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小坂が麓戸のために作ったものの失敗した料理を自分で食べたのを知り「えっ」ってなってる麓戸

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「うん、美味しい……」

麓戸は、銀のスプーンで、ビーフストロガノフを一口、口に運んで、そう言った。

 小坂が、心配そうな目で、じっと見つめているのだから、そう言わざるを得ない。

「本当?」

なのに小坂は、まだ、麓戸の顔をじっと見守っている。

そんなに、自分に自信がないのか?

小坂を、そんな弱気な人間にした責任の一端は自分にもある。

小坂の自信をことごとく潰して、コントロールしやすいように、精神的、肉体的に改造したのは自分だ。

だから、その責任を担おうと、こうして初めての手作り料理を美味しいと言ってやっているじゃない……。

「かっ、かはっ……!」

麓戸はビーフストロガノフを吐き出した。

「あ、やっぱり」

小坂が差し出したコップの水を、麓戸は奪って飲み干した。

「市販のフォンドボーを使って、どうしてこんな味に」

麓戸は、怒りを抑えて、コップをテーブルにカタンと置いた。

「あ、やっぱり、そっちが失敗作の方だったか。どっちかわからなくなっちゃったんですよねー」

小坂は、そう言うと、あっさり席を立った。

 そして、全く同じに見える、もう一つの鍋を抱えてきて麓戸に言った。

「それ、全部食べていいですよ。その代わり、ちゃんと鍋とか洗っておいてくださいね」

そう言い残すと、小坂は鍋を抱えて、すたすたと歩き去った。

「ちょっと待った、どこに行く」

麓戸は、追いすがった。

 小坂が振り向いて言った。

「えぇ、それ聞いちゃいますか? ひ・み・つ」

小坂はウィンクして出て行った。玄関ドアのバタンと閉まる音がした。

校長? 校長の所なのか!?

それとも、生徒会長のところ? 風紀委員長か?

いや、研修所で惚れかけた池井とかいう教師のところか?

宮本君のところか? まさか、悪照!?

俺より大事な男、誰なんだ!

それより問題なのは、ドロドロぐっちゃーとなっているキッチンだ。

もう二度と、絶対、あいつには厨房に入らせまい。

特に俺のレストランの厨房には絶対だ!

「不味い……でも愛出人が一生懸命作った料理だと思えば……」

麓戸は泣きながら、鍋いっぱいの失敗ビーフストロガノフを、その後、三日間、食べ続けたのだった。
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