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第2章 魔人どもの野望
回想の狂戦地ルドストン㉞
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神牙教軍構成員にとって史上初にしておそらく絶後、そして最重要の一大祭典となる〘受躰の儀〙がいよいよ目睫の間に迫り、ルドストン凱鱗領上空にはラージャーラ全域にて日々暗躍する幹部連が搭乗した、大小様々にして色彩も複雑怪奇なまでに多様な、形状のみ球型に統一された“飛翔系刃獣”キーゴが多数集結していた。
現在の《星沈刻》(午前3時相当)時点において到着しているのは数にして40体あまりであったが、その正式な招待名簿は“凱鱗領執教士長”幽巴兄弟の脳内のみに刻まれているといってよい。
「全く忌々しい…!
【教軍枢覇界】…ラージャーラ各地に散在する数多の教界の内、偉大なる教聖が枢要とみなされた極少数の、我々の直接統治と独自改良に値するとされた特例地…。
尤もルドストンがそれに値することに異存はないが、そこを直轄する執教士長に事もあろうにあの破廉恥兄弟が抜擢されようとは…!」
最小型(直径せいぜい1レクト)で肉色一色の、装飾模様皆無ののっぺらぼう…いわば“下級戦士御用達”の単座キーゴではるばる出向先のパラメス耀覇領から馳せ参じ、大幹部とその側近どもが乗り込んだ巨大できらびやかな装飾がこれ見よがしに施された怪物級キーゴがあたかも堂々たる惑星の如く犇めき滞空する密集地点から遥かに距たり、どう見ても取るに足らぬ小衛星の様に寄る辺無く浮遊しているのは、“赤系虹ミイラ”教軍名=煬赫こと“元・地上人”戸倉一志であった。
…だが襤褸は着てても心は錦、現在の不遇はいずれ己の真価が満天下に示されるまでの一時的事象に過ぎぬと妄信する脳天気な殺人狂は、とある一件以来勝手に宿敵と思い定めている極悪龍坊主どもの憎き姿を想起して改めて怨嗟と羨望の燠火を掻き立てた。
「──特に陀幽巴、あ奴だけは赦せぬ!
地獄の魔神…いや、偉大なる教聖の恩寵によって、あの忌まわしき地上世界と似て非なるこの異世界に勇躍転生せしこの選ばれし魂を祝福し歓迎するどころか、文字通り犬畜生扱いしたばかりか終生消し去れぬ恥辱と傷を心身に刻み付けおった呪わしき鬼畜…!」
…事実、幽巴兄弟と遭遇するまでは戸倉一志の“異世界ライフ”はそれなりに順調だったといっていい。
2年前、神牙教軍が総本陣を構えるダロバスラ山の【極天霊柱】において呪われし産声を上げた時、いわゆる虹ミイラは“青系”一色だった。
即ち、戸倉=煬赫は栄えある“赤系”第1号であったのである。
しかも、その誕生はもう一つのエポックを意味していた。
史上初、教軍超兵に“地上人の血”が導入されたのだ!
尤も、“創造主”たる鏡の教聖曰く、
「使える部分は殆ど無かった」
らしいが、当の煬赫自身に朧気ながらも“戸倉時代”の記憶が残存している以上、少なくともその脳髄は暗黒の精神とは裏腹に極彩色の光彩が明滅する教軍超兵としての肉体の何処かに内蔵されているのであろう。
さて、神牙教軍首領の居城は天に冲する、T字型を構成する8本の魔槍の如き巨塔であったが、煬赫は物心付いてから初任務を得て旅立った半年後まで、ただの一度も端っこの1本から出る事はなかった。
まず、彼が課されたのは誉れある神牙教軍の一員としての心得の種々と、誇り高き教軍超兵が授けられた数々の超戦力発現の修練であった。
指導に当たったのは幾多の強者を育て上げた“青系”歴戦の古豪・樊尨。
当然ながら彼が注力したのは虹ミイラの特技ともいえる〈光攻撃〉であったが、手甲から発出する〔帯鞭〕の変幻自在の使用法に始まり、それこそ全身に凄まじい七色の閃光を疾らせての〈眩惑的殺闘術〉における様々なバリエーションの習得など内容は多岐に渡り、教軍のホープたる“赤系”第1号が学ぶべき技はまさに無限といえた。
かくて基本技が一通り身に付いた時点で教官は直ちに“実戦訓練”に入らせ、そこで宛てがわれた相手は彼ら“青系”がラージャーラ各地で捕獲した勇敢なる教界戦士達であったのだが、これは骨の髄からの殺人鬼にとってまさしく至福の日々の到来であった。
しっかりとした実践訓練を施すのであれば当然というべきであるが、教聖が戯れに?創出する多種多様な新作怪物や兵器の実験台として常時一定数がキープされている〈反抗躰〉と呼称される彼らは、決して丸腰で戦場である地下石室に臨ませられる訳ではなく、得物は長短の刀剣・槍戟類は無論の事、希望すれば飛び道具の弓や銃砲類さえもが、そして防具も堅牢な鎧から軽量化された装甲服まで、まさにいかなる戦士の好みにも対応出来る多種多様なアイテムが豊富に用意されていた。
かくてこの血塗られた舞台において決死のラージャーラ戦士を実に27人も屠り、“最終試験”として師・樊尨との模擬実戦をほぼ互角の内容で了えた煬赫こと戸倉一志は、絶対者から記念すべき初指令を授けられた。
全教軍戦士中、1,2を争う実力者であり、“教聖の懐剣”とも畏怖される“青系最強”の教軍超兵・奎壑が執教士長を務める枢覇界【リヤーラ厶麗宮領】に飛び、教軍の主要資金源の一つである“愛妾供給結社”【妖華姫】の用心棒兼取り立て役を仰せつかったのである…。
塔の上層に広がる、茫漠たる〈虚空の間〉…偉大なる首領の謦咳に触れられる唯一の場所…に設えられた“見えざる螺旋階段”を登りつめて参上した期待の新鋭の脳内に直接響いた神秘的な美声は直ちの出立を命じ、戸倉一志は彼を当地に運搬すべく急降下して来た刃獣キーゴの乗客となったのであった。
リヤーラムは全教界中2割弱を占めるに過ぎぬ、稀少な“非血縁女系教率者”によって統治されており、前任者によって幼時より後継者に指名され、入念なる薫陶を受けてきた現任者・セレージェが弱冠15歳で教界の頂点に立った直後、不吉な影の如く宮中に侵入して来た奎壑の魔手によって鏡の教聖が手ずから練り上げた〔鏡霊丹〕なる凶薬を服ませられて忽ち全身の細胞及び精神を半ば以上隷属させられてしまったばかりでなく、その忌むべき副作用であろうか、毎夜の夢の中にまで降臨して来た教聖の抗し難き魅惑を放つ説諭を浴びて無意識の底まで刻み込まれていたはずの教率者としての矜持を完膚無きまでに破砕されてしまい、僅か10日後には教軍の完全な同盟者となるに至ったのであった…。
だが、取り立てて傑出した産業も、況んや突出した軍事力も持たぬありふれた中堅教界に過ぎぬ麗宮領に腹心たる教軍最高幹部を派遣し、直轄下に置かんとした真意は何であったのか?
その答えは、該教界がラージャーラ随一の“美形産地”とされる、半ば常識化した風説にあったのだ。
ならば当然、“慢性的戦乱状態”にあるラージャーラにおいて最も危険な存在といえる鏡の教聖が食指を動かす以前に制圧を目論む勢力があって然るべきで、事実それらはニ、三に留まらなかった。
だが、その全ての首謀者がリヤーラムと矛を交えた瞬間から目も当てられぬ凶運に襲われたのみならず、早晩悉く変死を遂げるに及んで、麗宮領はある意味、“ラージャーラ最大の禁忌”となり、その伝説こそが最強の侵略障壁となっていたのであった。
…かくて一滴の血も流す事無く、天をも畏れぬ唯一の存在たる神牙教軍首領の手に陥ちたリヤーラ厶麗宮領は直ちに主の構想に従って動き始めたのだが、その最大のプロジェクトが意外にも世界最大の快楽産業組織の創出であったのである。
果たして史上最凶勢力が軍事行動の一環として本腰を入れて取り組み、何よりも人間の本能(煩悩)に根ざす領域へのかつてない贅を尽くした戦略故に、【妖華姫】はあたかも燎原の火の勢いでラージャーラ全界に拡大して行った。
何よりも特筆すべきは、擁する美女軍団の容姿と性技の質の高さであるが、教軍は男娼陣の充実にも抜かりはなく、もはや鏡の教聖は戦乱次元の災厄のみならず、いわば“淫楽の魔王”としても君臨するに至ったのであったが、妖華姫の旗揚げとほぼ同時期にこれもリヤーラムを拠点として恐るべき堕落兵器の拡散を開始していた。
“究極幻覚剤”ギャムナである。
宿敵・絆獣聖団からは恐怖と嫌悪を込めて“岩眼魔”と称される目玉だらけの、奇怪極まる闇の幻術を得意技とする有翼教軍超兵の体細胞を主原料に精製されるこの怪魔薬も、まずは妖華姫の戦闘員からその顧客へと広まり、その壮絶なまでの“夢幻境体験”は一度足を踏み入れれば二度と引き返せぬ、解放されるには死によるしかないほどの魔性を秘め、却ってその危険性によって信徒と呼ばれるほどの熱狂的な中毒者を日夜生み出していた。
そして魔薬量産のため、麗宮領に常駐していた十数体の岩眼魔の内、毘雲と名乗る個体と煬赫は何故かウマが合い、彼らは教軍超兵の種族の違いを超えて“刎頸の友”となったが、これは極めて珍しい事態であった。
さて、妖華姫の走狗となって以來、日々煬赫は激務に忙殺され、キーゴに跨って幾多の教界を駆け巡らざるを得なかったものの、不満を覚えるどころか半端者として燻り続けた地上時代には夢にも味わえなかった強者の実感に酔い痴れていた。
何しろ、彼の業務は出張娼婦や薬の代金(決して少額ではないが)を踏み倒そうとする不届き者への制裁と取り立て(これは人間時代とは真逆の役回りだ)であり、中でも華姫(娼婦達はこう呼称される)を負傷させたり、更には拉致監禁を図る猛者どもに対しては抹殺の許可すら与えられていたのであるから、弱者を痛ぶる度に殆ど法悦に打ち震える戸倉一志にとってはまさに“転生によって得た天職”といえた。
なお、意外極まる事に生来品性下劣な彼が地上最高の美女をも凌駕する華姫に些かも心を乱さなかったのであるが、そのカラクリは創造主=鏡の教聖が一切の性的器官を除去した上で、これだけは残さざるを得なかった、文字通り生命力と表裏一体の〈恋愛感情〉を自身に全振りする様、入念に洗脳手術を施していたが故の“椿事”であったのである…。
それならば、〘受躰の儀〙以後、煬赫=戸倉は萩邑りさら(の肉体)を思慕する仕儀に至るはずであるが、果たして…?
…こうして、夢の様な1年が過ぎた時、得意絶頂の戸倉一志は突如として地獄に叩き落された。
虹ミイラの天敵たる龍坊主・陀幽巴の手によって…!
現在の《星沈刻》(午前3時相当)時点において到着しているのは数にして40体あまりであったが、その正式な招待名簿は“凱鱗領執教士長”幽巴兄弟の脳内のみに刻まれているといってよい。
「全く忌々しい…!
【教軍枢覇界】…ラージャーラ各地に散在する数多の教界の内、偉大なる教聖が枢要とみなされた極少数の、我々の直接統治と独自改良に値するとされた特例地…。
尤もルドストンがそれに値することに異存はないが、そこを直轄する執教士長に事もあろうにあの破廉恥兄弟が抜擢されようとは…!」
最小型(直径せいぜい1レクト)で肉色一色の、装飾模様皆無ののっぺらぼう…いわば“下級戦士御用達”の単座キーゴではるばる出向先のパラメス耀覇領から馳せ参じ、大幹部とその側近どもが乗り込んだ巨大できらびやかな装飾がこれ見よがしに施された怪物級キーゴがあたかも堂々たる惑星の如く犇めき滞空する密集地点から遥かに距たり、どう見ても取るに足らぬ小衛星の様に寄る辺無く浮遊しているのは、“赤系虹ミイラ”教軍名=煬赫こと“元・地上人”戸倉一志であった。
…だが襤褸は着てても心は錦、現在の不遇はいずれ己の真価が満天下に示されるまでの一時的事象に過ぎぬと妄信する脳天気な殺人狂は、とある一件以来勝手に宿敵と思い定めている極悪龍坊主どもの憎き姿を想起して改めて怨嗟と羨望の燠火を掻き立てた。
「──特に陀幽巴、あ奴だけは赦せぬ!
地獄の魔神…いや、偉大なる教聖の恩寵によって、あの忌まわしき地上世界と似て非なるこの異世界に勇躍転生せしこの選ばれし魂を祝福し歓迎するどころか、文字通り犬畜生扱いしたばかりか終生消し去れぬ恥辱と傷を心身に刻み付けおった呪わしき鬼畜…!」
…事実、幽巴兄弟と遭遇するまでは戸倉一志の“異世界ライフ”はそれなりに順調だったといっていい。
2年前、神牙教軍が総本陣を構えるダロバスラ山の【極天霊柱】において呪われし産声を上げた時、いわゆる虹ミイラは“青系”一色だった。
即ち、戸倉=煬赫は栄えある“赤系”第1号であったのである。
しかも、その誕生はもう一つのエポックを意味していた。
史上初、教軍超兵に“地上人の血”が導入されたのだ!
尤も、“創造主”たる鏡の教聖曰く、
「使える部分は殆ど無かった」
らしいが、当の煬赫自身に朧気ながらも“戸倉時代”の記憶が残存している以上、少なくともその脳髄は暗黒の精神とは裏腹に極彩色の光彩が明滅する教軍超兵としての肉体の何処かに内蔵されているのであろう。
さて、神牙教軍首領の居城は天に冲する、T字型を構成する8本の魔槍の如き巨塔であったが、煬赫は物心付いてから初任務を得て旅立った半年後まで、ただの一度も端っこの1本から出る事はなかった。
まず、彼が課されたのは誉れある神牙教軍の一員としての心得の種々と、誇り高き教軍超兵が授けられた数々の超戦力発現の修練であった。
指導に当たったのは幾多の強者を育て上げた“青系”歴戦の古豪・樊尨。
当然ながら彼が注力したのは虹ミイラの特技ともいえる〈光攻撃〉であったが、手甲から発出する〔帯鞭〕の変幻自在の使用法に始まり、それこそ全身に凄まじい七色の閃光を疾らせての〈眩惑的殺闘術〉における様々なバリエーションの習得など内容は多岐に渡り、教軍のホープたる“赤系”第1号が学ぶべき技はまさに無限といえた。
かくて基本技が一通り身に付いた時点で教官は直ちに“実戦訓練”に入らせ、そこで宛てがわれた相手は彼ら“青系”がラージャーラ各地で捕獲した勇敢なる教界戦士達であったのだが、これは骨の髄からの殺人鬼にとってまさしく至福の日々の到来であった。
しっかりとした実践訓練を施すのであれば当然というべきであるが、教聖が戯れに?創出する多種多様な新作怪物や兵器の実験台として常時一定数がキープされている〈反抗躰〉と呼称される彼らは、決して丸腰で戦場である地下石室に臨ませられる訳ではなく、得物は長短の刀剣・槍戟類は無論の事、希望すれば飛び道具の弓や銃砲類さえもが、そして防具も堅牢な鎧から軽量化された装甲服まで、まさにいかなる戦士の好みにも対応出来る多種多様なアイテムが豊富に用意されていた。
かくてこの血塗られた舞台において決死のラージャーラ戦士を実に27人も屠り、“最終試験”として師・樊尨との模擬実戦をほぼ互角の内容で了えた煬赫こと戸倉一志は、絶対者から記念すべき初指令を授けられた。
全教軍戦士中、1,2を争う実力者であり、“教聖の懐剣”とも畏怖される“青系最強”の教軍超兵・奎壑が執教士長を務める枢覇界【リヤーラ厶麗宮領】に飛び、教軍の主要資金源の一つである“愛妾供給結社”【妖華姫】の用心棒兼取り立て役を仰せつかったのである…。
塔の上層に広がる、茫漠たる〈虚空の間〉…偉大なる首領の謦咳に触れられる唯一の場所…に設えられた“見えざる螺旋階段”を登りつめて参上した期待の新鋭の脳内に直接響いた神秘的な美声は直ちの出立を命じ、戸倉一志は彼を当地に運搬すべく急降下して来た刃獣キーゴの乗客となったのであった。
リヤーラムは全教界中2割弱を占めるに過ぎぬ、稀少な“非血縁女系教率者”によって統治されており、前任者によって幼時より後継者に指名され、入念なる薫陶を受けてきた現任者・セレージェが弱冠15歳で教界の頂点に立った直後、不吉な影の如く宮中に侵入して来た奎壑の魔手によって鏡の教聖が手ずから練り上げた〔鏡霊丹〕なる凶薬を服ませられて忽ち全身の細胞及び精神を半ば以上隷属させられてしまったばかりでなく、その忌むべき副作用であろうか、毎夜の夢の中にまで降臨して来た教聖の抗し難き魅惑を放つ説諭を浴びて無意識の底まで刻み込まれていたはずの教率者としての矜持を完膚無きまでに破砕されてしまい、僅か10日後には教軍の完全な同盟者となるに至ったのであった…。
だが、取り立てて傑出した産業も、況んや突出した軍事力も持たぬありふれた中堅教界に過ぎぬ麗宮領に腹心たる教軍最高幹部を派遣し、直轄下に置かんとした真意は何であったのか?
その答えは、該教界がラージャーラ随一の“美形産地”とされる、半ば常識化した風説にあったのだ。
ならば当然、“慢性的戦乱状態”にあるラージャーラにおいて最も危険な存在といえる鏡の教聖が食指を動かす以前に制圧を目論む勢力があって然るべきで、事実それらはニ、三に留まらなかった。
だが、その全ての首謀者がリヤーラムと矛を交えた瞬間から目も当てられぬ凶運に襲われたのみならず、早晩悉く変死を遂げるに及んで、麗宮領はある意味、“ラージャーラ最大の禁忌”となり、その伝説こそが最強の侵略障壁となっていたのであった。
…かくて一滴の血も流す事無く、天をも畏れぬ唯一の存在たる神牙教軍首領の手に陥ちたリヤーラ厶麗宮領は直ちに主の構想に従って動き始めたのだが、その最大のプロジェクトが意外にも世界最大の快楽産業組織の創出であったのである。
果たして史上最凶勢力が軍事行動の一環として本腰を入れて取り組み、何よりも人間の本能(煩悩)に根ざす領域へのかつてない贅を尽くした戦略故に、【妖華姫】はあたかも燎原の火の勢いでラージャーラ全界に拡大して行った。
何よりも特筆すべきは、擁する美女軍団の容姿と性技の質の高さであるが、教軍は男娼陣の充実にも抜かりはなく、もはや鏡の教聖は戦乱次元の災厄のみならず、いわば“淫楽の魔王”としても君臨するに至ったのであったが、妖華姫の旗揚げとほぼ同時期にこれもリヤーラムを拠点として恐るべき堕落兵器の拡散を開始していた。
“究極幻覚剤”ギャムナである。
宿敵・絆獣聖団からは恐怖と嫌悪を込めて“岩眼魔”と称される目玉だらけの、奇怪極まる闇の幻術を得意技とする有翼教軍超兵の体細胞を主原料に精製されるこの怪魔薬も、まずは妖華姫の戦闘員からその顧客へと広まり、その壮絶なまでの“夢幻境体験”は一度足を踏み入れれば二度と引き返せぬ、解放されるには死によるしかないほどの魔性を秘め、却ってその危険性によって信徒と呼ばれるほどの熱狂的な中毒者を日夜生み出していた。
そして魔薬量産のため、麗宮領に常駐していた十数体の岩眼魔の内、毘雲と名乗る個体と煬赫は何故かウマが合い、彼らは教軍超兵の種族の違いを超えて“刎頸の友”となったが、これは極めて珍しい事態であった。
さて、妖華姫の走狗となって以來、日々煬赫は激務に忙殺され、キーゴに跨って幾多の教界を駆け巡らざるを得なかったものの、不満を覚えるどころか半端者として燻り続けた地上時代には夢にも味わえなかった強者の実感に酔い痴れていた。
何しろ、彼の業務は出張娼婦や薬の代金(決して少額ではないが)を踏み倒そうとする不届き者への制裁と取り立て(これは人間時代とは真逆の役回りだ)であり、中でも華姫(娼婦達はこう呼称される)を負傷させたり、更には拉致監禁を図る猛者どもに対しては抹殺の許可すら与えられていたのであるから、弱者を痛ぶる度に殆ど法悦に打ち震える戸倉一志にとってはまさに“転生によって得た天職”といえた。
なお、意外極まる事に生来品性下劣な彼が地上最高の美女をも凌駕する華姫に些かも心を乱さなかったのであるが、そのカラクリは創造主=鏡の教聖が一切の性的器官を除去した上で、これだけは残さざるを得なかった、文字通り生命力と表裏一体の〈恋愛感情〉を自身に全振りする様、入念に洗脳手術を施していたが故の“椿事”であったのである…。
それならば、〘受躰の儀〙以後、煬赫=戸倉は萩邑りさら(の肉体)を思慕する仕儀に至るはずであるが、果たして…?
…こうして、夢の様な1年が過ぎた時、得意絶頂の戸倉一志は突如として地獄に叩き落された。
虹ミイラの天敵たる龍坊主・陀幽巴の手によって…!
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