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第2章 魔人どもの野望
回想の狂戦地ルドストン㉕
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黒光りする鋼球が中心線からゆっくりと前後に分離してゆき、漆黒の戦士が姿を現した。
仇名の“鉄仮面”が実体化したかの如きフルフェイスの特殊超硬金属製鉄兜と、全身を覆うボディアーマーを纏った執務長は、軽快且つ剣呑な響きを帯びる足音を立てて銃架に歩み寄る。
まずは戮弾電銃に機眼を向けたものの、結局ライネットが手に取ったのは、生身の手に握るにはあまりにも大ぶりな装甲兵用殲敵短銃であった。
それを右腰の特強樹脂製ホルスターに収めた後、黒一色の空間の隅に設えられた簡易コンソールの前に立った凱鱗領最強戦士は、〈隠し小部屋〉をぐるりと囲繞する回廊を激走する怪物を映し出す画面を一瞥した後、落ち着いた足取りで私設武器庫を後にした。
「バージャドクッ!
一体どこにいる!?
逃げ隠れしてもムダだ!
発着場に向かうにはオレが入ってきたあそこを抜けるしか方法がないのはとっくに確認済みなんだぜ!
まあ呼んで出て来るはずはねえから適当な扉を見つけ次第、飛び込んで行って隠れ家から引きずり出してやるがな!!
…おっ!?
言ってるうちに早速見つけたぜ、
因業ジジイの墓場の入口をな!!」
その叫びが終わると同時に鉄製の自動扉が左右に開き、勇躍出現したライネットはおよそ30レクト(約23m)先から突進して来る刺客に向けて銃を構えた。
右手で銃把を握り、銃身は床と水平にした左腕の手首部分で支える。
「何だ、てめえは!?
…分かったぞ!
さっき暗殺の邪魔をしやがったバジャドクの子分だな!?」
それを肯定するかの様に2発発射された殲敵弾は恐るべき精度で標的の左眼を襲い、殲闘者は絶叫と共に丸太の如き両腕を交差させて逃れんとするが、発砲と同時にダッシュしたライネットは神速で急接近しつつ更に1発発射し、ユグマとの距離が1レクトに縮まった所で跳躍、空中で飛び蹴りの体勢となった。
「バカめ!
そんな鉛玉を何発撃ち込もうが無駄だということがまだ分からんのか!?」
右上腕部に浅い裂傷を負ったのみの怪物が豪語するが、黒い砲弾となったライネットの右足裏が彼の股間を直撃したのはその直後だった。
「おごへっ!?」
“最強生命体”を具現化するため魔界から出現した殲闘躰といえども、決して痛覚を克服出来た訳ではない。
しかも、何よりも“不滅の欲望”をこそ唯一無二の原動力としているため、その発生源は進化前と同様の“デリケート・ゾーン”であり、即ち最大の〈急所〉でもあったのだ…。
凄まじい激痛と同時に襲われた不能の恐怖に思わず戮弾電銃を取り落とし、両手で股間を押さえて前屈みとなるユグマ…次の瞬間、その右顳顬を烈風の如き左ハイキックが撃ち抜いていた!
「ごげっ!!」
無様に苦悶しつつも転倒には至らなかったのは、燃え滾る殺意が一刻も早く反撃を開始せんがためそれを赦さなかったからであろうか?
だが、武闘派執務長が繰り出す“プロの戦闘技”のエゲツなさは、結局のところ“路上の素手喧嘩”以上のものは未経験である街場の不良少年に対応出来るものではなかった。
…何と“四の矢”としてライネットが放ったのは、金的蹴りによってユグマがくの字に躰を折り曲げた際に相手の金属ベルトから素早く抜き取った棒状ナイフであり、彼が狙ったのは最初に短銃を向けた左眼であったのである!
「うぎゃえおおおッ!!」
…だが、この残虐殺法は攻撃者にとって凶と出た。
皮肉な事に、これを奇貨としてようやくユグマが…、
いや、彼の殲闘躰が反撃を開始したのだ!
強靭な刃はほんの尖端部分が白熱化した眼球に触れ得たのみで、そこから発した超高圧電流が漆黒の装甲に鎧われたライネットの全身の細胞を隈なく軋ませ、一時的な完全麻痺状態に追い込んだのだ。
ナイフを取り落とし、否応なく片膝を付いた最強戦士の鉄仮面に、凄まじい迅さで放たれた魔少年の右足裏が炸裂する。
ゆうに10レクトは吹き飛んだライネットに向けて巨大な獅子を彷彿とさせる勢いで飛び掛かったユグマは、相手の後頭部が床に打ち付けられると同時に砲丸の如き右拳を顔面に叩き込んだ!
これを嚆矢として鬼神と化した殲闘者の轟雷の如き馬乗りパンチが猛威を振るい、少なくとも30発は超えた段階で一旦、怪物は動きを止めた。
殲闘者恐るべし…。
いかに“魔進化”を遂げたとはいえ、寸鉄をも帯びぬ生身の拳の連打が、殲敵鋼銃の至近距離による連射ですら傷一つ刻み得ぬ超硬金属の兜を明白に凹ませ、仮面全体に浅いながらも亀裂を生じさせていたのである!
「へへ…、生きてるか?
ま、少なくとも半失神状態だろうが…。
…思い出したぜおっさん、アンタの名前。
確かライネット、だったよな。
家にも何度か来た事あったっけか…。
どエラく無口な野郎だな、っていうのだけは覚えてる…、
しかも遊んでもらったどころか、声を掛けられた記憶すらねえなあ…、
おっさん、印象最悪だぜ。
まあ、性格のまんまといやあそれまでだが、戦い方にしてからがド汚え…、
尤も、これが綺麗事抜きの戦場仕込みだとかホザくんだろうが、笑わせるんじゃねえや。
…だが結局、悪は善には勝てねえって事がハッキリしたな!
どうだい、正義の鉄拳の味は?
泣きながらまた俺ん家に駆け込んで、頼みの綱のロゼムスに、新しい武器を造ってもらおうってか?
あいにくだが、その機会はもうねえぜ!
あん時ユグマ君に愛想振りまいときゃあ命までは取られず、廃人になるだけで済んだのによ!!」
再び試し割りを開始すべく拳を振り上げた魔少年…だがそれが再び黒い鉄仮面を撃つことはなかった…、
魔拳の猛打を味わう事で、逆に両眼以外からの放電現象は許容範囲と半ば脳震盪状態の朦朧とした意識で判断したライネットは、次なる直撃の瞬間に首を思い切り右側に傾けて地上の大理石に近い質感の化粧石を敷き詰めた床を砕かせると、両膝を敵の胴体に巻き付けて逆立つ頭髪を左手で掴み、ボディアーマーの各関節部に仕込まれた強力な人工動力を全開して怪物の頭部を手前に引き寄せ、左の頸動脈に殲敵短銃の銃口を抉り込ませると瞬時に連射モードで全弾発射したのだ!
そして発砲の瞬間、ライネットは心の中で親友に詫びていたのだった…。
『許せ、ロゼムス…!
ルドストン凱鱗領の為に、
こうするしかなかったのだ…』
…勢いよく噴き出す青紫色の鮮血…、
さしもの最極呪念士も、血の色まで变化させる事は叶わぬ様であった。
「ぐごほっ…!
ば…ぎゃ…な…、
い…でえ…ぐ…ぐ…るじ…い…、
…リ…ザ…ㇻ…、
い…ま…いぐ…が…ら…、
…まっ…で…で…。
ぐがっ…ばあっ!」
かくて大量に吐血したユグマは黒い戦士の上に崩れ落ち、精根尽き果てたかライネットもまた短銃を握りしめたまま敗者の様に大の字となった…。
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まずは戮弾電銃に機眼を向けたものの、結局ライネットが手に取ったのは、生身の手に握るにはあまりにも大ぶりな装甲兵用殲敵短銃であった。
それを右腰の特強樹脂製ホルスターに収めた後、黒一色の空間の隅に設えられた簡易コンソールの前に立った凱鱗領最強戦士は、〈隠し小部屋〉をぐるりと囲繞する回廊を激走する怪物を映し出す画面を一瞥した後、落ち着いた足取りで私設武器庫を後にした。
「バージャドクッ!
一体どこにいる!?
逃げ隠れしてもムダだ!
発着場に向かうにはオレが入ってきたあそこを抜けるしか方法がないのはとっくに確認済みなんだぜ!
まあ呼んで出て来るはずはねえから適当な扉を見つけ次第、飛び込んで行って隠れ家から引きずり出してやるがな!!
…おっ!?
言ってるうちに早速見つけたぜ、
因業ジジイの墓場の入口をな!!」
その叫びが終わると同時に鉄製の自動扉が左右に開き、勇躍出現したライネットはおよそ30レクト(約23m)先から突進して来る刺客に向けて銃を構えた。
右手で銃把を握り、銃身は床と水平にした左腕の手首部分で支える。
「何だ、てめえは!?
…分かったぞ!
さっき暗殺の邪魔をしやがったバジャドクの子分だな!?」
それを肯定するかの様に2発発射された殲敵弾は恐るべき精度で標的の左眼を襲い、殲闘者は絶叫と共に丸太の如き両腕を交差させて逃れんとするが、発砲と同時にダッシュしたライネットは神速で急接近しつつ更に1発発射し、ユグマとの距離が1レクトに縮まった所で跳躍、空中で飛び蹴りの体勢となった。
「バカめ!
そんな鉛玉を何発撃ち込もうが無駄だということがまだ分からんのか!?」
右上腕部に浅い裂傷を負ったのみの怪物が豪語するが、黒い砲弾となったライネットの右足裏が彼の股間を直撃したのはその直後だった。
「おごへっ!?」
“最強生命体”を具現化するため魔界から出現した殲闘躰といえども、決して痛覚を克服出来た訳ではない。
しかも、何よりも“不滅の欲望”をこそ唯一無二の原動力としているため、その発生源は進化前と同様の“デリケート・ゾーン”であり、即ち最大の〈急所〉でもあったのだ…。
凄まじい激痛と同時に襲われた不能の恐怖に思わず戮弾電銃を取り落とし、両手で股間を押さえて前屈みとなるユグマ…次の瞬間、その右顳顬を烈風の如き左ハイキックが撃ち抜いていた!
「ごげっ!!」
無様に苦悶しつつも転倒には至らなかったのは、燃え滾る殺意が一刻も早く反撃を開始せんがためそれを赦さなかったからであろうか?
だが、武闘派執務長が繰り出す“プロの戦闘技”のエゲツなさは、結局のところ“路上の素手喧嘩”以上のものは未経験である街場の不良少年に対応出来るものではなかった。
…何と“四の矢”としてライネットが放ったのは、金的蹴りによってユグマがくの字に躰を折り曲げた際に相手の金属ベルトから素早く抜き取った棒状ナイフであり、彼が狙ったのは最初に短銃を向けた左眼であったのである!
「うぎゃえおおおッ!!」
…だが、この残虐殺法は攻撃者にとって凶と出た。
皮肉な事に、これを奇貨としてようやくユグマが…、
いや、彼の殲闘躰が反撃を開始したのだ!
強靭な刃はほんの尖端部分が白熱化した眼球に触れ得たのみで、そこから発した超高圧電流が漆黒の装甲に鎧われたライネットの全身の細胞を隈なく軋ませ、一時的な完全麻痺状態に追い込んだのだ。
ナイフを取り落とし、否応なく片膝を付いた最強戦士の鉄仮面に、凄まじい迅さで放たれた魔少年の右足裏が炸裂する。
ゆうに10レクトは吹き飛んだライネットに向けて巨大な獅子を彷彿とさせる勢いで飛び掛かったユグマは、相手の後頭部が床に打ち付けられると同時に砲丸の如き右拳を顔面に叩き込んだ!
これを嚆矢として鬼神と化した殲闘者の轟雷の如き馬乗りパンチが猛威を振るい、少なくとも30発は超えた段階で一旦、怪物は動きを止めた。
殲闘者恐るべし…。
いかに“魔進化”を遂げたとはいえ、寸鉄をも帯びぬ生身の拳の連打が、殲敵鋼銃の至近距離による連射ですら傷一つ刻み得ぬ超硬金属の兜を明白に凹ませ、仮面全体に浅いながらも亀裂を生じさせていたのである!
「へへ…、生きてるか?
ま、少なくとも半失神状態だろうが…。
…思い出したぜおっさん、アンタの名前。
確かライネット、だったよな。
家にも何度か来た事あったっけか…。
どエラく無口な野郎だな、っていうのだけは覚えてる…、
しかも遊んでもらったどころか、声を掛けられた記憶すらねえなあ…、
おっさん、印象最悪だぜ。
まあ、性格のまんまといやあそれまでだが、戦い方にしてからがド汚え…、
尤も、これが綺麗事抜きの戦場仕込みだとかホザくんだろうが、笑わせるんじゃねえや。
…だが結局、悪は善には勝てねえって事がハッキリしたな!
どうだい、正義の鉄拳の味は?
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魔拳の猛打を味わう事で、逆に両眼以外からの放電現象は許容範囲と半ば脳震盪状態の朦朧とした意識で判断したライネットは、次なる直撃の瞬間に首を思い切り右側に傾けて地上の大理石に近い質感の化粧石を敷き詰めた床を砕かせると、両膝を敵の胴体に巻き付けて逆立つ頭髪を左手で掴み、ボディアーマーの各関節部に仕込まれた強力な人工動力を全開して怪物の頭部を手前に引き寄せ、左の頸動脈に殲敵短銃の銃口を抉り込ませると瞬時に連射モードで全弾発射したのだ!
そして発砲の瞬間、ライネットは心の中で親友に詫びていたのだった…。
『許せ、ロゼムス…!
ルドストン凱鱗領の為に、
こうするしかなかったのだ…』
…勢いよく噴き出す青紫色の鮮血…、
さしもの最極呪念士も、血の色まで变化させる事は叶わぬ様であった。
「ぐごほっ…!
ば…ぎゃ…な…、
い…でえ…ぐ…ぐ…るじ…い…、
…リ…ザ…ㇻ…、
い…ま…いぐ…が…ら…、
…まっ…で…で…。
ぐがっ…ばあっ!」
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