凶幻獣戦域ラージャーラ

幾橋テツミ

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第2章 魔人どもの野望

回想の狂戦地ルドストン⑳

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 3人が叫んだ謎の言葉は一言一句理解不能であったが、その内容のおどろおどろしさだけは萩邑りさらの脳内に深く突き刺さった。

「…一体、何を言ってるのよ…?

 鏡の教聖がエグメドよりも偉大とか依巫よりましがどうだとか…、

 あなた達、本当に気は確かなの…?」

「ええ、もちろん…!

 これまでの人生で、現在いまが一番正気…というより、それ以前の自分がこの上もなく狂っていたという方が正確な言い方になるわね」

 文字通り息のかかる至近距離で3人に囲まれたりさらが上げた震え声に、正面に立つ鳶色に染めた髪を後ろで束ね、腰まで垂らしたチラワン=シーソンポップが真剣な表情で応じ、

「あたしもそうよ、

 センセイ●●●●・ハギムラ…」

 と、左後ろに控える女レンジャーの如き若草色の短髪のローネ=ウルリッヒが続き、

「あたいも!

 もちろん、サーフィンにかぶれてた青春の日々が全くのナンセンスだったなんて認めるのはとても辛かったけど、たった今味わっているこの高揚感に比べたら、やっぱり無意味だったなって、しみじみ思う今日この頃よ…」

 と、右後ろの黄蘗色のカーリーヘアのミリラニ=カリリが締めた。

「そんな…!

 …ホントにこんな言い方はしたくないけれど…、

 やっぱり、あなた達、病気よ…!」

 更にじわじわとにじり寄って来る同僚達にもはや身の危険すら感じつつも、美しき操獣師は彼女らの目付きにある既視感を覚えていた。

『何て事…!

 この子達、

 寝室の雅桃と同じ目をしてる●●●●●●●●●●●●●…!?』

 まさしく、あたかも何物かに憑かれたがの如く、一途と呼ぶにはあまりにも禍々しい潤んた視線を放つ3人は、明らかに欲情●●しているのだ…!

『他ならぬこの私…、

 同志にして同性である、

 萩邑りさらに…!?』

 この悪夢の如き現実に目眩めまいを覚え、思わずよろめくと同時に後方から鼻孔と口許を白い布で塞がれた次の刹那、彼女の意識はあたかも天響神エグメドの恩寵の如く速やかに地獄の客室から遠ざかって行った…。

 だが、残された美しき肉体はしっかりと3体の魔物に捕らえられ、膝下をミリラニに、腰部を麻酔薬を浸したハンカチーフを尻ポケットに隠したローネに、そして胸元をチラワンに支えられ、鉄の寝台に美術品のように慇懃に横たえられてしまったのであった。

 …そして覗き込む6個の邪眼は、奥底に燃える肉欲のほむらの勢いを一段とさかんにしたようである…。

「ああ…、

 偉大なる教聖が受躰するまでのほんの僅かな時間だけれど、遂に“絆獣聖団の美神ヴィーナス”が私達のものになったのね…!」

 塞ぎがちだった日常が嘘の様に陽気に悦に入るチラワンに、これも“陰キャ”の代表格であったパンク娘・ローネも快活に同調する。

「ホントに…!

 確かに六天巫蝶のアリシアも綺麗だけど、役目ロール恋人スペンサーを鼻に掛けてウザいっちゃないわ…。

 その点リサラは日本人イエローだけど奇蹟みたいに色白で美しいし(白人の血が混じっているのかしら?)、性格もいいしね…、

 あの蓮っ葉な金髪女ブロンドなんかより、よっぽどその称号にふさわしいわよ!」

「ねえ…、

 とても《亘光刻》まで待ちきれないわ、

 ほんのちょっぴりでいいから、ここで味見●●しちゃいましょうよ…。

 あたい、もう我慢出来ない…、

 ✕✕✕もとっくにビショビショになっちゃってるし、これ以上お預けを食ったら、気が狂いそうなのよ…!」

 目を血走らせ、鼻息も荒く訴えるミリラニに、年長者2人は不気味な含み笑いと共に、うわべだけの非難めいた視線を送った。

「けけけ…、

 アンタってホントに食いしん坊…、

 というか卑しん坊ねえ…!

 あの恐ろしい教軍超兵に、欲望は〈受躰の儀〉まで溜めに溜めて、そこで一気に爆発させよってあれほどきつく命じられたっていうのに…。

 つまみ食い●●●●●がバレたら、アンタだけじゃなくてあたし達までどんな目に遭わされるか…」

 だが、もはや一匹の飢えた牝の野獣と化したハワイ娘は、熾烈な肉欲を満たす為にはいかなる犠牲をも辞さぬ覚悟を固めているようであった。

「ふん、龍坊主が何さ!

 受躰をスムーズに進めるため、リサラの肌を思う存分、貪っていいっていう許可は、誰あろう偉大なる教聖から賜ってる事を忘れたの!?

 …それが早まれば早まるほど、あたい達が心を込めれば込めるほど儀式は上手くいくはずだし、

 めでたくリサラが教聖になれば●●●●●●●●●●、その“功績”を直接訴えて今後の身分も安泰って事になるんじゃないの!?」

 この南国人らしい楽観的な見通しは、だが彼女と同じ煩悶に心を震わせるチラワンとローネに危険なトリガーの役割を果たした。

「…確かに言われてみれば、そうかも知れないわね…!

 実際儀式が終わってみれば、他ならぬリサラと馴染みのあたし達●●●●●●●●●●●●こそが、栄えある教軍の最高幹部になっちゃってるのかも…!?」

 チラワンが描いたバラ色の予想図を、生来の妄想家であるローネが更にドギツく彩色する。

「なるほど、きっとそうだわ!

 どうしよう、そうなるとこの世界ラージャーラは実質、あたし達のモノって事になるじゃない!?

 文字通り、我々の思うがままに全てを動かせるって訳なのね!

 ああ、そうなったら、一体何をして遊ぼうかな…?

 …ってか、計画プランは最初っから決まってるんだけどね、

 あたし、地上で果たせなかった(というか、それ以前に転移●●してしまった)、史上最高のパンクバンドを結成してその“フロントウーマン”になるんだ!」

「あーら、

 そもそも日常そのものが明日をも知れぬ、殺伐極まる戦乱状態のラージャーラの人々に、今さらぬるい●●●パンクミュージックなんて果たして需要があるのかしら?

 彼らの荒野の様に枯れ果てた心が渇望しているのは、

 世界最高の舞踏家である私●●●●●●●●●●●●の、文字通り干天の慈雨の如き“女神の舞”だけの気がするんだけれどねえ…」

 持ち前の陰険な目付きに戻って睨み合う両者をよそに、文化的情熱●●●●●など露ほども持ち合わせぬ“本能崇拝者”である褐色の雌獣は白い戦闘服ジャンプスーツのファスナーをためらうことなく限界まで引き下ろし、わななく両手で掴んだ胸元辺りの特殊繊維で織り上げられた生地を思い切り左右に押し広げたのであった!

 その瞬間、最小限の蒼い照明が灯るだけの室内で、あたかも寝台上に発光体が出現したかの如き錯覺がはぐれ操獣師達●●●●●●●にもたらされた。

「……!

 セクシーすぎて目が潰れそう…!

 リサラってこんな姿で戦闘に臨んでたの…!?」

 チラワンの感嘆も無理はなかった。

 ジャンプスーツ自体も至高のボディラインを強調する絶妙なサイズ感で整えられていたが、その表皮●●の内側に隠されていたのは、しなやかな肢体に咲き誇る大輪の双華の如き豊満な美乳を包み込む艷やかな光沢を放つ白いヌーブラと、鋭角的なV字型の前部分●●●がブラと同じ素材で仕上げられた、“究極のTバック”ともいうべき〈Gストリングス〉のみであったのである…。

「ああ、たまらない!

 もうとても我慢出来ないわ!!」

「私もよ!」

「抜け駆けはズルいわ!

 でも、いいこと!?

 決して、だけは侵してはダメよ!

 そこに接吻くちづけ出来るのは、世界広しといえども偉大なる教聖ただ御一人だけなのだから!!」

 猛り立つ3匹の餓鬼が美肉にむしゃぶり付こうとしたまさにその瞬間…、

「!?」

 頭上に覆い被さる凶影を察知したのは操獣師としての力量で後輩達を圧倒するチラワン=シーソンポップのみであったが、それには全く意味が無かった…何故ならば毒牙が美神の肌を汚す寸前に、3人の襟首はゾッとする感触の、恐るべき超怪力を秘めた爬虫類の指にそっと掴まれていた●●●●●●●●●●●●●●●からである!

「…聖なる儀式に用いる祭壇建立の進捗状況を確認するため、

 そして我らの存在●●●●●を、操獣師屈指の鋭敏な感覚を有するという依巫に万一、察知されぬために敢えて席を外していれば、案の定だ…」

 歯軋りするチラワンとローネを拘束した陀幽巴の呟きに、無念の咆哮を発するミリラニを押さえた糜幽巴が面白そうに応じる。

「まあまあ、

 固い事は言いっこなし。

 実際、コイツらの役目は依巫に極限まで欲情してその全身を儀式完了まで愛撫し続ける事なんだから問題はないでしょ…。

 でもまあ、聖なる肉体を今から涎でベトベトにされるのも敵わんから、せめて明日の明け方くらいまでは眠っといて貰おうよ…」

 軽く頷き合った2匹の龍坊主が3人の意識を奪うには、頚筋をつまんだ指先にほんの僅かな力を加えるのみで事足りたのであった…。



 

 
 

 

 



 
 


  

 



 

 
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