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第2章 魔人どもの野望
回想の狂戦地ルドストン㊱
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帯鞭を放った瞬間、煬赫は甚だしく動揺した。
何と〈殺怨光〉が発生していないではないか!?
『ぐっ、そう言えば…、
確か、師が断言していた!
〈帯鞭光撃〉の最大の障害…それは、
“精神集中の強度と維持を何より損なう、恐怖や怒りといった激情”
だと…!』
…あれから彼なりに進歩向上?し、後のティリールカ愛華領の〈白老森〉における雷堂 玄との戦いで披露したように激怒しつつ光撃を成立させる術を身に付けたものであったが、この段階では技の未熟さに加え、諸先輩から重々忠告されていた龍坊主の危険性への恐怖も相俟って、より能力発動が滞ってしまったものらしい。
一方の陀幽巴は両腕を楯として帯鞭を防ぐどころか身じろぎすらしなかったため、10レクト近い長さの暗赤色の不気味な二筋の帯鞭は彼の頭部をすっぽりと包み込む事に成功した。
「どうだ!
たとえ魔光を放たずとも、ここまで雁字搦めに顔面を覆い尽くし、我が金剛力で締め上げればさしもの龍坊主も窒息死は免れまい!
せめて来世は、相手を見て言葉を吐く最低限の危機感知力を持って生まれてくることだな!!」
精神操作の賜物である帯鞭光撃とは対照的に絞殺技は感情利用が大いに効くため、術者の怒りが大きければ大きいほどその威力は増大する…従って、“殺意爆発”に絶対の自信を持つ戸倉一志は早くも勝利を確信した。
「…エラそうな憎まれ口叩いてたが、
てめえホントはオレ様にマジビビリして全く動けねえんだろうが!?
誰かが言ってたぜ、あの兄弟は全員揃ってやっとこさ一人前で、単独じゃ丸腰の弱兵一匹やっつけるのが精一杯だってな!」
一旦カサにかかると罵言があたかも破れた下水管から噴き出した汚水の如く止めどなく溢れ出すのはまさに戸倉一志の真骨頂だが、この口ぶりこそが逆に煬赫の躰の芯を貫く底無しの恐怖を物語っていたといえよう。
果たして、興奮しきったその脳髄に口元を完全に塞がれているはずの幽巴兄弟の長兄の深みある渋い声音が些かの濁りもなく響き渡ったのは何故か?
だが、その不可思議さよりも言葉の内容が転生以後、最大の戦慄をもたらしたのであった。
「ほう…それは初耳だ…。
ぜひとも教えてもらいたいね、
我らが同志の一体誰が、その様な愉快な見解を抱いているのかを?」
…いきなり問われても、答えられる訳がない。
「うるせえ!
人間界にゃあな、守秘義務ってモンがあるんだよ!!」
とりあえず叫んだ戸倉だが、不動の姿勢を崩さぬ相手から底知れぬ凄味を感得し、相手の視界が閉ざされている(はず)なのを幸い、自ら帯鞭を切り落として逃亡する事にした。
『…どうせコイツを殺った所で、残りの兄弟に付け狙われる事になるんなら、ここは一旦撤退して、ラージャーラの何処かで戦力アップの修行を積んだ方がいい…、
実際、オレ様はまだまだ教軍超兵としての潜在能力を使いこなせていないようだからナ…!』
決意した瞬間、煬赫の親指を除く4本の指の先端から0.5レクト(およそ30cm)に達する紅い〈爪刃〉が飛び出し、彼はすかさず右腕を振りかぶって左の帯鞭を断とうとするが、気配を察した陀幽巴がそうはさせじと右の帯鞭を強く引いたため、その恐るべき怪力によって強く牽引されてしまう。
だが両者間には分厚い石のテーブルがあり、このままの勢いでは膝にダメージを受けると判断した戸倉は卓上に飛び上がると、左拳の爪刃を渾身の力を込めて紅布に覆われた敵の顔面に突き刺した!
「バカめ、手間が省けたわ!
自分から死を選ぶとはな!!」
苦し紛れの絶叫にはまだまだ続きがあったのだが、全力で敵の口元に突き込んだ爪刃の進攻が直ちに強制停止させられてしまったのに度肝を抜かれ、そこで断ち切られてしまった。
「ま、まさかコイツ…!?」
そのまさかであった。
“爪刃より硬い物質は、この世にそうそうあるものではない”
と師・樊尨が断言した必殺凶器があっさりと食い止められ、そしてヘシ折られたのであった…龍坊主の堅牢極まる鋼牙によって。
ペッ、と陀幽巴が噛み切った異物を吐き出し、4本の金属片(骨片?)がテーブル上に乾いた音を立てて散らばった。
だが戸倉一志にそれを嘆く暇はなかった。
敵が更に帯鞭を引っ張り、彼の額と自身の顔面が凄まじい勢いで激突してしまったからである!
「……ッ!!!」
この一撃で、煬赫の意識は半分以上ケシ飛び、後方に仰け反ってそのまま卓上にひっくり返りかけたが、再び帯鞭を引っ張られてあたかも起き上がり小法師の如くその醜貌を相手の面前に突き戻された。
そこに待ち受けていたのは鋭い爪を露出したV字型に立てられた2本の鉄指であり、白く濁った光を放つ虹ミイラの両眼にグサリと突き立てられてそのままズブズブと沈み込んでゆき、あっさりと脳髄を抉ってようやく停止した。
一部始終を顔を覆った指の隙間から盗み見していた妖華姫支配人が豪奢な黒光りする化粧石のデスク上に派手に嘔吐する。
「…ここで鑼幽巴なら頭部が原型を留めぬほど殴り潰すのであろうが、私は常に効率を最優先にしており、迅速な決着と無駄撃ちの排除をモットーにしている。
従って、これから貴様に施されるのも明確な意味を持つある種の加工なのだ…!」
無論、髄魄に匹敵する急所である脳髄を破壊した2本の指先からは幽巴一族秘伝の〈海冥毒〉がたっぷりと放出され、文字通り必殺の一撃となっていたのであった。
さて、両手の爪であっさりと帯鞭をカットして顔から外しつつ立ち上がった陀幽巴は、灰色の空洞と化した眼窩から土留色の血液を吹きこぼれさせながら小刻みに“瀕死の痙攣”を続ける赤系虹ミイラの躰を無造作に横たえた後、奇怪な作業を開始した。
揃えた指先を煬赫の右肩口に当て、そのまま貫手の要領でグリグリと押し込んでいったのだ。
脆い筋繊維は容易くブツブツと寸断され、多少の抵抗の後に硬い骨組織もガリガリと破断されてゆく。
かくて勝者が敗者の右腕を取り外すのに0.1アトス(18秒)もかからなかった。
その地獄絵図を目の当たりにしたガラギが泡を吹いて失神する。
続いて右腕の肘部分を断ち切って2本にした陀幽巴は、更に手首をも切断した。
つまり3つの忌まわしき“虹ミイラパーツ”が完成した事になる。
これを陀幽巴は左腕及び両脚でも繰り返し、1アトスに満たぬ時間でこれだけは寸断を回避した頭部胴体を含む計13個の“教軍超兵の破片“を作り出してから、おもむろにガラギ支配人の額に左掌を当ててその冷気のみで覚醒させる。
見下ろす相手に気付いた瞬間、再び失神に逃げ込もうとする腰抜けを一喝した“龍坊主の貴公子”はこう厳命した。
「よいか、直ちにこの12片を“ブラックリスト上位12名”に向け、請求書を添えて送付せよ!
“送り先と断片の組み合わせ”はお前に任せる。
受け取れば、それが誰の一部かは瞬時に伝わるであろう…。
肝心の回収は、我ら幽巴兄弟が直々に行う。
たっぷりと延滞利息を乗せてな…!」
ここで暗黒のカリスマ的オーラを立ち昇らせる濃緑色の怪物は戸倉一志の残骸(頭&胴体)を、嗅覚麻痺をもたらす異臭の発生源たる血海から片手で拾い上げ、小脇に抱えて宣った。
「コイツは送らんほうが良かろう、
何故なら、受取人に恐怖ではなく笑いを与えてしまう危険性が高いからな…。
従ってこのまま極天霊柱に持ち帰り、教聖のご許可を得て最終処分するとしよう…」
かくて来訪の目的を果たした大幹部は出入り口ではなく何故か窓に向かったが、そこに彼にふさわしい乗り物が誇らしげに浮遊していた。
即ち直径30レクト(約23m)に達する濃緑色の、びっしりと鱗に覆われた専用キーゴが。
最初からここで待機していては戸倉に敵前逃亡されてしまうため、何処かに姿を隠していたのであろう。
「…このまま窓をブチ破って乗り込んでも良いのだが、何より今は組織として倹約を旨とするべき時だ…、
従って紳士的に静かに立ち去るとしよう。
ではくれぐれも、送り先を誤るでないぞ。
これから連中が味わう生地獄の肝心な導入部なのだからな…」
されど意外極まる事に、かつて外れたためしのない陀幽巴の未来予想を覆して戸倉一志は生き延びた。
しかも、瀕死の状態で本拠地に連れ帰られてから多少の改良は加えられたものの、数日後にはほぼ原形に近い姿での復活を果たしたのである。
つまり全ては鏡の教聖が抱懐する、自ら手掛けた史上初の“異世界ハイブリッド教軍超兵”への奇妙な愛着がこの奇蹟をもたらしたのだ。
だが、加害者が行った言動と行為に対しては軍規に鑑み全面的な肯定がなされ、陀幽巴本人は何らの禍根を残すでもなく合流した他の兄弟を引き連れ未払金回収に直ちに出撃して行ったのであったが、彼らは恐るべき短期間でブラックリストの全員から、しかも総額で十倍を軽く超える金額を回収(強奪)してのけたのであった。
「…何より、命あっての物種だ…。
あの外道野郎への報復と、奎壑様らに対する名誉挽回の機会はこれから何度でも訪れるはず…。
何しろこのオレ様は、黄泉の国からも呼び戻して頂けるほどに偉大なる教聖に愛された、教軍屈指の選ばれし存在なのだからな…」
…ようやく落ち着きを取り戻した戸倉が更に心を鎮めるため、まばゆい天空から穏やかな海上に視線を落としたまさにその時であった。
あたかも長らく海底に沈んでいた城郭が突然浮上するかの如く、謎の巨大物体が海面を突き破って出現したのだ!
それに伴い発生した八方に広がる大波がレシャ湾を航行する、今しも戦乱のルドストン凱鱗領から離れんとする他教界の一般船舶をあっという間に呑み込み、たちまち十数艘が転覆・沈没の悲劇に見舞われてゆく…。
新生戸倉一志は思わず叫んでいた。
「おおっ、あれは!?
そうか、遂に現れたのだな!
あの糞兄弟ごときが就いた執教士長などとは重要度が段違いの、教軍史に燦然とその名と雄姿を刻まれるであろう凱鱗領制圧の真の切り札!
“史上最強刃獣”魔王蛸がッ!!」
何と〈殺怨光〉が発生していないではないか!?
『ぐっ、そう言えば…、
確か、師が断言していた!
〈帯鞭光撃〉の最大の障害…それは、
“精神集中の強度と維持を何より損なう、恐怖や怒りといった激情”
だと…!』
…あれから彼なりに進歩向上?し、後のティリールカ愛華領の〈白老森〉における雷堂 玄との戦いで披露したように激怒しつつ光撃を成立させる術を身に付けたものであったが、この段階では技の未熟さに加え、諸先輩から重々忠告されていた龍坊主の危険性への恐怖も相俟って、より能力発動が滞ってしまったものらしい。
一方の陀幽巴は両腕を楯として帯鞭を防ぐどころか身じろぎすらしなかったため、10レクト近い長さの暗赤色の不気味な二筋の帯鞭は彼の頭部をすっぽりと包み込む事に成功した。
「どうだ!
たとえ魔光を放たずとも、ここまで雁字搦めに顔面を覆い尽くし、我が金剛力で締め上げればさしもの龍坊主も窒息死は免れまい!
せめて来世は、相手を見て言葉を吐く最低限の危機感知力を持って生まれてくることだな!!」
精神操作の賜物である帯鞭光撃とは対照的に絞殺技は感情利用が大いに効くため、術者の怒りが大きければ大きいほどその威力は増大する…従って、“殺意爆発”に絶対の自信を持つ戸倉一志は早くも勝利を確信した。
「…エラそうな憎まれ口叩いてたが、
てめえホントはオレ様にマジビビリして全く動けねえんだろうが!?
誰かが言ってたぜ、あの兄弟は全員揃ってやっとこさ一人前で、単独じゃ丸腰の弱兵一匹やっつけるのが精一杯だってな!」
一旦カサにかかると罵言があたかも破れた下水管から噴き出した汚水の如く止めどなく溢れ出すのはまさに戸倉一志の真骨頂だが、この口ぶりこそが逆に煬赫の躰の芯を貫く底無しの恐怖を物語っていたといえよう。
果たして、興奮しきったその脳髄に口元を完全に塞がれているはずの幽巴兄弟の長兄の深みある渋い声音が些かの濁りもなく響き渡ったのは何故か?
だが、その不可思議さよりも言葉の内容が転生以後、最大の戦慄をもたらしたのであった。
「ほう…それは初耳だ…。
ぜひとも教えてもらいたいね、
我らが同志の一体誰が、その様な愉快な見解を抱いているのかを?」
…いきなり問われても、答えられる訳がない。
「うるせえ!
人間界にゃあな、守秘義務ってモンがあるんだよ!!」
とりあえず叫んだ戸倉だが、不動の姿勢を崩さぬ相手から底知れぬ凄味を感得し、相手の視界が閉ざされている(はず)なのを幸い、自ら帯鞭を切り落として逃亡する事にした。
『…どうせコイツを殺った所で、残りの兄弟に付け狙われる事になるんなら、ここは一旦撤退して、ラージャーラの何処かで戦力アップの修行を積んだ方がいい…、
実際、オレ様はまだまだ教軍超兵としての潜在能力を使いこなせていないようだからナ…!』
決意した瞬間、煬赫の親指を除く4本の指の先端から0.5レクト(およそ30cm)に達する紅い〈爪刃〉が飛び出し、彼はすかさず右腕を振りかぶって左の帯鞭を断とうとするが、気配を察した陀幽巴がそうはさせじと右の帯鞭を強く引いたため、その恐るべき怪力によって強く牽引されてしまう。
だが両者間には分厚い石のテーブルがあり、このままの勢いでは膝にダメージを受けると判断した戸倉は卓上に飛び上がると、左拳の爪刃を渾身の力を込めて紅布に覆われた敵の顔面に突き刺した!
「バカめ、手間が省けたわ!
自分から死を選ぶとはな!!」
苦し紛れの絶叫にはまだまだ続きがあったのだが、全力で敵の口元に突き込んだ爪刃の進攻が直ちに強制停止させられてしまったのに度肝を抜かれ、そこで断ち切られてしまった。
「ま、まさかコイツ…!?」
そのまさかであった。
“爪刃より硬い物質は、この世にそうそうあるものではない”
と師・樊尨が断言した必殺凶器があっさりと食い止められ、そしてヘシ折られたのであった…龍坊主の堅牢極まる鋼牙によって。
ペッ、と陀幽巴が噛み切った異物を吐き出し、4本の金属片(骨片?)がテーブル上に乾いた音を立てて散らばった。
だが戸倉一志にそれを嘆く暇はなかった。
敵が更に帯鞭を引っ張り、彼の額と自身の顔面が凄まじい勢いで激突してしまったからである!
「……ッ!!!」
この一撃で、煬赫の意識は半分以上ケシ飛び、後方に仰け反ってそのまま卓上にひっくり返りかけたが、再び帯鞭を引っ張られてあたかも起き上がり小法師の如くその醜貌を相手の面前に突き戻された。
そこに待ち受けていたのは鋭い爪を露出したV字型に立てられた2本の鉄指であり、白く濁った光を放つ虹ミイラの両眼にグサリと突き立てられてそのままズブズブと沈み込んでゆき、あっさりと脳髄を抉ってようやく停止した。
一部始終を顔を覆った指の隙間から盗み見していた妖華姫支配人が豪奢な黒光りする化粧石のデスク上に派手に嘔吐する。
「…ここで鑼幽巴なら頭部が原型を留めぬほど殴り潰すのであろうが、私は常に効率を最優先にしており、迅速な決着と無駄撃ちの排除をモットーにしている。
従って、これから貴様に施されるのも明確な意味を持つある種の加工なのだ…!」
無論、髄魄に匹敵する急所である脳髄を破壊した2本の指先からは幽巴一族秘伝の〈海冥毒〉がたっぷりと放出され、文字通り必殺の一撃となっていたのであった。
さて、両手の爪であっさりと帯鞭をカットして顔から外しつつ立ち上がった陀幽巴は、灰色の空洞と化した眼窩から土留色の血液を吹きこぼれさせながら小刻みに“瀕死の痙攣”を続ける赤系虹ミイラの躰を無造作に横たえた後、奇怪な作業を開始した。
揃えた指先を煬赫の右肩口に当て、そのまま貫手の要領でグリグリと押し込んでいったのだ。
脆い筋繊維は容易くブツブツと寸断され、多少の抵抗の後に硬い骨組織もガリガリと破断されてゆく。
かくて勝者が敗者の右腕を取り外すのに0.1アトス(18秒)もかからなかった。
その地獄絵図を目の当たりにしたガラギが泡を吹いて失神する。
続いて右腕の肘部分を断ち切って2本にした陀幽巴は、更に手首をも切断した。
つまり3つの忌まわしき“虹ミイラパーツ”が完成した事になる。
これを陀幽巴は左腕及び両脚でも繰り返し、1アトスに満たぬ時間でこれだけは寸断を回避した頭部胴体を含む計13個の“教軍超兵の破片“を作り出してから、おもむろにガラギ支配人の額に左掌を当ててその冷気のみで覚醒させる。
見下ろす相手に気付いた瞬間、再び失神に逃げ込もうとする腰抜けを一喝した“龍坊主の貴公子”はこう厳命した。
「よいか、直ちにこの12片を“ブラックリスト上位12名”に向け、請求書を添えて送付せよ!
“送り先と断片の組み合わせ”はお前に任せる。
受け取れば、それが誰の一部かは瞬時に伝わるであろう…。
肝心の回収は、我ら幽巴兄弟が直々に行う。
たっぷりと延滞利息を乗せてな…!」
ここで暗黒のカリスマ的オーラを立ち昇らせる濃緑色の怪物は戸倉一志の残骸(頭&胴体)を、嗅覚麻痺をもたらす異臭の発生源たる血海から片手で拾い上げ、小脇に抱えて宣った。
「コイツは送らんほうが良かろう、
何故なら、受取人に恐怖ではなく笑いを与えてしまう危険性が高いからな…。
従ってこのまま極天霊柱に持ち帰り、教聖のご許可を得て最終処分するとしよう…」
かくて来訪の目的を果たした大幹部は出入り口ではなく何故か窓に向かったが、そこに彼にふさわしい乗り物が誇らしげに浮遊していた。
即ち直径30レクト(約23m)に達する濃緑色の、びっしりと鱗に覆われた専用キーゴが。
最初からここで待機していては戸倉に敵前逃亡されてしまうため、何処かに姿を隠していたのであろう。
「…このまま窓をブチ破って乗り込んでも良いのだが、何より今は組織として倹約を旨とするべき時だ…、
従って紳士的に静かに立ち去るとしよう。
ではくれぐれも、送り先を誤るでないぞ。
これから連中が味わう生地獄の肝心な導入部なのだからな…」
されど意外極まる事に、かつて外れたためしのない陀幽巴の未来予想を覆して戸倉一志は生き延びた。
しかも、瀕死の状態で本拠地に連れ帰られてから多少の改良は加えられたものの、数日後にはほぼ原形に近い姿での復活を果たしたのである。
つまり全ては鏡の教聖が抱懐する、自ら手掛けた史上初の“異世界ハイブリッド教軍超兵”への奇妙な愛着がこの奇蹟をもたらしたのだ。
だが、加害者が行った言動と行為に対しては軍規に鑑み全面的な肯定がなされ、陀幽巴本人は何らの禍根を残すでもなく合流した他の兄弟を引き連れ未払金回収に直ちに出撃して行ったのであったが、彼らは恐るべき短期間でブラックリストの全員から、しかも総額で十倍を軽く超える金額を回収(強奪)してのけたのであった。
「…何より、命あっての物種だ…。
あの外道野郎への報復と、奎壑様らに対する名誉挽回の機会はこれから何度でも訪れるはず…。
何しろこのオレ様は、黄泉の国からも呼び戻して頂けるほどに偉大なる教聖に愛された、教軍屈指の選ばれし存在なのだからな…」
…ようやく落ち着きを取り戻した戸倉が更に心を鎮めるため、まばゆい天空から穏やかな海上に視線を落としたまさにその時であった。
あたかも長らく海底に沈んでいた城郭が突然浮上するかの如く、謎の巨大物体が海面を突き破って出現したのだ!
それに伴い発生した八方に広がる大波がレシャ湾を航行する、今しも戦乱のルドストン凱鱗領から離れんとする他教界の一般船舶をあっという間に呑み込み、たちまち十数艘が転覆・沈没の悲劇に見舞われてゆく…。
新生戸倉一志は思わず叫んでいた。
「おおっ、あれは!?
そうか、遂に現れたのだな!
あの糞兄弟ごときが就いた執教士長などとは重要度が段違いの、教軍史に燦然とその名と雄姿を刻まれるであろう凱鱗領制圧の真の切り札!
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