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第2章 魔人どもの野望

回想の狂戦地ルドストン㉗

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『すまぬ…!

 ユグマよ、君を救うどころか反対に救われる結果となってしまった…』

 激昂した龍坊主が殲闘者の屍をひたすら踏みつけ続ける間隙を縫って、❲装甲服用争波環〕に〈解錠パスワード〉を打ち込んで扉の内側に転がり込みはしたものの、平衡感覚の一時的破綻によって立ち上がる事すら叶わず、芋虫の様に武器庫に這い戻るライネットは鉄兜の内部を吐瀉物まみれにしながら、ひたすら慙愧の念に苛まれていた。

 …だが、それにしても。

 呪念士という異色の経歴を有する教率者の同門の宿敵●●●●●が、身勝手なる報復を果たすべくあろうことか“人虫一体”の魔物へと変化し、その恐るべき呪力によって三人の操獣師と親友の息子を教軍の尖兵へと変えてしまった怪現象も未だ信じ難いが、名うての“龍坊主ハンター”としての彼にとって到底腹に据えかねるのが、“不倶戴天の宿敵”までもがあたかも自陣の如く本丸の海底宮殿を跋扈するに至った事実であろう。

『…あれは恐らく、噂に聞く“幽巴四兄弟”の一匹…。

 あの図体で可能であったのなら他の連中は確実に潜入しているはず…!

 …となると、ロゼムスを拘束したのは龍坊主やつらという事か…?

 もしそうなら、やはり行き先は死霊島メッズか…!?』

 約1アトス前、巨漢龍坊主の怪力によって一時的な失神に陥ったものの、常人の十倍とされる驚異的回復力により直ちに正気付いたライネットは、激しい頭痛と吐き気に加わった頸部へのダメージを軽減すべく、まず鉄兜の耳部分の隠しボタンを押して内部を鎮痛冷感瓦斯ガスで満たしていたが、それが完全に奏功し、ようやく立ち上がれたのは武器庫の扉に辿り着いてからであったのだ…。

 しかしそこからの武闘派執務長の動きは常と変わらず、銃架と対面の壁に向かった彼は、隅に設置したボタンを押した。

 静かな機械音を伴って左右に開いた黒い壁の内部に隠されていたのは、実に50個を数える、色こそ自身のシンボルカラーである黒一色でありながら、1つとして同じ意匠デザインの物はない鉄兜である。

 上下4列にわたって整然と並べられたそれらの最下段の右端にはそれらよりやや大きめの丸穴●●が穿たれており、ライネットは苛立たし気に外した鉄仮面と、貌の汚れを拭った黒布を乱暴に放り込み、穴の脇にある赤いボタンを突く。

 通常、使用済みの鉄兜は穴の奥の〈管理維持装置〉によって洗浄&修理が施されるのだが、主が躊躇う事なく選択したのは廃棄●●であった。

 次に被るべき鉄兜を物色しつつライネットの脳裏を占めているのは、如何なる手段を用いても阻止すべき“凱鱗領の至宝ロゼムス”の拉致であり、敵の出方であった。

『恐らく、ケエギルの後継に選任●●されるのは主督空将・チェザック…!

 となれば、メッズへの移動手段は必然的にガートスとなろう…。

 だが、自己防衛に関しては絶対的な自負を有する●●●●●●●●●●ロゼムスの事、

 必ずや、我々如きには想像も付かぬ超絶的手法によってこの窮地を脱するはずなのだが…』

 実は執務長就任早々、彼は絶対者から天才技術者の警護者を複数選抜する旨を命じられ、〈教率者親衛隊〉に匹敵する有為の人材を選んだのであったが、当のバジャドクからそれを告げられたロゼムスは断固として固辞し、こう豪語してのけたのだった。

「我が身を守る“完璧なる手段”は既に完成しており、いつ何時ても発動出来る状態にある。

 どうか教界にとって貴重なる有能者は自分如きにではなく、罪無き教民とその生命財産の守護防衛に宛てて頂きたい」

 と…。

 この申し出が日頃の彼に似ずあまりにも強硬であったため、教率者も渋々了承したのであったが、条件としてその手段●●とやらを、自身が絶大な信頼を措く執務長へ公開する事を課したのであった。

 …そして、ライネットはたのだ。

 その内容はあらゆる兵器類に通暁した彼の予想に違わぬ…否、大きく凌駕するものであり、盟友の絶対的な自信は首肯せざるをえぬ説得力を有していた。

 そして詳細な報告を受けたバジャドクも一応は納得し、ライネットが知る限りこの件に関しては以後一切沙汰止みとなったはずであった。

『…既にロゼムスの防衛策は発動しているはず。

 だがその刃が龍坊主どもに留まらず叛乱軍とはいえ同胞たる統衞軍に向けられた場合、些か面倒な事態となるかも知れぬ…。

 尤も、内面に激しい“義のほむら”を燃やす彼の事…、

 我が身の安寧を省みず敢えてそのみちを採り、単身この教界を覆う暗雲を晴らさんとしているのかもしれんな…』

 従って、凱鱗領最強戦士すら唸らせた自前の〈護衛団〉を擁するロゼムスが教率者による海底宮殿への“避難勧告”に応じたのは決して敵への恐怖ではない事だけは確かであった。

『無論、教率者様の勅令であるが故なのは言うまでもないが、実はこれを奇貨として、息子との和解の契機●●●●●●●●●としたかったのではないか?

 …それであるなら、その可能性を永遠に奪ってしまったのは他ならぬこの私ではないか…』

 だが、今は悔恨に身をよじっている場合ではない。

 とにかく、堂々と海底宮殿に潜入して来た龍坊主という火の粉を振り払わねばならぬのだ。

 彼が新たに選択した鉄兜は4列目・左5番目の無表情ながらも底知れぬ瞋恚を感得させる人面を象ったものであり、その表面に指で触れると表面のみが露出していた兜が台座ごと前方に迫り出すのであった。

 全コレクション●●●●●●●の中で、秘かに最も気に入っているそれを素早く装着した執務長は、続いて向かった戮弾電銃の銃架から最も外し易い胸前に掛けられた…即ち現在愛用している…ロゼムスにカスタムされた“最強バージョン”を握りしめる。

 武装完了…あとは“獲物”の状況確認である。

 だが簡易コンソールの37の監視カメラの連携スクリーンを瞥見した瞬間、さしものライネットも青く光る機眼越しに瞠目せざるを得なかった。

 いつの間にか出現した、いかめしい朱色の武具に身を固めた二足歩行の巨猿がほぼ互角の体格の巨漢龍坊主と凄まじい殴り合いを展開しているではないか!?

『あれは絆獣聖団の…、

 護衛絆獣・バデラ…!

 …さては玉朧拳師にここへ誘導されたか?

 或いは、自力で教軍超兵の居場所を察知したのか?

 いずれにせよこれで狙撃の難易度は増した訳だが、を撃たねばならぬ事態が来ぬ事を天響神エグメドに祈ろう…』

 かくて“天敵撃破”に赴くべく龍坊主ハンターが踵を返そうとしたまさにその時、画面にあり得ぬ映像が映し出された!

 全身臙脂色の新たなる龍坊主の凶相を!!

「貴様は…!?」

 この怨敵の動揺は瞬時に伝わったと見え、あらゆる意味で回廊の巨漢とは比べ物にならぬ俊敏さを備えているらしい“新顔”は、耳障りながらもあの龍坊主●●●●●が上げるにしてはあまりに知的な哄笑を響かせた。

「あっはははははっ、

 ちゃんとアイツ●●●に繋がったみたいよ?

 …よう、元気?

 射撃名人で多分ムッツリス○べのライネットおじさん!

 ボクの名は縻幽巴、

 “最強教軍超兵”幽巴兄弟の知恵袋、いや司令塔と認識しておいてくれるかな?

 あ、そういや我々と似たような看板掲げてる奴もいるみたいだけど、ソイツは完全に自己申告●●●●の真っ赤なニセモノだからネ!

 …ところで早速質問だけど、ここ●●どこだか分かる?」

 それならば、縻幽巴と名乗るこの龍坊主の背景●●を一瞥した時から覚っていた。

 何故ならば、“事前の推理“と一致していたからだ…!

「…ガートスのコックピット、だな」

 この返答に、碧色に底光りするアーモンド型の魔眼が些か丸く変形したかに見えた。

「へえ…、

 さすが“凱鱗領最強戦士”と畏れられてるだけの事はあるね、

 御名答だよ!

 …じゃ、何でボクはここにいるのかな?」

 この質問に即答は不可能だった。

『…単純に考えれば、死霊島メッズから遣わされたこの龍坊主がロゼムスを伴って帰還する、といった所だが…、

 だが神牙教軍最強戦士●●●●●●●●を名乗る海龍党副頭目・摩麾螺をああも敵視する以上、縻幽巴ヤツの行き先が死霊島あそこであるはずはない…。

 だが、彼奴の態度から察するに、既にロゼムスを確保●●したのは確からしいな…。

 しかるに彼が未だ無抵抗●●●らしいのは不可解だが、必ずや深い策謀あっての事だろう…。

 それはともかく、あの口ぶりからも縻幽巴とやらの強烈な顕示的性格は疑えない以上、単なる示威以上の意味は見出し難いが…』

「くくく…、

 幾ら優秀なる鉄仮面さんもこれだけのヒントじゃ訳分からんよねえ…、

 いや、ボクが悪かった、

 じゃ、正解●●を教えたげるね」

 だが、寡黙なる武闘派執務長は意外にもここで引き下がらず、あたかも弾丸の如くこの台詞を撃ち込んだのであった。

「…御親切にも教えてくれるためさ…、

 神牙教軍と海龍党があくまで別物●●だという事をな…!

 その証拠に、画面に映ってこそいないが、貴様のそばには統衞軍主督空将チェザックがあたかも罪人の如く拘束されているはずだ●●●●●●●●●●●●●●●!」

 

 



 


 






 



 


 



 





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