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第2章 魔人どもの野望
モラレス、“情事”のあとで…
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白昼には鮮やかなレモンイエローの色彩を帯びるラージャーラの天空が、平時には教民たちを瞑想的な気分に誘う琥珀色に陰り始めた黄昏時、【玄麗館】の正面玄関の扉を開いて現れた、魁偉な髑髏の貌を持つ砲金色の錬装磁甲に身を包み、右肩に豪奢な布で包まれた狂魔酒鬼の骸を担いだアティーリョ=モラレスを出迎えたのは、これも深紅に輝く騎士の甲冑そのものの錬装姿となった“永遠の好敵手”レイモンド=スペンサーただ一人であった。
「やあ…CBK総帥自らのお出迎えとは痛み入る…。
と同時に、錬装者の存亡を賭した遠征計画に多大の遅延を招いてしまった事実は一派の長として拭い難い過失であり、相当の制裁を課されることは覚悟している…。
──本当に申し訳なかった」
悄然と頭を垂れる鉄槌士隊々長を前に鋼の躰を小揺るぎさせたスペンサーはとりあえず同志を気遣うしかなかった。
「いや、別にそれはいいさ…。
君も言っていたように、善良なる教民が侵略者の脅威に晒されていたとあれば絆獣聖団員として看過できないのは当然のことだ…。
尤も、この館の主がそれに該当するかは意見の分かれるところだろうが…。
だがどうやら、誇り高き大女優は我々の保護下に入ることを拒んだようだな…」
「ああ、見上げた根性だよ…。
とにかく彼女に関する限り、我々に出来ることは館から速やかに退散すること以外、何もないようだ」
どこか吹っ切れたような盟友の物言いに、何かを感得した最強錬装者もこれ以上の詮索は無用と覚った。
「──了解した。
問題の屍の処置についても既に教界側と話はついている。
示し合わせた岬の突端地点に安置すればよいということだった。
勝手ながら聖団の都合で、最強水棲絆獣との合流点付近に指定させてもらったよ…。
悪いが、そこまでは鉄槌士隊のデルタスライダーで搬送して貰えるかな?」
「もちろんだとも。
心から礼を言わせてもらうよ。
重ね重ね、お手間をかけさせて済まなかった…この埋め合わせは必ずする。
それと…これだけは言わせてくれ」
次の瞬間、髑髏戦士の機眼が妖気漂う紫から赫怒の証たる真紅に変化したのをスペンサーは認めた。
「レイ、奴だけは…
──摩麾螺だけはオレが殺るぜ…!」
…表面上はいかに混乱を極めているように見えようとも、この戦乱次元を根本的な部分で統べている全知全能の“真の絶対者”天響神エグメドに全存在を絡め取られ、不本意ながらその下僕ともいうべき存在として、そして何よりも自身が直面した数奇なる運命を克服するために戦ってきた絆獣聖団員アティーリョ=モラレスにとって、純粋に神牙教軍の特定の存在に対しこれほどまでの怒りと殺意に血を滾らせるのは3年余に及ぶ異世界生活で始めてのことであった。
この異様なまでの気魄は、当然のことながら鉄槌士隊々長を“生涯の戦友”として認め、その人格を熟知するCBK総帥にも強烈に伝わった。
「──いいだろう。
だが、目下の所、奴は錬装者にとって最大の“賞金首”だ。
軍団の威信を賭け、狙っている者は多いはず…。
私に関する限り“権利”を譲るに吝かではないが、あの死霊島の広大な荒野でまず摩麾螺に遭遇すること自体、大いに運が作用しそうだな」
「大丈夫さ。
オレは“引き寄せ”には自信がある。
尤も、残念なことに金運・異性運はからっきしだが…。
これまでの人生で、喧嘩相手だけはうんざりするほどゴツい奴ばかり引き当ててきたからな…!」
…錬装者たちの頭上に、ガンメタとクリムゾンレッドに光る、正三角形の巨大な双つの機影が覆い被さり、それはやがて無音の降下を開始した…。
だが、アティーリョ=モラレスはそれを見上げることなく、もう一度、目に焼き付けておくかのように壮麗な漆黒の館を振り返る。
ここでの鮮烈な体験が、今後の彼の運命を左右するほどのものであったことは疑いようもなかった。
『──ルターナよ、オレは必ず帰って来る。
その時、君は望み通り、【聖児】とやらを身籠っているかもしれない…。
だが、それでも構わない。
生還した時、オレは必ず君に愛を打ち明ける!
その結果、いかなる拒絶に遭おうとも、この永遠に消えない焔のような想いをもって必ず乗り越えて見せるぜ…!!』
「やあ…CBK総帥自らのお出迎えとは痛み入る…。
と同時に、錬装者の存亡を賭した遠征計画に多大の遅延を招いてしまった事実は一派の長として拭い難い過失であり、相当の制裁を課されることは覚悟している…。
──本当に申し訳なかった」
悄然と頭を垂れる鉄槌士隊々長を前に鋼の躰を小揺るぎさせたスペンサーはとりあえず同志を気遣うしかなかった。
「いや、別にそれはいいさ…。
君も言っていたように、善良なる教民が侵略者の脅威に晒されていたとあれば絆獣聖団員として看過できないのは当然のことだ…。
尤も、この館の主がそれに該当するかは意見の分かれるところだろうが…。
だがどうやら、誇り高き大女優は我々の保護下に入ることを拒んだようだな…」
「ああ、見上げた根性だよ…。
とにかく彼女に関する限り、我々に出来ることは館から速やかに退散すること以外、何もないようだ」
どこか吹っ切れたような盟友の物言いに、何かを感得した最強錬装者もこれ以上の詮索は無用と覚った。
「──了解した。
問題の屍の処置についても既に教界側と話はついている。
示し合わせた岬の突端地点に安置すればよいということだった。
勝手ながら聖団の都合で、最強水棲絆獣との合流点付近に指定させてもらったよ…。
悪いが、そこまでは鉄槌士隊のデルタスライダーで搬送して貰えるかな?」
「もちろんだとも。
心から礼を言わせてもらうよ。
重ね重ね、お手間をかけさせて済まなかった…この埋め合わせは必ずする。
それと…これだけは言わせてくれ」
次の瞬間、髑髏戦士の機眼が妖気漂う紫から赫怒の証たる真紅に変化したのをスペンサーは認めた。
「レイ、奴だけは…
──摩麾螺だけはオレが殺るぜ…!」
…表面上はいかに混乱を極めているように見えようとも、この戦乱次元を根本的な部分で統べている全知全能の“真の絶対者”天響神エグメドに全存在を絡め取られ、不本意ながらその下僕ともいうべき存在として、そして何よりも自身が直面した数奇なる運命を克服するために戦ってきた絆獣聖団員アティーリョ=モラレスにとって、純粋に神牙教軍の特定の存在に対しこれほどまでの怒りと殺意に血を滾らせるのは3年余に及ぶ異世界生活で始めてのことであった。
この異様なまでの気魄は、当然のことながら鉄槌士隊々長を“生涯の戦友”として認め、その人格を熟知するCBK総帥にも強烈に伝わった。
「──いいだろう。
だが、目下の所、奴は錬装者にとって最大の“賞金首”だ。
軍団の威信を賭け、狙っている者は多いはず…。
私に関する限り“権利”を譲るに吝かではないが、あの死霊島の広大な荒野でまず摩麾螺に遭遇すること自体、大いに運が作用しそうだな」
「大丈夫さ。
オレは“引き寄せ”には自信がある。
尤も、残念なことに金運・異性運はからっきしだが…。
これまでの人生で、喧嘩相手だけはうんざりするほどゴツい奴ばかり引き当ててきたからな…!」
…錬装者たちの頭上に、ガンメタとクリムゾンレッドに光る、正三角形の巨大な双つの機影が覆い被さり、それはやがて無音の降下を開始した…。
だが、アティーリョ=モラレスはそれを見上げることなく、もう一度、目に焼き付けておくかのように壮麗な漆黒の館を振り返る。
ここでの鮮烈な体験が、今後の彼の運命を左右するほどのものであったことは疑いようもなかった。
『──ルターナよ、オレは必ず帰って来る。
その時、君は望み通り、【聖児】とやらを身籠っているかもしれない…。
だが、それでも構わない。
生還した時、オレは必ず君に愛を打ち明ける!
その結果、いかなる拒絶に遭おうとも、この永遠に消えない焔のような想いをもって必ず乗り越えて見せるぜ…!!』
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