凶幻獣戦域ラージャーラ

幾橋テツミ

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第2章 魔人どもの野望

回想の狂戦地ルドストン②

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 女優の仮面をかなぐり捨て、“真の貌”である祭霊妃に成り切ったルターナの、臀部を意識的●●●に左右に振るう歩み方は、付きしたがう髑髏の戦士の劣情を限りなく挑発しているかのようであった。

『一体、この先に何が待っているというのか…或いはそこは、オレにとって此処ラージャーラに足を踏み入れて以来、最大最悪の戦場であるのかもしれん…だが、たとえ何が待っていようとも、その運命から逃げ出すことは出来ないのだ…!』

 あたかも自らが歩みを進めるのは絆獣聖団員としての“崇高なる使命”のためであり、かつてない精神の高揚は待ち受けているかもしれぬ陥穽ワナへの、強豪トップ錬装者としての“必勝を期しての武者震い”であるのだと自らに言い聞かせる●●●●●●鉄槌士隊々長であったが、幸いにも?砲金ガンメタのスカルマスクに覆われ、外部からは窺えぬその口許に“夜の獣”そのものの好色な笑みが刻まれているのはどうしたことだろう?

『ちきしょうめ…さっきからずーっと大人しくしろ、と言い聞かせてるってのに、またまた愚息●●が勇ましく勃ち上がってきやがったぜ…!

 だが、錬装者中No.1と密かに自負してるオレの危険察知能力が何ら反応せず、平和なことに股間コッチアンテナ●●●●の方が“起動”しちまってるということは、やはり(ヒャッホー!)というべきか、“望み通りの展開”しか待ってないということなんだろう、きっと…!』

 だが次の瞬間、そんなモラレスの不純な願望を砕くかのように、耳元の超高性能受信機から“最強の盟友にして永遠のライバル”レイモンド=スペンサーの沈痛な声が響いて来た。

「…アティ、無事か?君の部下から、凱鱗領に赴任していた全隊員が【デルタスライダー】で我々との合流地点ランデブーポイントに向かう途中、タシェル上空で狂魔酒鬼を発見した君が単身で“黒い館”とやらに乗り込んだものの、打ち合わせてあった3セスタを大幅に超過しても戻らないという報告を受けたのだが…どうなんだ?今この瞬間、無事●●なのか?」

 この“想定外の人物”の登場を受け、アティーリョ=モラレスの脳裏をはしった最初の思念は、

 …自分は何と、隊長思いの部下を持ったのか…!

 であった。

 事実、そうではないか?

 いかに“タイムリミット”を過ぎたところで、彼の身を案ずる部下たちが一斉に踏み込んだとしたならば、まず何よりも平素その実力に心服しきっているはずの隊長(彼を見舞っている危機の如何を問わず●●●●●●●●●)に恥をかかせることになるし、実際の所、多少の猶予●●を与えれば、あのアティーリョ=モラレスのことだ、独力で死中に活路を拓くかもしれぬではないか?

 それなのに、まるで人質になった要人を救出するかのごとく多人数で現場に踏み込んだなら、それは隊員じぶんたちが隊長モラレスの能力に“重大な疑念”を抱いている証左となるではないか!

 これは一歩判断をあやまてば、隊の今後に重大な蹉跌を生じさせる懸念事項である。

 ならば、(誰もが無傷に済ますには)最善策はこれ●●しかない…!

『…だからって、よりにもよって●●●●●●●スペンサーアイツに訴えるってのは…ちょっと違うんじゃねえか?デルガド副隊長よ?』

「おい、繰り返すが、ホントに生きてるのか?モラレス鉄槌士隊々長⁉

 健在なら、応答しろよ!我々に時間がないのは分かってるだろう⁉

 こんな所で足踏みしてるヒマなんかないんだぞ!」

 
『ったく、うっせーな…前から気になってたがコイツ、いっつもオレのいい場面●●●●を邪魔しようとしやがる…。

 そりゃ、お前はいいさ、あんなハクい●●●金髪美人アフロディーテの彼女(しかも超VIPの[六天巫蝶]様の一員ときた!)がいるんだし、〈砦〉に戻りゃいつでも待っててくれてるんだからな…!

 一刻も早くヤボ用を片付けて帰宅●●し、彼女と○○○○○たいのが本心だろうが?…だがこちとら、ラージャーラこっちに来てからおよそ3年半もの間日照り続き●●●●●だったんだぜ!

 一切の誇張抜きに砂を噛むような彷徨さまよいの果てにやっとありついたこのオアシス、何で素通り出来ようかよ!!』

 …この嘘偽りない“魂の叫び”は、以下のように変換●●されて最強錬装者に伝達された…。

「…レイ、心配かけてまことに申し訳ない…だが驚いだよ、まさか君から直々に“安否確認”されようとはね…。

 ところで、本当に済まないんだが、もう少し時間をくれないか?実は現在いま、ここの館の所有者から、海龍党に関する重大な情報提供を受けている最中なんだ…全く驚嘆すべき内容なんだよ、君もこの空間に居たなら心底たまげるぜ!

 ああ、その通り、忌まわしい仮面の死神に命を狙われるにはそれ相当の理由があった訳だ!

 え?ああ、狂魔酒鬼アイツならとっくに片付けたよ…文字通りの瞬殺だ。

 いやあ、お褒めに預かって恐縮だが、あんな雑魚、入隊ホヤホヤのエミリコだって片手で1分もかからんよ!

 ところで話は戻るが、その人物というのは、実は妙齢の女性なんだ…そう、全くのひょんな偶然から知りたくもない危険極まる侵略情報を耳にしてしまった訳だが、オレが間一髪間に合ったから良かったようなものの、あと15秒遅かったら…!

 だから察してくれたまえ、目下のところ、彼女はちょっとしたパニック状態にあるということを。…言いにくいことだが、君も“恋人アリシア”に置き換えてみたら胸が張り裂ける思いがするんじゃないか?

 どうか心を向けてあげてほしい、毒液に等しい不潔なよだれと、毒ガス並みに人体に有害な体臭を撒き散らしながら、しかも物騒な刃物を片手に襲い掛かってくる蛮人の幻影に、これからの長い年月、ずっと付きまとわれる彼女の不幸を…。

 場合によっては、このまま彼女を保護し、教率者バジャドク直属の優秀な医師団に委ねたいとすら思っているんだ…何故なら、罪もない教民の心の安寧に
寄与することは我々絆獣聖団員の根本的な責務だからだ…。

 なあ、レイ、そうだろう?

 君ならきっと、同意してくれるよな?

 …つまり、そんな訳で、合流地点そちらに向かうのはかなり時間がかかりそうなんだ…」

 この“魂の説得”が功を奏したか、CBK総帥はあっさりと今暫くの猶予を与えてくれた。

「…分かったよ。そういうことならば仕方がない。

 だが、なるべく早く切り上げてくれ。

 全く、一時はどうなることかと思ったぜ…!

 成長著しいタカカゲに続き、あろうことか君まで欠いてあの危地メッズに乗り込まなきゃならんのかとね…冗談抜きに、“計画中止”の悪夢がリアルに脳裏をよぎったよ…。

 もしそうなったら、教率者に大見得を切った手前、生き恥を晒すところだった…」


 …それもいいんじゃねえか?

 と、喉元まで出かかった本音●●を必死で呑み込み、アティーリョ=モラレスは沈痛な声音で返答した。

「…了解した。何しろ今回の“死霊島メッズ大遠征”には我々錬装者の面子メンツがかかっているんだからな…。

 実はレイ、初めて言わせてもらうが、オレは以前から不満でしょうがないことがある…。

 せっかくの錬装磁甲に自前の“飛行手段”がなく、デルタスライダーなんていう乗り物●●●を使用せねばならんのもそうだが、錬装者単独ではオレや君といった“一部の例外”を除いては刃獣とやり合うのはまず無理だということだ…。

 原因…いや元凶●●は唯一つ。

 無元造房…いや、聖団かはたまた畏れ多くも天響神エグメドかは分からんが、とにかく“おかみ”があえて錬装磁甲の性能スペック低値●●に抑え込んでいるということなんだよ!

 ここでハッキリ断言させてもらう。

 錬装者われわれはもっとやれる●●●はずだ!

 だからこの切実なる要求を通すためにも今回の海龍党との決戦は大勝利する必要があるし、そのためには一刻も早く同志キミたちに合流することを約束するよ…。

 じゃ、また、連絡する。

 それでは、聖団と錬装者われらの栄光のために!」

 末尾を“一部の錬装者間で愛唱されている合言葉”で締めくくった鉄槌士隊々長に、半ば呆れつつ、半ば感服したようなCBK総帥の深い声音が告げた。

「右に同じく、我らに栄光あれ…。

 アティ、私もさっきから思っていることがあるんだが…といっても、今更手遅れかもしれんがね…。

 こうして交信しているということは、君は現在、“錬装中”なんだろう?

 とすると、情報提供者かのじょ
恐怖パニックの原因の一つにそれ●●もあるんじゃないか?

 何しろ、君たち鉄槌士隊構成員メンバー意匠デザインはあまりにも威嚇的スレットニングといえるからね…特に女性からは敬遠されてしまうと思うぜ。

 まあ、何分なにぶんにも“手遅れな助言アドバイス”で申し訳ない。

 じゃ、健闘を祈るグッドラック

 くれぐれも夢中になりすぎて●●●●●●●●任務を忘れてしまうんじゃないぜ!」

 ──ここまで聞けば十分だった。

 今度こそ聖団方面●●からのチャンネルをOFFにしたモラレスは、大きくため息を吐いて自身の立場が脆くも崩れ去ったことを認めざるを得なかった。

  “必死の偽装”にも関わらず、(少なくとも話の途中からは)あの憎っくきスペンサーは事情●●を察したのだ。

 みるみる、“自慢の宝刀”が萎えてゆく。

 遠い祖国パトリアの風物に例えるなら、“去勢されて闘牛場に引きずり出された牡牛の心境”といったところか。

 だが、今さら後へは退けない。

 一面に“黄金の焔”を浮き彫りにした豪奢な扉の前で祭霊妃が立ち止まった。

 費やした歩行距離から察するに、この4階のフロアで〈祭爛の間〉から最も離れた位置取りと思われる。

 振り返った彼女に、モラレスは内心の疑問をぶつけてみる。

「…の遺体、あのままでいいのか?」

 微笑みを浮かべていたルターナの美貌が一瞬凍り付き、即座に女司祭の不敵な笑みに切り替わる。

「お気遣い頂いてセテル共々お礼申し上げるけれど、心配はご無用よ。

 さっき洗浄剤を探しに行った際、“人工従者”を起動させてある部屋●●●●に運ぶよう命じておいたわ…。

 いくら善意の助力者とはいえ、よりにもよって“異界人”の手に、私にとって生命にも等しい大切な聖贄者の肉体を委ねる訳にはいきませんから、ね…!

 でも、気を悪くしないでね、これは私とセテルが[火原の美獣]という“秘教結社”の一員である以上、仕方のないことなのよ…。

 ところで、この部屋に入るには、あなたにしてもらわないといけないことがあるんだけど…」

「分かってるさ…“繊細な作業”を行うにはどう考えても邪魔っけなこの物騒な鎧を脱いでくれっていうことだろ?」

「……」

 無言で肯うルターナの視界を、不意に灰色がかった白い光が覆い尽くし、0.3セスタ(約1分)後には全身にぴったりとフィットしたグレーのTシャツとスパッツを履いた、見事にシェイプされた短髪の20代半ばとおぼしき“ラテンの美丈夫”が出現する。

「…驚いた…!

 あなた、魔法使いなの?」

 鉄槌士隊々長・アティーリョ=モラレスは心中で呟いた。

 いいや、ただの“魔使い”さ…。

 口に出した瞬間、一切の弁明を聞き入れることなく、ルターナは彼を〈玄麗館〉から叩き出し、二度と扉を開くことはないだろう。

 それが分かっているから、声にしたのは「いいや」だけだった。

 驚愕に見開かれた黄金の淫婦の菫色の瞳は、すぐに思わぬ掘り出し物を発見した満足の色に染まる。

「お名前、聞かせてくれる?」

 大きく息を吸い、モラレスは答えた。

「名乗るほどの者じゃないが、人はオレをこう呼ぶ…

 レイモンド=スペンサー●●●●●●●●●●●と、ね」

 ルドストン凱鱗領が誇る美しき大女優にして、凄艷なる暗黒の女司祭は大きく頷き、隠し持った解錠ボタンを押しつつ叫んだ。

「レイモンド=スペンサーよ、火原の美獣の、いいえ凱鱗領ルドストンの次代を担う“聖児”たちをみ出すための〈創生室〉にようこそ!!

 あなたの手によって、遂にこの祭霊妃ルターナがそれを授かる時が来たことをここに宣言するわ!!」

 





 




 

 


 

 


 





  

  





 



 

 

 

 
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