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第2章 魔人どもの野望

回想の狂戦地ルドストン㉝

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 無元造房主任技師・ソートンはとりあえず剛駕崇景の現在の状態を把握すべく、3体の絆獣が副次サブの操獣法たる〈唱動法〉で聖団本拠地【砦】に帰還してゆく威容を映し出している7枚の中型スクリーン(目下、4枚を使用中)の背面に全く同一・同数の画面が嵌め込まれている右端の1枚に〔蒼き虎〕の錬装磁甲のパスワードを入力して機眼と連動させ、崇景が視ているものと同じ光景を映し出してみた。

 そこに出現したのは、茶褐色の砲弾●●が凄まじい速度で、しかも連続的に激しい衝撃音を伴って撃ち込まれている修羅場であり、命中●●の度に
画面は荒々しく揺さぶられるのであった!

「一体、何事だい!?

 まさか、崇景アイツ、戦闘中なのか!?」

 スクリーンに対応したシートに着席した銀髪の美青年の背後に立った竹澤夏月が驚愕するが、若き主任技師には些かの動揺もない。

「…可哀想に、失神したまま1人取り残された現場にあろうことか教軍超兵が乱入して来たみたいですね…。

 しかも飛び切りの強豪が…!」

 いかなる僥倖に恵まれてか、教宣室の白い石床にまるで死んだ様に大の字となっていた日本人錬装者は現在立ち上がってはいるものの、敵の凄まじい拳撃によってずるずると後退を余儀なくされている状況が見守る2人の聖団幹部…とりわけ竹澤総隊長に強い圧迫感をもたらす。

 攻撃の合間に、碧色に耀くアーモンド型の凶眼が防戦一方の崇景を睨み据えているのがはっきりと確認された。

「やはり、相手は龍坊主のようですね。

 …それも、最強クラスの」

 ごくりと生唾をみ込みつつ、夏月も頷く。

「さすが、龍坊主あいつらの打撃は迅くて重いね…。

 …でも、何とか立ってられてるって事は、崇景も手も足も出ない割にはよくかわしてるんじゃないのかい?」

 彼女の妙な感心の仕方に苦笑しつつ、主任技師は意外な見解を述べた。

「いえ、実は…、

 あれは彼の動きてはなく●●●●●●●●

 いわば錬装磁甲の自動防御反応●●●●●●●●●●●に過ぎないのです」

「えっ、そうなのかい?

 ああ、でも、なるほどねえ…。

 すると內部なか崇景アイツは引き続き絶賛失神中●●●●●なのかい?」

 この質問に、画面の隅に表示された錬装者と磁甲の現況を示す各種インジケーターを読み取ったソートンが憂わし気に応えた。

「…意識は辛うじて覚醒しているようですが…、

 かなり混濁していて、しかもひどく怯えていますね…。

 逆に言えば、この強烈な恐怖心が心地良き眠りに陥るのを妨げているといったところでしょうか…」

「ああ、とことん情けない野郎だね!

 アイツ、ホントにキン○マ付いてんのかねえ?

 …そんなザマだから、あんなションベン臭い小娘にまで鼻で嗤われちまうんだよ…。

 …ねえ主任技師殿

 ここはアンタの忌憚のない意見を聞かせてもらいたいんだが、この坊や、果たして聖団に置いとく価値があると本気マジで思うかね?」

 この問い掛けは、さしもの造房長ネフメルスの右腕たる切れ者にも即答しかねる難題らしく、美青年ソートンは珍しく言葉に詰まり、軽く咳払いして間を稼いだ。

「…まあ、タケザワ総隊長の目からご覧になると物足りない点が多々見受けられるのでしょうが、崇景かれとても一応、ギョクロウ拳師のお眼鏡に叶って錬装磁甲を託されている訳ですから…。

 それに、単独ではまだまだ心もとなくても、護衛絆獣バデラと組んだ際の戦いぶりは中々捨て難いものを持っていると思いますが…」

 鼻白んだ表情で耳を傾けていた殺戮姫だが、イラつきを抑えきれなくなったものかその口調は明らかに変化し、持ち前の毒舌を炸裂させる。

「バデラか…。

 みんなそれ●●を言うけどねえ、

 実際、いっつもアレが付いててくれる訳じゃないだろ?

 実際、今回みたいにロンリーバトルになった途端にオシッコちびってるんじゃ、話にならんよ!

 …あたしゃ、あの教率者ジジイとは相性最悪で、やる事なす事悉くムカつくんだが、今回たった1コだけまともな判断をしてくれたわ。

 あのボンクラな錬装者と優秀な護衛絆獣を引き離すっていうね…。

 まあ、どんなバカでも今回のやらかし●●●●を鑑みれば、ド厚かましくラージャーラここに居残ろうなどとはホザけんだろうもんじゃないかい?

 次に顔を合わせたら今度こそ玉朧にもハッキリ言うつもりなんだが、そろそろこの不適合者●●●●に引導を渡しとかないと、コイツと聖団双方に取り返しの付かない不幸をもたらすのは目に見えてるじゃないか…。

 …それに何より許せんのは、テメエの実力の程度をいっかな認識せず、いっぱしの戦士気取りで萩邑や雅桃に色目を使いまくってるって事だよ。

 …全く、呆れて空いた口が塞がらんとはこの事だわさ」

 尤も個人の恋愛感情にまで組織が容喙すべきではないとのデリカシーはさしもの殺戮姫といえど有せぬ訳ではなかったが、剛駕崇景の場合些か度を過ぎ、もはや悪習●●の段階にまで達しているのが看過せざる問題であったのである。

 …この不愉快極まる密告●●は、ある匿名の錬装者による下卑た文面の投書の形を取って、何故か直属の上司たる玉朧拳師ではなく、“操獣師の親玉”である竹澤夏月にもたらされた。

 “…剛駕崇景は、普段は萩邑操獣師のためなら死ねるなどとうそぶいていているくせに、シャワールームでは鄭操獣師をオカズ●●●にしてその名を連呼しながら自慰行為に耽っている”

   …と。

 しかも、総隊長自身は関知していなかったが、この周囲に揉め事の種をまき散らすのを何よりも好む厄介な性格の“錬装者の卵”=雷堂 玄は、自称・ジゴロの才覚を発揮して補欠●●操獣師連とたちまち昵懇となり、最も彼に好意を示した人物にこの“下世話情報”を吹き込み、愚かにも?異様に盛り上がった彼女達は、異例の大抜擢(もちろん非凡な資質が正当に評価された結果だが)が嫉視の的となっている最年少特級操獣師ドゥルガーの耳にこのを注ぎ込まずにいられなかったのだが、この流れは自身●●が絶世の美少女・雅桃に熾烈な関心を抱く生来のサディスト・玄の目論見通りであった。

 かくて雅桃が崇景を文字通り蛇蝎視し、その名を耳にしただけで吐き気すら催すようになったのはまさにこの時からであったのである…。

 
 …“幽巴一族最強の男”鑼幽巴は、ひたすら攻撃を持続しつつ剛駕崇景…否、蒼き虎を象った彼の錬装磁甲を着実に破壊に追い込んでいる手応えを感じていた。

 …当初の計画では無抵抗の錬装者に覆い被さり、メリメリと装甲を剥ぎ取って謎とされるその内部機構を看取しようとしたのであるが、そこでいきなり右拳を突き上げて来られたのにはさすがに度肝を抜かれたものだった。

 当然、直ちにお返しの鉄拳を振り下ろしたのだが、錬装者は凄まじい迅さでグルグルと回転して回避し、そのまま不自然なまでの素早さで立ち上がったのであった。

 ここで鑼幽巴は確信した。

“これは、錬装者自身の反応ではなく、錬装磁甲それ自体が危機回避のため独自に作動しているのだ”

 と。

 しかし、すぐに奇妙な事に気付いた。

 反撃●●は最初の一撃だけで、後はひたすら防御と回避に徹しているのだ。

 されど、理由は思い付かなくもない。

『錬装磁甲はあくまで錬装者の〈意志〉に従うモノ…それであるならば、

 このゴウガとかいう未熟な錬装者が死の恐怖に駆られ、その本心が勝利よりも逃亡を求めているのであれば、磁甲のパワーが防御行動のみに偏向するのも理の当然といえるのではないか?』

 かくて、ありとあらゆるアクロバティックな動作で教軍超兵の打撃から逃れんと試み、しばらくそれが奏功したものの、鑼幽巴の集中度と攻撃速度が高まるにつれ健気なる機械●●●●●●は凄まじいまでの破壊的衝撃に晒され始めた。

 この緊急事態を受け、一時的に回避行動のスピードが増したものの長続きする事はなく、拳も蹴りも悉く命中、“最強龍坊主”はしばらくの間、“動くサンドバッグ”との戯れを愉しんだ。

 そして、相手の反応速度の低下とギクシャクした動きから、歓喜無き勝利●●●●●●が近いのを確信したのである。

 …表情を曇らせつつインジケーターを凝視していた主任技師が低い声音で誰にともなく呟いた。

「…聞きしに勝る威力ですね、龍坊主の打撃とは…!

 肝心の錬装者の意識が混濁しているせい●●でもあるのですが、敵の一撃一撃から発せられる、いわば〈破壊波動〉ともいうべき悪魔的な震動が磁甲を形成する〈超硬粒子〉の結合を確実に弱めている…。

 おそらく表面●●は無数の、しかも致命的な亀裂に覆われているはず…。

 このまま攻撃を浴び続けると錬装磁甲はあと僅かな時間で完全に崩壊し、タカカゲの生命は確実に喪われてしまうでしょう…!」

“それも已む無しなんじゃないのかい?”

 背後に立つ殺戮姫の表情は間違いなくそう語っていたが、さすがに言葉にする事はなかった。

「本来、聖団員の戦闘に我ら無元造房が直接介入するのは御法度なのですが…、

 今回ばかりはやむを得ぬ緊急事態。

 禁を破って〈強制解装〉及び〈疾遁獣変〉を発動します…!」

 錬装者に対しては仲間意識よりも漠然とした敵意を抱懐してはいるものの、聖団幹部として一通りの知識は有している竹澤夏月にも初耳の用語ジャーゴンが発せられると同時に、銀髪の美青年のしなやかな白い指が2つのダイヤルを複雑に回転させる。

 操作は迅速に発動した。

 尤も、それを目の当たりにしたのは相対する龍坊主のみであったが。

 気息奄々たる蒼き虎の眉間に渾身の必殺拳を叩き込み、今度こそ碎き割ってやろうと踏み込んだ瞬間、標的はあたかも魔法にかかったかの如く一瞬にして蒼い煙●●●と化して空中に飛散したのだ!

 従って今この瞬間、鑼幽巴の前に立っているのは頭部を喪失した錬装磁甲なのだが、奇怪なのは内蔵されていたはずの剛駕崇景の頭もまた消失●●●●●●●●●●●してしまっている事実であった。

「むうっ!?

 こ、これは一体…?」

 戸惑う教軍超兵…だが次の刹那、驚愕の展開が彼を襲った。

 虚空を舞う蒼き魔煙が、まさに砂鉄が磁石に吸い寄せられるかの様にギラつく茶褐色の鱗に覆われた龍坊主の顔面を覆い尽くしたのだ!

「ぬわっ!?」

 両手で貌を掻きむしり、今や突如として被せられた硬質の蒼いのっぺらぼう●●●●●●の鉄仮面を必死で引き剥がそうとする鑼幽巴だが、驚異の固着力を示す超硬粒子は微動だにしない。

 …尤も顔面の生皮を剥がす覚悟で全力を振り絞れば可能であるのかも知れぬが…。

 そしてここからは真に目撃者不在の光景であるが、首無し錬装磁甲が奇怪な変形を開始していた。

 即ち、遅ればせながらの名を体現するかの如く、四つん這いとなったのだ!

 当然ながら頭部の機眼は失われているため、視界は背中から生え出た●●●●第2機眼サブカメラによって賄われる。

 …これらの事実を主任技師の説明によって把握した殺戮姫は感嘆しつつも当然の疑問を口にする。

「それじゃ、崇景アイツ腐れ頭●●●はどこに行っちゃったんだい…?」

「遁走の速度を限界まで上げるため、タカカゲには完全に眠ってもらいました。

 現在、彼の肉体はあたかも胎児の如く丸められ、磁甲の胴体部分に安全に収納●●されています…」

「なるほどね…、

 能無しのテメエはジタバタせずに、大人しく母ちゃんの腹の中でジッとしてろって訳だ…。

 それで、アンタの魔法●●で龍坊主の顔面を覆った仮面が首尾よくアイツを窒息死させてくれるって訳かい?」

 殺戮姫の尽きること無き毒舌に、苦笑とも違う複雑な笑みを見せたソートンが応じる。

「そうなれば理想的なのですがね…。

 あくまでも粒子の結合は保って3セスタ(約27分間)といったところ…、

 しかもは並みの教軍超兵ではなさそうですから、恐らくそれは叶わぬ相談でしょう…。

 とにかく今は、錬装者タカカゲの安全確保に注力すると致しましょう…」

 かくて戦意を喪失した強敵が顔面を押さえて床をのたうち回るのを幸い、首無し虎●●●●は豪快極まるダッシュで教宣室の扉をブチ破って地獄の戦場を脱出した。

「ところで、アレ●●をどこに移動させるつもりだい?

 …あたしが口を出すことじゃないかもしれないが、まさか黒蛹ここじゃないだろうねえ…?」

「…うーん、いけませんか?

 まあ、とりあえずは同じ海底宮殿内におられるギョクロウ拳師の許にお届けしようか●●●●●●●…とも考えているんですが…、

 ご迷惑でしょうかね…?」

 だが非情なる殺戮姫は反対するどころか満面の笑みを湛えつつ、手を叩いて同意した。

「大賛成!

 何たって自分の部下の不始末なんだもの、

 まことの武道家たるもの、弟子の生き恥は己のそれ●●と弁えて、謹んで応対するに決まってるって…。

 まあ、ホントに今回のやらかし●●●●は聖団全体の大イメージダウンになっちまったんだから冗談抜きで師弟共々猛省してもらいたいもんだね!

 …ま、反省つってもアタマ丸めるくらいじゃとても追っつかんけどね!

 あっ、そういや崇景ガキの方は元々ボウズだし、そもそも玉朧オヤ最初はなからハゲなんだった!!」
 



 


 






 





 

 

 

 

 




 


 










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