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第2章 魔人どもの野望
回想の狂戦地ルドストン㉒
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水上移動都市の一角に設けられた待機帯には現在、竹澤夏月の地獄絆獣、萩邑りさらの麗翼光鵬、そして鄭 雅桃の閃煌紫燕しか留まってはいなかった。
残る雷吼剣蛇、電爪魔鷹、金色鬼鷲は既に、創造主たる無元造房の技術者が大型輸送機【黒蛹】の一室から行う“遠隔操獣”によって聖団の本拠地である【砦】へ帰還しつつあったのである…。
この無謀ともいえる戦力の大幅削減に至った原因はもちろん、総隊長・夏月が強硬に主張した操獣適任者の不在にあったが、該ミッションにおいて彼女に全権が委任されている事を熟知している造房長・ネフメルスが3体の“強制送還”に異を唱えるはずもなかった。
そして3人の“特任技師”が聖幻晶ではなく、コンソール上の10数個のダイヤルによって絆獣をコントロールする様を背後から興味深げに見守る殺戮姫は、傍らに立つ“主任”のソートンに半ば本気でぼやいた。
「…この無元造房お得意の、絆獣の脳に仕掛けた〔共鳴増幅器〕に特殊音波を通じて働き掛けるってやり方は、今でこそ次善の操獣法だけど、今回みたいな特級の失態が続くようだといずれ“本式”に昇格しちまうんじゃないだろうかね?
…って以前から危機感に駆られてたんだけど、いよいよ不安が現実になっちまってますます失業の恐怖に怯えてる今日この頃だよ…」
「…おそらくそのような事態には至らないでしょう。
何故ならば操獣師抜きで駆動する絆獣など、天響神の定められし原理原則から逸脱しているどころか、そもそも存在する事を許されてもおらぬからです…。
第一、無元造房とてこの〈唱動法〉では、聖幻晶を通じて文字通り絆獣と一体化する特級操獣師の〈融魂法〉の足元にも及ばぬ“稼働実績”しか挙げられておらぬのですから…、
無論、これからもこの方向で研究は続けていく予定ではありますが、貴女方に追いつくには気が遠くなるほどの時間が必要だろうと覚悟しておりますよ…」
落ち着いたグレーの作業用ジャンプスーツにほっそりとした小柄な身を包んだ、肩まで届く艶やかな銀髪の美青年は苦笑しつつ応じる。
「…だといいがね…。
まあ、今日のところはアンタの言葉を信じるよ…。
…ところで、我らが萩邑りさらは一体何をやってらっしゃるのか、随分遅いじゃないか…?
さっきから聖幻晶で何度呼びかけても返事もないし…、
まさか、これから出動って時に聖幻晶を外すなんて考えられんし、ね…。
…アンタに訊くのもお門違いで気が引けるけど、主任殿はどう思われるかね?」
いきなり難題を振られたソートンも困惑の表情で首を傾げる。
「それはおかしいですね…、
聖団全体を見渡しても常に皆の手本となるほどの責任感をもって任務に当たるリサラとの連絡が取れぬとは…?
そもそも、彼女が隊長と連れ立って現れなかった時点で奇異な感じは受けていたのですが…」
眉間に皺を寄せた険しい表情で夏月が応える。
「…あたしも迂闊だったよ…。
軸塔の昇降機を降りた所にバジャドクの侍女とやらが待ち構えてて、ジジ…いや、教率者直々の激励とやらを萩邑に贈りたいとか吐かしたもんで、アイツ一人を行かせたんだが、どうやらとんでもない罠だったと見える…!」
ギリッと奥歯を噛んだ殺戮姫は、一縷の望みを賭けてC-キャップを呼び出した。
「…ああ、道子かい、
雅桃はどうしてる…?
…ふふん、なるほど、
“教界随一の精神医”に安定剤と睡眠薬を処方されてぐっすり眠ってるってか…。
となると、おそらく閃煌紫燕も、もうこのミッションじゃ使い物にならないね…。
…ああ、分かってるって!
あくまで“不幸で不可避な犯罪的アクシデント”ってヤツに見舞われたんであって、操獣師に何の落ち度もないって事は天地神明に誓って断言出来るっての…。
…ところで、そっちに萩邑から連絡は無かったかい?
いや、実はアイツと一階で別れてそれっきりになってるんだよ…、
何でも、教率者がアイツだけにメッセージがあるってんで、召使いの女に引っぱってかれちまってね…。
…やっぱり、アンタもそう思うかい?
そうとも、会議室での一件といい、
起きる事全てがあまりにも異常だよ!
…こうなると、チラワンらの事も心配になって来たわな…え?
連中と直接連絡を取ってみたって…?
さすがはC-キャップだね、それで?
応答無し…まあ、それはルドストンからすりゃ患者な訳だから聖幻晶を取り上げてる可能性はあるわな…だけど…、
何ッ!?
…医療機関側が3人の安否確認に応じないだって…?
そりゃどう考えてもおかしいだろ!?
…了解、これで確信したよ!
何かとんでもない陰謀がこの教界のド真ん中で企まれてるって事をね!!
…断言は出来んけど、おそらく萩邑とチラワン達は、鏡の教聖と奴に屈した統衞軍に人質カードとして使われる可能性が高いね…。
わっ、ビックリした!
…いきなり大声挙げるんじゃないよ、
心臓が止まるかと思ったじゃんか…。
ああ、そうさな、
確かにまだ、そうと決まった訳じゃないさ…、
でもね、道子、
次はアンタらの番かもしれないんだよ!?
ああ、もちろん雅桃もいるし、
今すぐ客室を動けないのは分かってる…でもね…、
え?
イザとなったらアレを出してやるって…!?
気持ちは分かるけど、くれぐれも早まるんじゃないよ?
その時は絶対、ソートン大先生にお伺いを立ててから、だからね!?
…まあ取りあえず戸締りだけは厳重に、ね。
じゃ、一旦切るからね!」
殺戮姫は押さえつけていた額の六方手裏剣型聖幻晶から右手を離し、虚空を見据えたまま太い溜め息を吐いた。
「…こりゃあたしも、
呑気に出動なんかしてる場合じゃないかもしれないね…。
実はブリーフィングの前からイヤな予感がずーっと続いてるんだ…」
「…イヤな予感、ですか?」
主任技師と目を合わせる事なく、夏月は頷いた。
「…そう、
玉朧が言っていた“化け蛸”、
アレがいよいよ現れそうな胸騒ぎがしてしょうがないんだよ…。
…こうなったら、〈極覇級兵装〉が届くまで、下手に動かない方がいいのかもしれないね…!」
残る雷吼剣蛇、電爪魔鷹、金色鬼鷲は既に、創造主たる無元造房の技術者が大型輸送機【黒蛹】の一室から行う“遠隔操獣”によって聖団の本拠地である【砦】へ帰還しつつあったのである…。
この無謀ともいえる戦力の大幅削減に至った原因はもちろん、総隊長・夏月が強硬に主張した操獣適任者の不在にあったが、該ミッションにおいて彼女に全権が委任されている事を熟知している造房長・ネフメルスが3体の“強制送還”に異を唱えるはずもなかった。
そして3人の“特任技師”が聖幻晶ではなく、コンソール上の10数個のダイヤルによって絆獣をコントロールする様を背後から興味深げに見守る殺戮姫は、傍らに立つ“主任”のソートンに半ば本気でぼやいた。
「…この無元造房お得意の、絆獣の脳に仕掛けた〔共鳴増幅器〕に特殊音波を通じて働き掛けるってやり方は、今でこそ次善の操獣法だけど、今回みたいな特級の失態が続くようだといずれ“本式”に昇格しちまうんじゃないだろうかね?
…って以前から危機感に駆られてたんだけど、いよいよ不安が現実になっちまってますます失業の恐怖に怯えてる今日この頃だよ…」
「…おそらくそのような事態には至らないでしょう。
何故ならば操獣師抜きで駆動する絆獣など、天響神の定められし原理原則から逸脱しているどころか、そもそも存在する事を許されてもおらぬからです…。
第一、無元造房とてこの〈唱動法〉では、聖幻晶を通じて文字通り絆獣と一体化する特級操獣師の〈融魂法〉の足元にも及ばぬ“稼働実績”しか挙げられておらぬのですから…、
無論、これからもこの方向で研究は続けていく予定ではありますが、貴女方に追いつくには気が遠くなるほどの時間が必要だろうと覚悟しておりますよ…」
落ち着いたグレーの作業用ジャンプスーツにほっそりとした小柄な身を包んだ、肩まで届く艶やかな銀髪の美青年は苦笑しつつ応じる。
「…だといいがね…。
まあ、今日のところはアンタの言葉を信じるよ…。
…ところで、我らが萩邑りさらは一体何をやってらっしゃるのか、随分遅いじゃないか…?
さっきから聖幻晶で何度呼びかけても返事もないし…、
まさか、これから出動って時に聖幻晶を外すなんて考えられんし、ね…。
…アンタに訊くのもお門違いで気が引けるけど、主任殿はどう思われるかね?」
いきなり難題を振られたソートンも困惑の表情で首を傾げる。
「それはおかしいですね…、
聖団全体を見渡しても常に皆の手本となるほどの責任感をもって任務に当たるリサラとの連絡が取れぬとは…?
そもそも、彼女が隊長と連れ立って現れなかった時点で奇異な感じは受けていたのですが…」
眉間に皺を寄せた険しい表情で夏月が応える。
「…あたしも迂闊だったよ…。
軸塔の昇降機を降りた所にバジャドクの侍女とやらが待ち構えてて、ジジ…いや、教率者直々の激励とやらを萩邑に贈りたいとか吐かしたもんで、アイツ一人を行かせたんだが、どうやらとんでもない罠だったと見える…!」
ギリッと奥歯を噛んだ殺戮姫は、一縷の望みを賭けてC-キャップを呼び出した。
「…ああ、道子かい、
雅桃はどうしてる…?
…ふふん、なるほど、
“教界随一の精神医”に安定剤と睡眠薬を処方されてぐっすり眠ってるってか…。
となると、おそらく閃煌紫燕も、もうこのミッションじゃ使い物にならないね…。
…ああ、分かってるって!
あくまで“不幸で不可避な犯罪的アクシデント”ってヤツに見舞われたんであって、操獣師に何の落ち度もないって事は天地神明に誓って断言出来るっての…。
…ところで、そっちに萩邑から連絡は無かったかい?
いや、実はアイツと一階で別れてそれっきりになってるんだよ…、
何でも、教率者がアイツだけにメッセージがあるってんで、召使いの女に引っぱってかれちまってね…。
…やっぱり、アンタもそう思うかい?
そうとも、会議室での一件といい、
起きる事全てがあまりにも異常だよ!
…こうなると、チラワンらの事も心配になって来たわな…え?
連中と直接連絡を取ってみたって…?
さすがはC-キャップだね、それで?
応答無し…まあ、それはルドストンからすりゃ患者な訳だから聖幻晶を取り上げてる可能性はあるわな…だけど…、
何ッ!?
…医療機関側が3人の安否確認に応じないだって…?
そりゃどう考えてもおかしいだろ!?
…了解、これで確信したよ!
何かとんでもない陰謀がこの教界のド真ん中で企まれてるって事をね!!
…断言は出来んけど、おそらく萩邑とチラワン達は、鏡の教聖と奴に屈した統衞軍に人質カードとして使われる可能性が高いね…。
わっ、ビックリした!
…いきなり大声挙げるんじゃないよ、
心臓が止まるかと思ったじゃんか…。
ああ、そうさな、
確かにまだ、そうと決まった訳じゃないさ…、
でもね、道子、
次はアンタらの番かもしれないんだよ!?
ああ、もちろん雅桃もいるし、
今すぐ客室を動けないのは分かってる…でもね…、
え?
イザとなったらアレを出してやるって…!?
気持ちは分かるけど、くれぐれも早まるんじゃないよ?
その時は絶対、ソートン大先生にお伺いを立ててから、だからね!?
…まあ取りあえず戸締りだけは厳重に、ね。
じゃ、一旦切るからね!」
殺戮姫は押さえつけていた額の六方手裏剣型聖幻晶から右手を離し、虚空を見据えたまま太い溜め息を吐いた。
「…こりゃあたしも、
呑気に出動なんかしてる場合じゃないかもしれないね…。
実はブリーフィングの前からイヤな予感がずーっと続いてるんだ…」
「…イヤな予感、ですか?」
主任技師と目を合わせる事なく、夏月は頷いた。
「…そう、
玉朧が言っていた“化け蛸”、
アレがいよいよ現れそうな胸騒ぎがしてしょうがないんだよ…。
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