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第2章 魔人どもの野望
回想の狂戦地ルドストン⑪
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特守戦闘車輌内に、人間の尋常な声帯から発せられたものとは明らかに異なる、野獣の咆哮めいた不気味な笑声が渦巻いていた。
神牙教軍における“陸海空”の区分においても、こと格闘戦に限っては最強とされる“海の教軍超兵”龍坊主──そんな猛者連の中で最上位に立つ幽巴4兄弟が笑う時、それは何者かに対する嘲笑以外にありえなかった。
「…いや、楽しませてもらった。
今回の作戦においては敵味方入り乱れての混戦が予想されるゆえ、誰が此奴らにぶつかるかは分からぬが、願わくば是非とも手合わせ願いたいものだな」
長兄・陀幽巴の物言いは些か真剣味に欠けていたが、次兄・鑼幽巴の口調は違っていた──つまり、のっぴきならぬ殺気が籠もっていたのである。
「5年前、現在は玉朧拳師とか名乗る錬装者と20セスタ(3時間)にも及ぶ死闘の末、無念の死を遂げた我らが師…どうやらこの“蒼き虎”とか称されるゴウガなる錬装者はその直弟子らしいが、技の斬れにおいてはかなり見劣りするようだな…」
武技の探究心において他の兄弟の追随を許さず、首領・鏡の教聖からも“幽巴一族最強”の評価を得ている彼の分析に異を唱える者はいない──尤も、教界転覆の刺客として死地に赴く師が遺していた、当時の絆獣聖団が擁していた錬装者の記録映像などを発掘し、繙いた“好事家”が彼しかいなかったのも事実であるが…。
「剛駕崇景はオレがもらう。
師の仇の眷属という意味を除いても、何より痛ぶり甲斐がありそうだからな…」
最強者は同時に最も血に飢えた“最凶者”でもあるのであった。
「ええ?
そりゃ、ズルいや。
ボクもコイツと遊びたいよ!
だって、楽しそうじゃん。
全ての動きがオレよりスリーテンポ遅いから、面白いくらい拳も蹴りも当たるに決まってるもんね!
まあ、純粋に“素手”で錬装磁甲をぶっ壊せるのは、神牙教軍広しといえども地中を地底戦車並みに掘り進める幽巴兄弟ぐらいでしょ?
…ねえ、鑼兄、ボクが海底宮殿に行くまでソイツ取っといてよぉ…!」
末弟の懇願に、鑼幽巴はにべもなく首を横に振った。
「長幼の序を弁えよ、縻幽巴…!」
「…はぁい…」
自分とは明らかに(しかも意識的に)異なる末っ子の態度に、三男・巍幽巴は殺意を込めた野太い溜め息を漏らすが、待ってましたとばかりに縻幽巴は吠えた。
「まあ、仕方ないよねえ!
そもそも陀兄とボクはベウルセン、鑼兄と豚は海底宮殿って、行き先自体違うんだからさ!
でも、このゴウガって半端野郎はその程度の技倆じゃ、ワーズフがこさえた“即席暗殺者”にすら勝てないんじゃないの?
鑼兄にふさわしい相手はやっぱ、あのライネットだと思うなあ…」
…無言で身を乗り出し、左腕を左斜め前方に陣取る縻幽巴の頸に伸ばさんとする巍幽巴の肘を傍らの鑼幽巴が右掌でぽん、と軽く一叩きするや、兄弟一の巨漢は苦痛と狼狽の低い呻きを発し、僅差ながらも最も小柄な末弟の腿に匹敵する太さの鉄腕を茄子紺色のグローブの様な右手でさすりながら引っ込める。
「…お前がその自慢の怪力で絞め殺さねばならんのはあの大猿だ…。
それが分からんようでは、欠陥頭脳の持ち主は貴様の方だということになるぞ…。
…確かに、海底宮殿で待ち構える敵のうち、オレが真に意識しているのはライネットに違いない…。
今回の作戦中、凱鱗領に侵入した教軍超兵を殺せた教民は奴一人…!
愚かしくも錬装者に不覚を取ったのは6名か…。
だが、殺害数では彼奴がダントツだ。
“万能技術者”ロゼムスのアイデアでカスタムされたという超強力な戮弾電銃で仕留められた同胞は何と5名に上る…!
されど、いかに高性能銃を携えようが、狙撃手の腕がお粗末では何の意味もない、が…。
高速で動き回る#龍坊主__われわれの急所(髄魄)を正確に撃ち抜く奴の技術は敵ながら天晴れという他はない…!」
鑼幽巴の慨嘆に頷く陀幽巴だったが、ディラックに乗りこんでから初めて後部座席を振り向きつつ次男坊に問うた。
「ちょっと失念したが、龍坊主を殺った錬装者は誰と誰だ?」
唐突な質問に、〈事情通〉は淀みなく答えた。
「威巳斗、火圖鏤は[CBK]のレイモンド=スペンサー。
絽區武は[鉄槌士隊]のアティーリョ=モラレス。
真蛾門、辯怒阿は[霊拳旅団]の鄭 士京。
須呼宇は[バトルハッカーズ]のタリー=ロジャースだ。
当然のことながら、全員が各軍団のリーダー…つまり最強の戦士であり、
小癪にも、首級は全て素手によって挙げられた。
まあ尤も、拳や足甲、肘膝に刃めいた凶器を仕込んだ奴もいたようだが、あくまで“躰術の付属品”の域を出ぬものばかりだ…。
即ち、幽巴一族にとって、死んでも敗北が赦されぬ存在といえるだろうな」
「レイモンド=スペンサーにアティーリョ=モラレス…。
この2人はいわば“抹殺リストの常連”だけど、後の連中は新顔だね…」
首をひねる末弟の呟きに、鑼幽巴は意を得たりとばかりに頷く。
「教軍超兵の名を汚した罪亡ぼしか、今際の際に奴らがオレの〔闘示盤〕に送った映像から判断するに、現時点での総合力では及ばぬものの、いずれはスペンサーらに取って代わるほどのものを持っている…。
ハッキリ言って、ゴウガなどとはモノが違うぞ。
…特に若輩者ながら2体を屠ったチェンとやら、何やらケバケバしい鳥を象った磁甲を纏っておったが、事実、跳躍力においても、そして地上における俊敏さにおいても群を抜いておる。
もし相対することがあれば、縻幽巴とて決して気を抜けぬ強者だぞ…!」
「ふーん、そんな将来性溢れる新人が育ってるとは、絆獣聖団も隅に置けないじゃん…」
一瞬、鼻白んだものの、早速キャッチした“ツッコミどころ”を末弟は次兄にぶつけた。
「それより驚いたのが、威巳斗たちに〈記錄装置〉を取り付けて交戦状況を送らせたっていう鑼兄の偏執狂っぷりだよ…。
まあ、貴重なデータが取れた(後で見せてよ)らしいから結果オーライとしても、皆どんな気持ちだったろうねえ…。
彼らだって、弱いとはいえいっぱしの誇り高き教軍超兵なんだし…。
単に敵のデータを取るだけなら、装置を付けるのは狂魔酒鬼でもよかったんじゃないの?」
負けん気という一点においては教軍屈指の末弟が繰り出した精一杯の反論(屁理屈)を、“龍坊主最強の男”は言下に一蹴した。
「バカめ、そんなものが役に立つデータと言えるかッ!
巍幽巴に対する態度とは別に、縻幽巴の戦闘に対する姿勢には以前より思う所があったが、良い機会だから言わせてもらう。
我々は何をなすべく此世に生を受けたのだ?
“創造主”にして“絶対的真理”たる偉大なる教聖…そして属することを運命
られた誉れある教軍の勝利のためではないのか?
即ち、教軍超兵の行住坐臥の全てが教軍の究極の勝利に不可欠の準備…そして実践を義務付けられているのだ!
決して遊びではないのだ、
巍幽巴共々、よく肝に銘じておけッッ!!」
神牙教軍における“陸海空”の区分においても、こと格闘戦に限っては最強とされる“海の教軍超兵”龍坊主──そんな猛者連の中で最上位に立つ幽巴4兄弟が笑う時、それは何者かに対する嘲笑以外にありえなかった。
「…いや、楽しませてもらった。
今回の作戦においては敵味方入り乱れての混戦が予想されるゆえ、誰が此奴らにぶつかるかは分からぬが、願わくば是非とも手合わせ願いたいものだな」
長兄・陀幽巴の物言いは些か真剣味に欠けていたが、次兄・鑼幽巴の口調は違っていた──つまり、のっぴきならぬ殺気が籠もっていたのである。
「5年前、現在は玉朧拳師とか名乗る錬装者と20セスタ(3時間)にも及ぶ死闘の末、無念の死を遂げた我らが師…どうやらこの“蒼き虎”とか称されるゴウガなる錬装者はその直弟子らしいが、技の斬れにおいてはかなり見劣りするようだな…」
武技の探究心において他の兄弟の追随を許さず、首領・鏡の教聖からも“幽巴一族最強”の評価を得ている彼の分析に異を唱える者はいない──尤も、教界転覆の刺客として死地に赴く師が遺していた、当時の絆獣聖団が擁していた錬装者の記録映像などを発掘し、繙いた“好事家”が彼しかいなかったのも事実であるが…。
「剛駕崇景はオレがもらう。
師の仇の眷属という意味を除いても、何より痛ぶり甲斐がありそうだからな…」
最強者は同時に最も血に飢えた“最凶者”でもあるのであった。
「ええ?
そりゃ、ズルいや。
ボクもコイツと遊びたいよ!
だって、楽しそうじゃん。
全ての動きがオレよりスリーテンポ遅いから、面白いくらい拳も蹴りも当たるに決まってるもんね!
まあ、純粋に“素手”で錬装磁甲をぶっ壊せるのは、神牙教軍広しといえども地中を地底戦車並みに掘り進める幽巴兄弟ぐらいでしょ?
…ねえ、鑼兄、ボクが海底宮殿に行くまでソイツ取っといてよぉ…!」
末弟の懇願に、鑼幽巴はにべもなく首を横に振った。
「長幼の序を弁えよ、縻幽巴…!」
「…はぁい…」
自分とは明らかに(しかも意識的に)異なる末っ子の態度に、三男・巍幽巴は殺意を込めた野太い溜め息を漏らすが、待ってましたとばかりに縻幽巴は吠えた。
「まあ、仕方ないよねえ!
そもそも陀兄とボクはベウルセン、鑼兄と豚は海底宮殿って、行き先自体違うんだからさ!
でも、このゴウガって半端野郎はその程度の技倆じゃ、ワーズフがこさえた“即席暗殺者”にすら勝てないんじゃないの?
鑼兄にふさわしい相手はやっぱ、あのライネットだと思うなあ…」
…無言で身を乗り出し、左腕を左斜め前方に陣取る縻幽巴の頸に伸ばさんとする巍幽巴の肘を傍らの鑼幽巴が右掌でぽん、と軽く一叩きするや、兄弟一の巨漢は苦痛と狼狽の低い呻きを発し、僅差ながらも最も小柄な末弟の腿に匹敵する太さの鉄腕を茄子紺色のグローブの様な右手でさすりながら引っ込める。
「…お前がその自慢の怪力で絞め殺さねばならんのはあの大猿だ…。
それが分からんようでは、欠陥頭脳の持ち主は貴様の方だということになるぞ…。
…確かに、海底宮殿で待ち構える敵のうち、オレが真に意識しているのはライネットに違いない…。
今回の作戦中、凱鱗領に侵入した教軍超兵を殺せた教民は奴一人…!
愚かしくも錬装者に不覚を取ったのは6名か…。
だが、殺害数では彼奴がダントツだ。
“万能技術者”ロゼムスのアイデアでカスタムされたという超強力な戮弾電銃で仕留められた同胞は何と5名に上る…!
されど、いかに高性能銃を携えようが、狙撃手の腕がお粗末では何の意味もない、が…。
高速で動き回る#龍坊主__われわれの急所(髄魄)を正確に撃ち抜く奴の技術は敵ながら天晴れという他はない…!」
鑼幽巴の慨嘆に頷く陀幽巴だったが、ディラックに乗りこんでから初めて後部座席を振り向きつつ次男坊に問うた。
「ちょっと失念したが、龍坊主を殺った錬装者は誰と誰だ?」
唐突な質問に、〈事情通〉は淀みなく答えた。
「威巳斗、火圖鏤は[CBK]のレイモンド=スペンサー。
絽區武は[鉄槌士隊]のアティーリョ=モラレス。
真蛾門、辯怒阿は[霊拳旅団]の鄭 士京。
須呼宇は[バトルハッカーズ]のタリー=ロジャースだ。
当然のことながら、全員が各軍団のリーダー…つまり最強の戦士であり、
小癪にも、首級は全て素手によって挙げられた。
まあ尤も、拳や足甲、肘膝に刃めいた凶器を仕込んだ奴もいたようだが、あくまで“躰術の付属品”の域を出ぬものばかりだ…。
即ち、幽巴一族にとって、死んでも敗北が赦されぬ存在といえるだろうな」
「レイモンド=スペンサーにアティーリョ=モラレス…。
この2人はいわば“抹殺リストの常連”だけど、後の連中は新顔だね…」
首をひねる末弟の呟きに、鑼幽巴は意を得たりとばかりに頷く。
「教軍超兵の名を汚した罪亡ぼしか、今際の際に奴らがオレの〔闘示盤〕に送った映像から判断するに、現時点での総合力では及ばぬものの、いずれはスペンサーらに取って代わるほどのものを持っている…。
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負けん気という一点においては教軍屈指の末弟が繰り出した精一杯の反論(屁理屈)を、“龍坊主最強の男”は言下に一蹴した。
「バカめ、そんなものが役に立つデータと言えるかッ!
巍幽巴に対する態度とは別に、縻幽巴の戦闘に対する姿勢には以前より思う所があったが、良い機会だから言わせてもらう。
我々は何をなすべく此世に生を受けたのだ?
“創造主”にして“絶対的真理”たる偉大なる教聖…そして属することを運命
られた誉れある教軍の勝利のためではないのか?
即ち、教軍超兵の行住坐臥の全てが教軍の究極の勝利に不可欠の準備…そして実践を義務付けられているのだ!
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