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車の中で
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こうしているうちに、また、よからぬ人たちがメールを寄越し、また実際周囲をうろつかれるにつけても、よくないことになる前に、彼の家に行こうと思う。しかし、なお遠慮されて、準備も滞る。
霜がたいそう白い早朝
──僕の心は寂しさに冷えきって、霜がおりています。君はそんなことないでしょうね。
と送信すると
──月も見ないで寝てしまった、と言うような冷たいあなただから、霜もおりるでしょう。僕の心を拒むから。
と返信があり、その夕暮れに彼は来た。
「紅葉がきれいな季節ですね。今度、いっしょに見に行きましょう」
と誘ってくれたので
「いいですね。嬉しいなあ」
と答えたものの、当日になると
──今日は、具合が悪くて
と言って家にいたので
──えー! がっかり。用事がすんだら、必ず行きましょうね
とあったが、その夜の時雨は、いつもより強く、木々の葉を残らず散らすように降るので、目を覚まして
「風前の灯火だなあ」
と独り言を言った。皆散ってしまうだろう、昨日見られなくて、運が悪かったと思い明かして、早朝、敦道君から
──あなたはこれを、ただの神無月の時雨とみているでしょう? ダメだなあ。あなたと行けなくて残念でたまらない僕の気持ちがこもっているのですよ!
と言ってきた。
──時雨のせいか何のせいか、決めかねて、乱れ散る空を、僕もながめていました。本当に。紅葉は夜半の時雨のせいで散ってしまったでしょう。昨日山辺を見たらよかった。
と送ると
──そうだそう、なんで山辺を見なかった。今朝に悔いても何の甲斐なし。
もうないと思うけれども紅葉の散り残りを、さあ行って見よう。
と言ってきたので、僕は
──落葉しない常緑樹でも紅葉したら、さあ行きましょう、尋ね尋ねて。
失敗でしたよ。もう散り尽くしたことでしょう。
夕暮れに、敦道君が来て、僕を連れ出した。彼の家は、改築しているということで、一月半ほど、従兄弟の家にいるという。人の家に僕をつれて行くなんて
「非常識だよ」
と抗議したけれど、彼は無理に僕を車に乗せた。彼の従兄弟の家に着くと、僕を、人気のない車庫に置いて、自分は家の中に入ってしまった。僕は、暗くて薄気味悪いのと、見つかったらどうしようというのとで、びくびくしていた。しばらくして、敦道君が戻ってきた。
「もう、みんな寝てしまったから大丈夫。でも、中に連れていくのは、無理そうだった」
「そうでしょう? だから、僕がいったじゃないか」
全く、敦道君は強引なんだから。
「うん、ごめんなさい、こんな所で」
彼は僕を抱き寄せると、片手を服の中に入れてきた。僕は彼の肩をつかんで慌てて言った。
「え? 何? こんな所でって」
「うん、こんな所で、だめ? 狭い? 後ろに行く?」
「いや、狭いとかそういうことじゃなくて」
「大丈夫、絶対誰も来ないから」
そういう問題じゃないが、もう止められない。
僕の背中をなでて息をついていた敦道君が、僕の肩に手をかけて向かい合わせにさせて言った。
「ねえ、和泉君って、きれいだよね、今さらだけど」
彼は、僕の頬をなでる。
「何を言っているんだよ」
僕は照れて、逃れようとする。
「あなたが、人に言い寄られるのも当然だよなあ」
「そんなことないって」
「あー、今までどうして、あなたを野放しにしていたのかなあ! もうこれは、何が何でも傍において、独り占めにしないことには安心できない」
彼は気持ちをおさえきれない、というように、僕を強く抱いた。
「苦しいよ」
僕は、彼のひたむきさが、僕の中に入り込み、僕のためらいを押し流すのを感じた。
夜が明けたので、すぐに敦道君は、僕を家まで送り
「人が起きないうちに」
と急いで帰り、早朝、
──あなたと寝た夜以来、寝覚めがちで、夢か現か、今朝も夢見心地
とメールを寄越す。僕の返事。
──その夜以来、僕は行方も知れず。心ひかれるままに、無謀な旅。
霜がたいそう白い早朝
──僕の心は寂しさに冷えきって、霜がおりています。君はそんなことないでしょうね。
と送信すると
──月も見ないで寝てしまった、と言うような冷たいあなただから、霜もおりるでしょう。僕の心を拒むから。
と返信があり、その夕暮れに彼は来た。
「紅葉がきれいな季節ですね。今度、いっしょに見に行きましょう」
と誘ってくれたので
「いいですね。嬉しいなあ」
と答えたものの、当日になると
──今日は、具合が悪くて
と言って家にいたので
──えー! がっかり。用事がすんだら、必ず行きましょうね
とあったが、その夜の時雨は、いつもより強く、木々の葉を残らず散らすように降るので、目を覚まして
「風前の灯火だなあ」
と独り言を言った。皆散ってしまうだろう、昨日見られなくて、運が悪かったと思い明かして、早朝、敦道君から
──あなたはこれを、ただの神無月の時雨とみているでしょう? ダメだなあ。あなたと行けなくて残念でたまらない僕の気持ちがこもっているのですよ!
と言ってきた。
──時雨のせいか何のせいか、決めかねて、乱れ散る空を、僕もながめていました。本当に。紅葉は夜半の時雨のせいで散ってしまったでしょう。昨日山辺を見たらよかった。
と送ると
──そうだそう、なんで山辺を見なかった。今朝に悔いても何の甲斐なし。
もうないと思うけれども紅葉の散り残りを、さあ行って見よう。
と言ってきたので、僕は
──落葉しない常緑樹でも紅葉したら、さあ行きましょう、尋ね尋ねて。
失敗でしたよ。もう散り尽くしたことでしょう。
夕暮れに、敦道君が来て、僕を連れ出した。彼の家は、改築しているということで、一月半ほど、従兄弟の家にいるという。人の家に僕をつれて行くなんて
「非常識だよ」
と抗議したけれど、彼は無理に僕を車に乗せた。彼の従兄弟の家に着くと、僕を、人気のない車庫に置いて、自分は家の中に入ってしまった。僕は、暗くて薄気味悪いのと、見つかったらどうしようというのとで、びくびくしていた。しばらくして、敦道君が戻ってきた。
「もう、みんな寝てしまったから大丈夫。でも、中に連れていくのは、無理そうだった」
「そうでしょう? だから、僕がいったじゃないか」
全く、敦道君は強引なんだから。
「うん、ごめんなさい、こんな所で」
彼は僕を抱き寄せると、片手を服の中に入れてきた。僕は彼の肩をつかんで慌てて言った。
「え? 何? こんな所でって」
「うん、こんな所で、だめ? 狭い? 後ろに行く?」
「いや、狭いとかそういうことじゃなくて」
「大丈夫、絶対誰も来ないから」
そういう問題じゃないが、もう止められない。
僕の背中をなでて息をついていた敦道君が、僕の肩に手をかけて向かい合わせにさせて言った。
「ねえ、和泉君って、きれいだよね、今さらだけど」
彼は、僕の頬をなでる。
「何を言っているんだよ」
僕は照れて、逃れようとする。
「あなたが、人に言い寄られるのも当然だよなあ」
「そんなことないって」
「あー、今までどうして、あなたを野放しにしていたのかなあ! もうこれは、何が何でも傍において、独り占めにしないことには安心できない」
彼は気持ちをおさえきれない、というように、僕を強く抱いた。
「苦しいよ」
僕は、彼のひたむきさが、僕の中に入り込み、僕のためらいを押し流すのを感じた。
夜が明けたので、すぐに敦道君は、僕を家まで送り
「人が起きないうちに」
と急いで帰り、早朝、
──あなたと寝た夜以来、寝覚めがちで、夢か現か、今朝も夢見心地
とメールを寄越す。僕の返事。
──その夜以来、僕は行方も知れず。心ひかれるままに、無謀な旅。
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