凶幻獣戦域ラージャーラ

幾橋テツミ

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第2章 魔人どもの野望

回想の狂戦地ルドストン⑩

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 チェン 雅桃ヤータオは眠れなかった。

 あと5セスタ(45分)後に“第2次出撃”に向けて、“追撃発進”する15名のガートス部隊長を交えたブリーフィングが大会議室で行われることになっており、それまでは食後の休憩時間に充てられていたのである、が…。

 操獣師たちの宿となっているのは、水上移動都市ベウルセンの広大な楕円形の“大地”のほぼ中央部に建築された、教界の象徴である【ダグナ大灯台】に次ぐ高層建築物として凱鱗領教民の誇りと憧憬の代名詞とされる【煌輪塔ホテル】であり、その外観は名称にふさわしい壮麗なものであった。

 当初は教率者の強い意向で彼の公邸たる海底宮殿に寓居していた彼女たちであるが、重臣らとの親睦を名目に開かれた、教界史上未曾有の非常事態にあからさまに逆行するかのような、無意味なまでに豪奢なパーティーが10日を経過した時点で遂に堪忍袋の緒を切った総隊長が玉朧拳師を通じてバジャドクに強硬なる申し入れを行い、当初の予定通りベウルセンでの宿営が実現したのであった。

 もちろん、聖団側が該ホテルを指名●●するなどの“VIP待遇”を要求したものではなかったが、凱鱗領側の他教界に対する外聞への配慮の顕れでもあろうか、ともあれ妙齢の女性陣によって形成される操獣師たちにとっては住環境の快適さもさることながら待機帯スタンバイゾーンに控える絆獣へのアクセスも飛躍的に簡略化されることとなり、夏月の“英断”は改めて“伝説の殺戮姫”の威名を高める結果となった。

 ゆうに全長500レクト(約375m)、直径200レクト(150m)に達する〔軸塔〕に、1層につき全高40レクト(30m)、幅30レクト(約22.5m)のバームクーヘン状の客室が計10層にわたり積み重なっている。

 客室は1層が更に4等分されて1フロアにつき30室、合計120室用意されており、ホテル全体の総客室数は“軸塔最上部”に築かれた教率者専用室なども合わせると1220室にも及ぶ。

 設計を担当した教界最高の建築家独自の思想によって各層が独立したホテルとして捉えられており、10人の支配人マネージャーが独自の経営哲学と美学に則って観光戦争の覇を競っていた…。

 そしてホテルの全表面は〔特殊鏡甲硝子〕によって仕上げられており、日中は朝方から白昼にかけての天空よりも鮮やかなレモンイエローから、黄昏時から宵闇に繋ぐ豪奢な黄金色に至るまで表情豊かに変化するばかりか、1日のうち特定の時間帯には10層が異なる10色(しかも各色はランダムに刻々と変化する)を纏い、はたまた青なら10種類の青に彩られるという“マジックタイム”も設けられて見る者を愉しませていた。

 しかも各層は1日で正確に1回転するよう調整されており、宿泊客たちはラージャーラ最大の目地遥かな【アルサーラ海】をはじめとする、イリシャナ大陸きっての荘厳華麗な眺望を客室に居ながらにして存分に堪能出来るのであった。

 竹澤夏月総隊長率いる総勢17名の操獣師たちが“滞在”しているのは、“伝説の殺戮姫”が自らのラッキーナンバーから選択チョイスした第6層であり、同感覚●●●で選抜した6人の特級者ドゥルガーたちは特権として続き部屋スイートルームを宛てがわれていた。

 “部屋割”は純粋に年齢順で、6号室に陣取る夏月を筆頭に以下、チラワン・りさら・ローネ・ミリラニ・雅桃と続くが、ミッションにおける生命線の一つである通信面における責任者として夏月隊においては別格視される延吉道子は、“超特例”として絆獣聖団の鬼女王に先んじる5号室のキーを託されているのであった。

 薄いピンク色の簡易パジャマを身に着け、横たわっていると誇張抜きに空中にそっと浮かべてくれそうな弾力で全身を慰撫してくれるクッション敷布団(皆は“魔法の絨毯”と呼んでいたが、彼女は密かに“女神の掌”と名付けていた)を転々としながら、極限まで高揚した緊張と興奮をただひたすら持て余していたのである…。

 だが所隔てた海底宮殿において、誰にも顧みられぬ孤独な行為によって一時いっとき、その解消を試みるしかなかった若き錬装者とは異なり、可憐なる操獣師の胸中を占めているのはわななくような期待の念であった…。

「…雅桃、起きてる?」

 仮眠の床に就いてからも、片時も額から外すことのなかった貝紫色パープルしずく型聖幻晶から言語中枢に直接伝わる、待ち焦がれていた美しい声に跳ね起きた最年少特級操獣師は、寝台上から一步も動かずして快適な滞在生活を可能とする掌サイズの鱗型リモコンのボタンをもどかし気に突いて扉の電子錠を解除し、勢いよくベッドから飛び降りて入口に駆け出す。

 ロックを解除された自動扉から現れたのは、胸元の露出度がやや多めであるものの、ほぼ後輩と同じデザインの白いパジャマ姿の萩邑りさらであった。

 シャワー直後らしく、マロンブラウンに染めたショートボブは普段のように入念にセットされておらず手櫛でラフに撫で付けられているのみだが、その無防備さがまた、たまらない色気を醸し出している…。

 そして湯上がりの火照った肉体からほのかに薫る、ドゥルガーたちに目下大流行中の、【ティリールカ愛華領】謹製の高級香水〔エキュレマ〕の天上的な芳香…。

 雅桃自身もりさらから一瓶プレゼントされていたが、この香りにふさわしいのはただ一人しかいないとの想いから、未だに開栓せずにいる…。

「ごめんね、ちょっと意識調整のために〈ゾディアック・メディテーション〉やってたらつい遅くなっちゃって…」

 この操獣師にとって必須カリキュラムであるメンタルトレーニングは、まず自身の黄道十二帯における星座が象るシンボルに成り切り●●●●、そこから徐々に己が駆る絆獣へと变化へんげさせてゆくというものだが、操獣師にとっての生命線ともいうべき“集中力&イメージ力”が実戦時レベル●●●●●●まで高められていない限り何の意味もなく、特に瞑想の“肝”である星座から絆獣への変化がすこぶる高難度なため、特級操獣師ドゥルガーであっても完璧にこなし切れる者は少ないとされる。

 雅桃はりさらが化身した“美しい純白の水瓶”に細かな亀裂が生じ、そこからあたかも卵から孵化するように麗翼光鵬レオーランが華麗に出現する様を想像し陶然となったが、同時にどうしても連想してしまうのは“天秤座”や“射手座”の操獣師は一体どうすればいいのかという同情●●と可笑しさである…特に前者など、殆ど不可能ではないか?

「あっ、コイツ嗤ったな…!

 人の苦労も知らないで!」

 掴みかかってきた美しき先輩の腕の中にむしろ進んで飛び込んだ17歳は、そのまま思い切り相手の豊かな胸に顔を埋めながら両腕を背中に回してしっかりとしがみつく。

「……」

 両者には10cm近い身長差があるため、鄭 雅桃は楽な姿勢で“至福の抱擁”を堪能出来たが、容赦なく経過する時間を怖れ、断腸の思いでりさらの胸の谷間から顔を離した。

 その白い両頬を更に白いりさらの両掌が優しく包み、そして静かに上向かせる。

 見つめ合う4つの美しき瞳。

 年少者の双眸には、いつしか真珠のようななみだが珠を結んでいた。

「…あたし、ホントは分かってるんです…

 先輩はそうじゃない●●●●●●ってことが…

 …あたしが苦しんでいるのを見かねて、救いの手を差し延べてくれてるんだってことが…。

 でも、あたし、覚悟はしてます…

 いつか、先輩の前に“素敵な男性ひと”がきっと現れるって…。

 その時は…もし、その時が来たら…あたし、潔く身を退くつもり…」

 絞り出された震え声がここで途絶え、雅桃の涙腺は遂に崩壊し、美貌を歪めながらの咽び泣きがはじまる。

 りさらはそんな彼女の顔を受け止めたまま一瞬も目を逸らすことはなかったが、やがて慈しみの口調で呼びかけた。

「雅桃、自分を責めないで…。

 あなたは何も悪くないわ…

 全ては私の意志で、自ら望んでしたことなのだから…!」

 感極まった美しき操獣師は、後輩の瞳から溢れ続ける涙を止めるため、左右の瞼に深く口吻くちづけした後、艷やかな黒髪に指を絡ませながら力を込めて抱き寄せる。

「…メディテーションが思いのほか上手く行ってね、今の私はエネルギーが漲っているの…。

 そして、今のあなたはしぼんじゃってる…。

 だから、いつもの元気な雅桃に戻ってもらうために、力を与えさせて●●●●●●●…!」

 歔欷し続ける妹分の両肩に手を置いて自身から優しく引き離したりさらは、ためらうことなくパジャマのボタンを外してはらり●●●と脱ぎ捨て、続けて優雅ながらも素早い仕草でパンツ部分から長い両脚を抜き去る。

「……!」

 全裸の美神が出現した…!

 美しき操獣師が身に付けているのは、額に輝く八角形の白い聖幻晶と、胸元に光る“地上時代”からのお守りタリスマン
という、萩の花を瀟洒に図案化した白金プラチナのペンダントのみであった…。

 …しかも、陰毛が一本残らず剃り落とされているためか、その美しさはより人間離れしたものとなっているではないか…。
 
 一瞬、その完璧な肉体に見惚れた鄭 雅桃もまた慌てて脱衣しようとするが、白い女神は強く抱き締めることでそれを押し留めた。

「…緊急ブリーフィングまで時間がないわ。

 “授乳”だけに絞りましょう、

 いいわね?」

「…はい。

 宜しくお願いします…!」

 自由となった雅桃は、美神の胸の谷間に深く顔を埋めて純白の肌の温もりと香りを心ゆくまで味わった後、屹立する鴇色の乳首を含み、強く吸いしゃぶりたい衝動を文字通り涙を呑んで断念し、ゆっくりと上体を屈めてゆく…。

 だが、下がってゆくその唇が女神の肌から離されることは一瞬たりとてなかった。

 美しき操獣師の両手が完全にひざまずいた後輩の両手を流線美の極致たる自身の臀部に導いてそこに固定させた後、“ヴィーナスの丘”に密着する頭部に愛おし気に置かれる。

 女神の泉は既に沸き立ち、聖なる蜜は滴り落ちんばかりだった。


『…これを飲めば私は無敵だ…!』

 果てなき渇きを癒やすべく、懸命に伸ばされた鄭 雅桃の舌が秘裂に深く突き立てられた瞬間、かつて誰にも聴かせたことのない法悦エクスタシーの叫びを放った萩邑りさらは、あたかも“生命すべて”を愛する少女に与えんとするかの様に、しなやかな裸身を大きくのけ反らせた…。


 

 
 


 







 

 



 



 

 

 


 



 



 

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