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第2章 魔人どもの野望
殲闘者、魔海の凱歌
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縻幽巴の返答は、彼が期待した反応とは真反対に、悪い意味で殲闘者を強烈に刺激してしまったようであった。
「鏡ノ教聖ガ…リサラヲ…!!
…ダガ、ソレガ何ダトイウノダ!
奴ノ名ヲ出セバ、俺ガ竦ミ上ガルトデモ思ッテイルノカッ!?
コノユグマ=ルドストンヲ甘ク見ルンジャネエゼ!
何度モ言ワセルナ!
タトエ誰ガ立チ塞ガロウトモ、俺ニリサラヲ諦メサセルコトハ出来ン!!」
「…どうやら、言葉が過ぎたみたいだネ…!」
これまで穏やかだった縻幽巴の口調が一変すると同時に彼の臙脂色の体表がより金属的な光沢を増し、碧色の凶眼が鬼火の如き危険な輝きを放ち始める…。
…即ち、相手とは裏腹に平常心を保っていた彼が遂に怒りを露わにしたのだ。
「…残念だけど、やっぱりキミは生かしておけない。
ここで息の根を止めておかないと、下手したらノコノコと《受躰の儀》に乱入して神牙教軍の“最重要イベント”を台無しにされるおそれがあるからネ!
…じゃあ、ここからはボクも本気で行くぜ!!」
鋭利極まる両手の爪を限界まで露出(0.1レクト=7.5cmに達する)させた縻幽巴は、殺意の笑みを口元に刻みつつ、両掌を胸前に掲げる〈幽巴式殺拳術・龍立の構え〉で殲闘者に相対する。
そのただならぬ気配に危険を察したか、飢えし魚群も一旦獲物を離れ、両雄を遠巻きに囲んで旋回しつつ次なる展開を見守る…。
「可愛い連中だよ…。
だけど彼らがこんなにお行儀がいいのも、薄~く水中に満ちたボクの海冥毒の虜になった結果なんだけどサ!
でももう十分に呼吸を通じて彼らの全身に行き渡ったみたいだから、連中はもうキミが海中にいる限り決して離れる事はないヨ…!
それどころか我が魔毒が拡散するにつれ、かつてない珍味を求めて“ご新規さん”もどんどん加入している状況なんだから、もし助かりたいんなら一刻も早くボクを斃して陸に上がる必要があるネ!!
…んん!?」
これまでゴボゴボと気泡を発するのみであった殲闘者の口元から突如としてピンポン玉ほどの大きさの毒々しいまでに黄色い球体が吐き出されたかと思うと、矢継ぎ早に10個以上が放出され、あたかも意志を持っているかのように龍坊主に向けて漂ってゆく。
『この色は確かクソ虫の体色だったな…という事は触れたらヤバいのは当然として、なるたけ離れてる方が無難だろう…』
そう判断した縻幽巴が素速く退いたのとは対照的に、好奇心かはたまた食欲に駆られてか、再び最前線に飛び出した魚群は一斉に球体に襲い掛かかり、図らずも海中にて奇妙なゲームが開始される。
されど縻幽巴の…そしておそらくは魚達の予想に反して球体は殊の外硬質で彼らの歯が立つ代物ではないらしく、たやすく食い千切られて分配され、各自の胃の腑に収まるどころか捕食者の存在そのものを完全に無視してひたすら龍坊主に向けて水中を突き進む。
しかも、そのスピードはみるみる増大して縻幽巴に迫り、焦った彼が巧みに方向を転じても誘導装置が内蔵されているかのように食らい付き、挙句の果てに全身…しかも躰の裏側に吸着してしまったのである!
「うわっ、気色悪ィ!
きっとこの玉にはクソ虫から分泌された腐汁が詰まってて、このままだとボクの煌めく皮膚が爛れちゃうに違いない!」
半ば逆上し、12本の爪を駆使して不吉な瘤を削ぎ落とそうとする縻幽巴だが、次の瞬間、それらが同時に凄まじい電撃を放った!
「ぬぎゃあああああッ!!?」
ライネットに、そして巍幽巴に対しても、明らかにユグマ自身の意図を超えて放たれた死の高圧電流!
その発生源がこのちっぽけな球体であったとは!?
おそらくこの凶生物?は殲闘者の体内を自由に移動し、主に眼球を発射口として起死回生の一撃を放つことを任務としているのであろう…。
だが〈宿主〉の怒りが頂点に達したことによってか或いは最終進化の副産物か、遂に白日のもとに姿を現した妖物兵器は、不利な形勢を逆転すべく強敵に直接牙を剥いたものらしい。
この絶妙なアシストを受け、深刻な全身麻痺に襲われた標的に肉弾魚雷と化して飛び掛かったユグマは遂にその刃で小癪な龍坊主の左肩口を切り裂いたのである!
「ひっぎゃああああッ!!」
戦闘面は無論の事、その行住坐臥全てにおいて常に優位者であらんとし、大方それに成功して来た如才無き茶目小僧がおそらく生まれてはじめて放った惨めな被虐と絶望の叫び…。
この心理的な衝撃は、あくまで表層的(現時点では)な肉体の痛みを遥かに凌駕していたといえよう。
「サア、ドウシタ!?
鏡ノ教聖ノ威名ニ縋ラナケリャ何モ出来ネエ弱虫野郎ガッ!
今更ソンナ情ケネエ声デ叫ンダトコロデ、
コノ殲闘者ノ“正義ノ刃”ヲ止メルコトハ出来ネエゼ!!」
その傲然たる宣言通り、剣魔と化したユグマの斬撃は“超速カッター”とでも形容する他無いほどに鬼気迫るものがあった。
一方、麻痺からの回復が叶わぬばかりか断続的に更なる放電を続ける怪球に取り憑かれたままの縻幽巴は顔面&喉元と髄魄という“三大急所”を凶刃から庇うのが精一杯…文字通り絶体絶命の窮地に陥っていた。
舐めきった相手に奇手で逆転され、今や思うがままに斬り刻まれて母なる海を己が黒血で汚す幽巴兄弟の末弟は救いを求め、頑是ない幼児のように泣き叫んだ。
「陀兄!鑼兄!救けてッ!!
ボクが、ボクが死んだら幽巴一族は火が消えたように寂しくなっちゃうんだよッ!?
おお、偉大なる教聖よ、あなたの忠実なる下僕にどうか…どうか速やかなる御加護をお与え下さいッ!!
そして今すぐに、悪逆なる呪念士の方術にて我を痛ぶりしこの人外の外道めに神罰を…」
この哀れにしてぶざまな教軍超兵の姿は、記念すべき“対神牙教軍初勝利”を確信した魔少年に身震いするほどの満足感を与えた。
「見タカッ、コレガ殲闘者ノ実力ダッ!
ソシテ覚ッタカ!?
イザトナレバ首領ヲハジメ、誰モ貴様ナドヲ救イニハ来ヌコトヲ!!
…マサニ死ニユクコノ時ニ叩キ込マレルトハコレ以上無イ皮肉ダガ、コレデ甘エ切ッタ貴様ニモヨウヤク理解出来タハズダ、
真ノ戦士ニ味方ナド最初カラ存在シナイナイコトヲ…ナ!
ソノ覚悟ノ違イガアクマデ独リデ戦イ抜ク決意ヲ固メタ俺ト、徒党ヲ組マネバ何モ出来ンテメエラトノ差ダ!!
…デハ改メテ神牙教軍ヘノ怒リヲ掻キ立テテクレタ礼トシテ、ココラデ止メヲ刺シテヤロウ!!」
「鏡ノ教聖ガ…リサラヲ…!!
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…即ち、相手とは裏腹に平常心を保っていた彼が遂に怒りを露わにしたのだ。
「…残念だけど、やっぱりキミは生かしておけない。
ここで息の根を止めておかないと、下手したらノコノコと《受躰の儀》に乱入して神牙教軍の“最重要イベント”を台無しにされるおそれがあるからネ!
…じゃあ、ここからはボクも本気で行くぜ!!」
鋭利極まる両手の爪を限界まで露出(0.1レクト=7.5cmに達する)させた縻幽巴は、殺意の笑みを口元に刻みつつ、両掌を胸前に掲げる〈幽巴式殺拳術・龍立の構え〉で殲闘者に相対する。
そのただならぬ気配に危険を察したか、飢えし魚群も一旦獲物を離れ、両雄を遠巻きに囲んで旋回しつつ次なる展開を見守る…。
「可愛い連中だよ…。
だけど彼らがこんなにお行儀がいいのも、薄~く水中に満ちたボクの海冥毒の虜になった結果なんだけどサ!
でももう十分に呼吸を通じて彼らの全身に行き渡ったみたいだから、連中はもうキミが海中にいる限り決して離れる事はないヨ…!
それどころか我が魔毒が拡散するにつれ、かつてない珍味を求めて“ご新規さん”もどんどん加入している状況なんだから、もし助かりたいんなら一刻も早くボクを斃して陸に上がる必要があるネ!!
…んん!?」
これまでゴボゴボと気泡を発するのみであった殲闘者の口元から突如としてピンポン玉ほどの大きさの毒々しいまでに黄色い球体が吐き出されたかと思うと、矢継ぎ早に10個以上が放出され、あたかも意志を持っているかのように龍坊主に向けて漂ってゆく。
『この色は確かクソ虫の体色だったな…という事は触れたらヤバいのは当然として、なるたけ離れてる方が無難だろう…』
そう判断した縻幽巴が素速く退いたのとは対照的に、好奇心かはたまた食欲に駆られてか、再び最前線に飛び出した魚群は一斉に球体に襲い掛かかり、図らずも海中にて奇妙なゲームが開始される。
されど縻幽巴の…そしておそらくは魚達の予想に反して球体は殊の外硬質で彼らの歯が立つ代物ではないらしく、たやすく食い千切られて分配され、各自の胃の腑に収まるどころか捕食者の存在そのものを完全に無視してひたすら龍坊主に向けて水中を突き進む。
しかも、そのスピードはみるみる増大して縻幽巴に迫り、焦った彼が巧みに方向を転じても誘導装置が内蔵されているかのように食らい付き、挙句の果てに全身…しかも躰の裏側に吸着してしまったのである!
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