤミを言われた。
「正確には、療養休暇なんです」
「だったら家で大人しくしてればいいのに、仮面うつか?」
正確なところは、大学の事務員にまかせてあるから自分はよく知らない。昨今は、働き方改革で、変則的なことが多く、自分は面倒で、よく把握していない。
研究は孤独だ。そんなことは予想していたし、むしろそれを期待して研究者になった。だからそれはいい。一人でいられてせいせいとする。
そうではなくて、中傷ややっかみだらけの、面倒な人間関係に疲れ果てていた。研究は人間関係が意外と大事だった。
人間関係が面倒な向きは研究者へ、などと子ども向け、若者向け職業案内によくあるが、騙されてはいけない。
研究者こそ人間関係で繋がっている世界だ。
だからもう自分は不適格者だ。昇進してしまえばこっちのものだと思って今日まで頑張ってきた。だが、もう燃え尽きた。優の繊細な心は、キツい研究者仲間にズケズケ嫉妬まじりの失礼なことを言われてボロボロだった。
自分を肯定してほしい。褒めてもらいたい。優しくしてほしい。
それがかなわないなら、誰とも関わりたくない。
もう日本語も聞きたくない。話したくない。
僕は英語は苦手だ。日本関係の研究者なんだからか仕方ないじゃないか。
日本語のない国に行きたい。
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