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第3章(終章)まつろわぬ者の旗
凶物どもの最期③
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破断銃を手に(チーム随一の射撃の名手であるラサムは両手に構え)勇躍ベウルセン凱星殿のロビーに踏み込んだラージャーラ人錬装者たちであったが、教軍超兵はおろか動くものの気配とてない不気味な静寂に支配された広大な空間にさしもの主任技師も戸惑いを隠せない。
「──レシャ湾上空に教軍幹部が集結している以上、既に競技場内には祭事の用意は整えられているはず…だが飛翔する監視カメラともいうべき“鳥型護衛絆獣”ピジェスの目をよくぞ逃れて作業を終えたものだ…まあ、凱鱗領本土よりはるかに発達した、移動都市ならではの縦横に張り巡らされた地下道がそれを可能にしたのであろうが…」
距離を措いて散開し、場内設備の物陰に身を潜めつつじりじりと前進する四人組──だがスタジアムへの入場門へと続く大廊下へと出た瞬間、およそ100レクト(75メートル)ほど前方に彼らは信じられぬ光景を目撃した!
──何と、輝く肌に虹色に煌めく微小な霊石が惜しげもなく鏤められた髪飾りや腕輪、そして乳首カップといった装身具を帯びつつも、まとった衣服は限界まで布地を節約した艷やかな金色のTバックという、傍目にはほとんど裸身というべき4人の操獣師が宙空に輪となって立ち、その額に装着された聖幻晶から発射された4色の光線──即ち萩邑りさらからは白色の、チラワン=シーソンポップからは鳶色の、そしてローネ=ウルリッヒからは若草色の、さらにミリラニ=カリリからは黄蘗色のそれが、ぶざまな苦鳴とともに床上でのたうちまわる2匹の龍坊主を容赦無く灼いているではないか!?
「こ、これは一体──!?
おう、あの茶褐色の龍坊主は教宣室において蒼き虎を圧倒してのけた強者…そ、それが生身の操獣師たちによってなすすべもなく痛ぶられているというのかッ!?」
ソートンの驚愕は他の3人も同様であったが、何よりも彼らを震撼させたのは“エグメドの工匠”として誰よりも聖幻晶というアイテムに精通しているつもりであった彼ら無元造房のメンバーにとってすら、今目の前で解放されているその潜在的パワーが予想以上に凄まじいものであったことであった。
「装着者に短時間の飛翔能力を授けることも護身用の攻撃ビームを発することも可能である事実を承知はしていたが…それがかくも強力なものであろうとは──!
どうやら我々は聖幻晶及び特級操獣師に秘められし力をあまりに見くびっていたようだな…!」
感嘆する主任技師に聖幻晶による操獣方法である《融魂法》に対抗する、絆獣の脳に仕込んだ共鳴装置に特殊音波を送信し操るという、目下のところは緊急時における副次的操獣法である《唱動法》の提唱者で聖幻晶研究の大家でもあるデュルトも手放しで同調する。
「全くそのとおりですね──たしかにリサラは他の操獣師に比して聖幻晶の多彩な潜在力に逸早く着目し、以前よりそのさらなる開発への協力を我々に求めておりましたが、驚くべきことにこの窮地においてそれを成し遂げるとは…やはり造房長がかねがねおっしゃられていたように、彼女こそ操獣師を単なる絆獣使いの枠から大きく飛躍させる天才的革新者なのでありましょう──!」
その一方で、名射撃手は操獣師たちの必殺光線が未だ怪物どもの急所(髄魄)を射抜けてはおらぬことを指摘した。
「されど地獄の苦痛に転げ回りながらも、彼奴らは必死に重ねた両手で下腹部奥の髄魄を防御しておりますな…おおっ、入場門横の階段から物々しい鋼の戦士が三体も駆け降りてきたッ!」
「ううむ、あれこそが凱鱗領の天才技術者によって生み出された斬撃機兵とやらか──その名に冠されたとおり、ロゼムス鋼のあの刃の斬れ味にはさぞや自信を抱いておるのであろうが、果たして我が剣を凌駕し得るか否か、許されるならばぜひ手合わせしたいものだが…!」
無元造房、いや絆獣聖団最強の剣士を自認するタレックが機兵たちの右手首から露出された1.3レクト(約1メートル)に達する、凶々しい光芒にギラつくロゼムス鋼製の三叉の刃を睨み据えながら呟く。
「むう…もちろん創作者の名誉にかけても龍坊主の加勢に馳せ参じた訳ではあるまいが、万が一かくなる動きを見せたならば即座に操獣師を救うべく行動せねばな。
──皆、抜かるなよ」
「──レシャ湾上空に教軍幹部が集結している以上、既に競技場内には祭事の用意は整えられているはず…だが飛翔する監視カメラともいうべき“鳥型護衛絆獣”ピジェスの目をよくぞ逃れて作業を終えたものだ…まあ、凱鱗領本土よりはるかに発達した、移動都市ならではの縦横に張り巡らされた地下道がそれを可能にしたのであろうが…」
距離を措いて散開し、場内設備の物陰に身を潜めつつじりじりと前進する四人組──だがスタジアムへの入場門へと続く大廊下へと出た瞬間、およそ100レクト(75メートル)ほど前方に彼らは信じられぬ光景を目撃した!
──何と、輝く肌に虹色に煌めく微小な霊石が惜しげもなく鏤められた髪飾りや腕輪、そして乳首カップといった装身具を帯びつつも、まとった衣服は限界まで布地を節約した艷やかな金色のTバックという、傍目にはほとんど裸身というべき4人の操獣師が宙空に輪となって立ち、その額に装着された聖幻晶から発射された4色の光線──即ち萩邑りさらからは白色の、チラワン=シーソンポップからは鳶色の、そしてローネ=ウルリッヒからは若草色の、さらにミリラニ=カリリからは黄蘗色のそれが、ぶざまな苦鳴とともに床上でのたうちまわる2匹の龍坊主を容赦無く灼いているではないか!?
「こ、これは一体──!?
おう、あの茶褐色の龍坊主は教宣室において蒼き虎を圧倒してのけた強者…そ、それが生身の操獣師たちによってなすすべもなく痛ぶられているというのかッ!?」
ソートンの驚愕は他の3人も同様であったが、何よりも彼らを震撼させたのは“エグメドの工匠”として誰よりも聖幻晶というアイテムに精通しているつもりであった彼ら無元造房のメンバーにとってすら、今目の前で解放されているその潜在的パワーが予想以上に凄まじいものであったことであった。
「装着者に短時間の飛翔能力を授けることも護身用の攻撃ビームを発することも可能である事実を承知はしていたが…それがかくも強力なものであろうとは──!
どうやら我々は聖幻晶及び特級操獣師に秘められし力をあまりに見くびっていたようだな…!」
感嘆する主任技師に聖幻晶による操獣方法である《融魂法》に対抗する、絆獣の脳に仕込んだ共鳴装置に特殊音波を送信し操るという、目下のところは緊急時における副次的操獣法である《唱動法》の提唱者で聖幻晶研究の大家でもあるデュルトも手放しで同調する。
「全くそのとおりですね──たしかにリサラは他の操獣師に比して聖幻晶の多彩な潜在力に逸早く着目し、以前よりそのさらなる開発への協力を我々に求めておりましたが、驚くべきことにこの窮地においてそれを成し遂げるとは…やはり造房長がかねがねおっしゃられていたように、彼女こそ操獣師を単なる絆獣使いの枠から大きく飛躍させる天才的革新者なのでありましょう──!」
その一方で、名射撃手は操獣師たちの必殺光線が未だ怪物どもの急所(髄魄)を射抜けてはおらぬことを指摘した。
「されど地獄の苦痛に転げ回りながらも、彼奴らは必死に重ねた両手で下腹部奥の髄魄を防御しておりますな…おおっ、入場門横の階段から物々しい鋼の戦士が三体も駆け降りてきたッ!」
「ううむ、あれこそが凱鱗領の天才技術者によって生み出された斬撃機兵とやらか──その名に冠されたとおり、ロゼムス鋼のあの刃の斬れ味にはさぞや自信を抱いておるのであろうが、果たして我が剣を凌駕し得るか否か、許されるならばぜひ手合わせしたいものだが…!」
無元造房、いや絆獣聖団最強の剣士を自認するタレックが機兵たちの右手首から露出された1.3レクト(約1メートル)に達する、凶々しい光芒にギラつくロゼムス鋼製の三叉の刃を睨み据えながら呟く。
「むう…もちろん創作者の名誉にかけても龍坊主の加勢に馳せ参じた訳ではあるまいが、万が一かくなる動きを見せたならば即座に操獣師を救うべく行動せねばな。
──皆、抜かるなよ」
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