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第1章 異空の超戦者たち
愛華領魔闘陣⑦
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「萩邑先輩!」
健闘むなしく格闘魔女に敗れ、失神状態で“お姫様抱っこ”されてしまった敬愛する師に真悠花を振りほどいて駆け寄った那崎弓葉は、腕の中でのけ反るりさらの白い頤を満足気に見つめるジェニファーにためらうことなく渾身の平手打ちを放った。
「ひっ…」
りさらに続き、弓葉までもが殺されてしまう!と両手で顔を覆った真悠花が慄く。
「…今、自分が何をしたか、分かってる?」
思いの外、穏やかなメデューサの声が小さな操獣師の恐怖を倍加させる。
「無論ですわ!
裏切り者への宣戦布告──それ以上でも以下でもありません!」
凛然たる声音は師匠が乗り移ったかのようだ。
「…裏切り者?このあたしが?一体何に対する?」
「あなたを卓越した操獣師として、優れた同志として、何より命を預け合う戦友として信頼してきた萩邑先輩を、そしていつかは到達すぺき目標として仰ぎ見てきた私たちに対してです!」
──これ以上の笑えないジョークがこの世にあろうか、とばかりに天を仰いだメデューサは、嘆息と共に憐れみを込めた視線を弓葉に向けた。
「…あのね、お嬢ちゃん…いい機会だからここで言っておくけど、操獣師が心を向ける相手は戦友(?)とやらの聖団員などではなくて、自分のたった一つの命を託す絆獣だけなのよ…さっきあなたたちが見せてくれた、これ以上ないほどブザマな烈空衝破星もどき…“本番”であんな茶番をやらかしたら間違いなく生還はかなわないどころか、自分を危機に晒した裏切り者として、操念螺盤に坐したままメレゼスに焼き殺されてしまうわよ」
この非情なる宣告を、弓葉は真実と受け止めることは出来なかった。
「そんな……メレゼスが私に対して…」
今度こそ遠慮なく、ジェニファーは太いため息を吐き出し、りさらの躰を軽く上下させた。
「この美しくて優しい先生はいちばん肝心なことを伝えていなかったようね…それがあなたたちに余計なプレッシャーを与えることを恐れてのことだと理解は出来るけど、ここを押さえていないと操獣師として要の心得が抜け落ちてしまうから事実を伝えるわね…あの時、メレゼスもヴェセアムも怒っていたのよ、それも腸が煮えくり返るほどに……このヘタクソどもが、とっととあたしたちから降りろ!と、ね…」
「──!」
衝撃のあまりよろめく弓葉を見つめるジェニファーの表情からは、一切の険が消失していた。
「ね、考え違いをしてはいけないわ、此処は戦場なのよ。人間だけが必死なんじゃない、絆獣だって、そして神牙教軍ですらも生き残るために死にもの狂いで戦ってる。その原則を忘れた奴からくたばっていくことになるの…それを忘れないでね。リサラだっていずれ同じことを言ったはずだから──何?」
いつの間にか弓葉の後方に立ち、蒼白の地肌をいっそう青ざめさせて異界人たちによる異様な光景を見つめていた空色の瞳のラージャーラ人女性──絆獣聖団の該教界における世話役──であるドリィが、念話(ラージャーラ人は聖幻晶を装着せずとも三次元人と交信可能)によって告げた。
「神牙教軍の斥候が教界に侵入しました!現在捕獲されて[監査室]に収容されています。タケザワ様からすぐ来るようにとの仰せです」
──伝説の“殺戮姫”にして現“特級操獣師チーム〈暁のドゥルガー〉スーパーバイザー”竹澤夏月。今回のティリールカ防衛ミッションの絆獣部隊総指揮者を任じる彼女の、聖団員なら誰ひとり知らぬ者はない戦闘に臨んでのテンションの昂りを予想しつつ、この戦いで彼女を超えてみせると決意しているジェニファー=クリストファーは鋼のごとき声音で
「了解、すぐ行く」と応じた。
ティリールカ愛華領の中枢部とも言うべき“教令部”と教民の“居住区”は共に地下にある。現在、同じ様式を採る勢力は少なくないが、その魁ともいえる該教界の地底要塞化のきっかけが黎明期の苦難の経験にあったことはいうまでもない。だが安全性の向上は見込めても、それは同時に防御に特化した“怯懦の表明”と受け取られかねないため、攻撃精神の権化ともいうべきラージャーラ人たちへの普及にはかなりの年月を要したのであった。
14ヶ所用意されている“教民用出入口”
は大・中・少の数別昇降機と幅およそ30レクトに達する巨大階段を附設しており、ラージャーラ最大規模の爆薬の炸裂にも耐えうる厚さ6レクトの超鋼扉は外敵来襲時は無論、夜間も厳重な内部チェックの後に完全密閉されることとなっていた。
地下世界は中心部に築かれた教令部から同心円状に広がっており、訪れた当初に広さを訪ねた弓葉は「およそドーム球場800個分」との返答をドリィ経由でりさらから得、驚愕したものであった…。
3箇所存在する教令部直結の衛門のうち、最も近傍のそれから入界した5人は、最小の9人用昇降機による深々とした降下を経て、色とりどりの丹念に仕上げられた流麗な丸木舟を連想させるフォルムの[伝霊車]が軽快に行き交う広大な空間に降り立った。
教民の移動手段として、“想念による完全自動運転”によって無音・高速で走行し、性能及び操縦者の能力によっては飛翔をも可能とする伝霊車は、地上におけるクルマほど大量に存在する訳ではないにせよ聖団員にとってもはや見慣れた存在であったが、かくのごとき優美な形状と複雑な交通状況は弓葉を瞠目させるに充分であった。
「──凄い。道もないのに何百台も動き回ってて、全然ぶつかる様子もないなんて…!」
事実、伝霊車たちはまるで敬意を抱き合う生物のように絶妙に、そして優雅に衝突の危険を回避しているのであったが、一切の迂回や後退といった無駄の排除はもはや手練れの運転手すら及ばぬ至芸というべきであったろう。
されどこの心からの詠嘆を、単なる社交辞令と受け取ったか、ドリィの“声音”は淡々たるものであった。
「伝霊車は教民の足ですからね。想念によって駆動する訳ですからなまじな肉体運動などより健康にも寄与します……あなたがたも聖幻晶によって操縦することは可能ですよ」
「本当ですか⁉」
目を輝かせて叫んだのは“クルマ大好き”で、普通免許取得が可能となる5年後が待ち切れない真悠花であった。
「──そうさせてあげたいのはやまやまだけど、アナタにはその前にマスターしなくちゃならない“何か”があったはずよね、ベイビー?」
失神したままの白装束の美女を軽々と抱えて一同の殿をつとめる戦鬼ジェニファーの声を背中に浴びた二人の操獣師は、一瞬にして危険に満ちた現実に引き戻されたが、闘志剥き出しでこれに立ち向かったのは号泣によって自らを浄化(?)した年少者であった。
勢いよく振り向いた青衣の美少女は慈悲深い眼差しを向ける緑の超人に頬を膨らませながら歩み寄ると、舌鋒鋭くまくし立てた。
「そんなこと言われなくても分かってます!それより萩邑先生は大丈夫なんでしょうね⁉
──もし先生に何かあったらヴェセアムで上からのしかかってペチャンコにしてやるから覚悟しなさいよ、スケベでキモい緑のおばさん!」
真悠花が喋り始めるや、言葉の一つ一つをあたかも天井の音楽に聴き入るかのごとく瞑目して味わっていたメデューサは、結語に至って軽度のエクスタシーに達したか、感に耐えたように情感たっぷりの声音で答えるのであった。
「オオ…それこそまさに“至福の死”というものだわ……万に一つもないとは思うけれど、私が自殺したくなった時にはぜひともその魅惑のメニューをリクエストさせてもらうわね、愛しいベイビー♡」
全操獣師中、最も恐れられている妖女メデューサに寵愛(?)されるに至った妹分に微かな羨望を抱きつつも、弓葉はある疑問に苛まれていた。
──ジェニファーは何故、“落とした”りさらに“活”を入れて蘇生させないのか?
ラージャーラで共に戦う錬装者である兄・恭作は自らの探究の一環としてもあらゆる格闘動画に目を通していたが、たまたまそれを視聴した際、今回と同じくチョークスリーパーで失神させられた敗者が関係者に膝で背中を押されてあっさり息を吹き返す光景を見たことがあった──つまり、メデューサさえそのつもりならりさらはすぐに目覚めるはずなのだ──それなのに、何故?
考えられるのはただ一つ、ジェニファーは己が手に落ちたりさらの肉体の感触を手放したくないのだ…!
しかしながら、決着後かなりの時間が経つというのに、放置しておいて敬愛する師の生命に影響はないのか?
本来の弓葉なら真悠花以上の激しい言葉で加害者を問い詰めていたであろう。
それが出来なかったのは、彼女によって刻み込まれた“衝撃の事実”が脳内に反響し続けていたからに他ならなかった。
──メレゼス……あの子が激しく憤っていた?もし実戦だったら私を焼き殺してしまうほどに?
だが残念ながら、これがジェニファーの作り話であると見なすことは未熟な操獣師には出来なかった…となれば一刻も早く彼女との関係修復を図らなければ、遠からず“別離”を強いられるのは必至なのではないか?
──ならば選択の余地はない。
人間性の是非はともかく、操獣師としては間違いなく超一流である眼前の緑の魔女に土下座してでも指導を乞わねばならぬ……その想いが真悠花の何倍も萩邑りさらを慕い、師の窮境を気遣っているはずの那崎弓葉に“人としての言葉”を呑み込ませたのだった…。
──私って、こんなにひどい人間だったの…?
その時、これまで一顧だにしなかったメデューサが弓葉に視線を向けた-あたかもその“認識”を待っていたかのように。
その瞳がかつてない“優しさ”を湛えていたかのように見えたのは気のせいか。
でもこれが操獣師の、絆獣聖団員としての根本的な心得というのなら哀しすぎる……果たして自分の精神が本当にその“イズム”を会得できるのか?果てしない苦闘の予感に慄く弓葉にはその“血の凝視”を受け切ることは出来なかった……。
健闘むなしく格闘魔女に敗れ、失神状態で“お姫様抱っこ”されてしまった敬愛する師に真悠花を振りほどいて駆け寄った那崎弓葉は、腕の中でのけ反るりさらの白い頤を満足気に見つめるジェニファーにためらうことなく渾身の平手打ちを放った。
「ひっ…」
りさらに続き、弓葉までもが殺されてしまう!と両手で顔を覆った真悠花が慄く。
「…今、自分が何をしたか、分かってる?」
思いの外、穏やかなメデューサの声が小さな操獣師の恐怖を倍加させる。
「無論ですわ!
裏切り者への宣戦布告──それ以上でも以下でもありません!」
凛然たる声音は師匠が乗り移ったかのようだ。
「…裏切り者?このあたしが?一体何に対する?」
「あなたを卓越した操獣師として、優れた同志として、何より命を預け合う戦友として信頼してきた萩邑先輩を、そしていつかは到達すぺき目標として仰ぎ見てきた私たちに対してです!」
──これ以上の笑えないジョークがこの世にあろうか、とばかりに天を仰いだメデューサは、嘆息と共に憐れみを込めた視線を弓葉に向けた。
「…あのね、お嬢ちゃん…いい機会だからここで言っておくけど、操獣師が心を向ける相手は戦友(?)とやらの聖団員などではなくて、自分のたった一つの命を託す絆獣だけなのよ…さっきあなたたちが見せてくれた、これ以上ないほどブザマな烈空衝破星もどき…“本番”であんな茶番をやらかしたら間違いなく生還はかなわないどころか、自分を危機に晒した裏切り者として、操念螺盤に坐したままメレゼスに焼き殺されてしまうわよ」
この非情なる宣告を、弓葉は真実と受け止めることは出来なかった。
「そんな……メレゼスが私に対して…」
今度こそ遠慮なく、ジェニファーは太いため息を吐き出し、りさらの躰を軽く上下させた。
「この美しくて優しい先生はいちばん肝心なことを伝えていなかったようね…それがあなたたちに余計なプレッシャーを与えることを恐れてのことだと理解は出来るけど、ここを押さえていないと操獣師として要の心得が抜け落ちてしまうから事実を伝えるわね…あの時、メレゼスもヴェセアムも怒っていたのよ、それも腸が煮えくり返るほどに……このヘタクソどもが、とっととあたしたちから降りろ!と、ね…」
「──!」
衝撃のあまりよろめく弓葉を見つめるジェニファーの表情からは、一切の険が消失していた。
「ね、考え違いをしてはいけないわ、此処は戦場なのよ。人間だけが必死なんじゃない、絆獣だって、そして神牙教軍ですらも生き残るために死にもの狂いで戦ってる。その原則を忘れた奴からくたばっていくことになるの…それを忘れないでね。リサラだっていずれ同じことを言ったはずだから──何?」
いつの間にか弓葉の後方に立ち、蒼白の地肌をいっそう青ざめさせて異界人たちによる異様な光景を見つめていた空色の瞳のラージャーラ人女性──絆獣聖団の該教界における世話役──であるドリィが、念話(ラージャーラ人は聖幻晶を装着せずとも三次元人と交信可能)によって告げた。
「神牙教軍の斥候が教界に侵入しました!現在捕獲されて[監査室]に収容されています。タケザワ様からすぐ来るようにとの仰せです」
──伝説の“殺戮姫”にして現“特級操獣師チーム〈暁のドゥルガー〉スーパーバイザー”竹澤夏月。今回のティリールカ防衛ミッションの絆獣部隊総指揮者を任じる彼女の、聖団員なら誰ひとり知らぬ者はない戦闘に臨んでのテンションの昂りを予想しつつ、この戦いで彼女を超えてみせると決意しているジェニファー=クリストファーは鋼のごとき声音で
「了解、すぐ行く」と応じた。
ティリールカ愛華領の中枢部とも言うべき“教令部”と教民の“居住区”は共に地下にある。現在、同じ様式を採る勢力は少なくないが、その魁ともいえる該教界の地底要塞化のきっかけが黎明期の苦難の経験にあったことはいうまでもない。だが安全性の向上は見込めても、それは同時に防御に特化した“怯懦の表明”と受け取られかねないため、攻撃精神の権化ともいうべきラージャーラ人たちへの普及にはかなりの年月を要したのであった。
14ヶ所用意されている“教民用出入口”
は大・中・少の数別昇降機と幅およそ30レクトに達する巨大階段を附設しており、ラージャーラ最大規模の爆薬の炸裂にも耐えうる厚さ6レクトの超鋼扉は外敵来襲時は無論、夜間も厳重な内部チェックの後に完全密閉されることとなっていた。
地下世界は中心部に築かれた教令部から同心円状に広がっており、訪れた当初に広さを訪ねた弓葉は「およそドーム球場800個分」との返答をドリィ経由でりさらから得、驚愕したものであった…。
3箇所存在する教令部直結の衛門のうち、最も近傍のそれから入界した5人は、最小の9人用昇降機による深々とした降下を経て、色とりどりの丹念に仕上げられた流麗な丸木舟を連想させるフォルムの[伝霊車]が軽快に行き交う広大な空間に降り立った。
教民の移動手段として、“想念による完全自動運転”によって無音・高速で走行し、性能及び操縦者の能力によっては飛翔をも可能とする伝霊車は、地上におけるクルマほど大量に存在する訳ではないにせよ聖団員にとってもはや見慣れた存在であったが、かくのごとき優美な形状と複雑な交通状況は弓葉を瞠目させるに充分であった。
「──凄い。道もないのに何百台も動き回ってて、全然ぶつかる様子もないなんて…!」
事実、伝霊車たちはまるで敬意を抱き合う生物のように絶妙に、そして優雅に衝突の危険を回避しているのであったが、一切の迂回や後退といった無駄の排除はもはや手練れの運転手すら及ばぬ至芸というべきであったろう。
されどこの心からの詠嘆を、単なる社交辞令と受け取ったか、ドリィの“声音”は淡々たるものであった。
「伝霊車は教民の足ですからね。想念によって駆動する訳ですからなまじな肉体運動などより健康にも寄与します……あなたがたも聖幻晶によって操縦することは可能ですよ」
「本当ですか⁉」
目を輝かせて叫んだのは“クルマ大好き”で、普通免許取得が可能となる5年後が待ち切れない真悠花であった。
「──そうさせてあげたいのはやまやまだけど、アナタにはその前にマスターしなくちゃならない“何か”があったはずよね、ベイビー?」
失神したままの白装束の美女を軽々と抱えて一同の殿をつとめる戦鬼ジェニファーの声を背中に浴びた二人の操獣師は、一瞬にして危険に満ちた現実に引き戻されたが、闘志剥き出しでこれに立ち向かったのは号泣によって自らを浄化(?)した年少者であった。
勢いよく振り向いた青衣の美少女は慈悲深い眼差しを向ける緑の超人に頬を膨らませながら歩み寄ると、舌鋒鋭くまくし立てた。
「そんなこと言われなくても分かってます!それより萩邑先生は大丈夫なんでしょうね⁉
──もし先生に何かあったらヴェセアムで上からのしかかってペチャンコにしてやるから覚悟しなさいよ、スケベでキモい緑のおばさん!」
真悠花が喋り始めるや、言葉の一つ一つをあたかも天井の音楽に聴き入るかのごとく瞑目して味わっていたメデューサは、結語に至って軽度のエクスタシーに達したか、感に耐えたように情感たっぷりの声音で答えるのであった。
「オオ…それこそまさに“至福の死”というものだわ……万に一つもないとは思うけれど、私が自殺したくなった時にはぜひともその魅惑のメニューをリクエストさせてもらうわね、愛しいベイビー♡」
全操獣師中、最も恐れられている妖女メデューサに寵愛(?)されるに至った妹分に微かな羨望を抱きつつも、弓葉はある疑問に苛まれていた。
──ジェニファーは何故、“落とした”りさらに“活”を入れて蘇生させないのか?
ラージャーラで共に戦う錬装者である兄・恭作は自らの探究の一環としてもあらゆる格闘動画に目を通していたが、たまたまそれを視聴した際、今回と同じくチョークスリーパーで失神させられた敗者が関係者に膝で背中を押されてあっさり息を吹き返す光景を見たことがあった──つまり、メデューサさえそのつもりならりさらはすぐに目覚めるはずなのだ──それなのに、何故?
考えられるのはただ一つ、ジェニファーは己が手に落ちたりさらの肉体の感触を手放したくないのだ…!
しかしながら、決着後かなりの時間が経つというのに、放置しておいて敬愛する師の生命に影響はないのか?
本来の弓葉なら真悠花以上の激しい言葉で加害者を問い詰めていたであろう。
それが出来なかったのは、彼女によって刻み込まれた“衝撃の事実”が脳内に反響し続けていたからに他ならなかった。
──メレゼス……あの子が激しく憤っていた?もし実戦だったら私を焼き殺してしまうほどに?
だが残念ながら、これがジェニファーの作り話であると見なすことは未熟な操獣師には出来なかった…となれば一刻も早く彼女との関係修復を図らなければ、遠からず“別離”を強いられるのは必至なのではないか?
──ならば選択の余地はない。
人間性の是非はともかく、操獣師としては間違いなく超一流である眼前の緑の魔女に土下座してでも指導を乞わねばならぬ……その想いが真悠花の何倍も萩邑りさらを慕い、師の窮境を気遣っているはずの那崎弓葉に“人としての言葉”を呑み込ませたのだった…。
──私って、こんなにひどい人間だったの…?
その時、これまで一顧だにしなかったメデューサが弓葉に視線を向けた-あたかもその“認識”を待っていたかのように。
その瞳がかつてない“優しさ”を湛えていたかのように見えたのは気のせいか。
でもこれが操獣師の、絆獣聖団員としての根本的な心得というのなら哀しすぎる……果たして自分の精神が本当にその“イズム”を会得できるのか?果てしない苦闘の予感に慄く弓葉にはその“血の凝視”を受け切ることは出来なかった……。
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