55 / 60
第六章 凱歌の行方
冬河黎輔、絶体絶命!?
しおりを挟む
「ぎゃっはははははッッ!!!」
東堂吟士の口からけたたましい爆笑が発せられ、傍らの寺垣俊之も破顔一笑していた。
「ひっきひひひ…何だよ、あのゲッスい攻撃はよ?
あんなクソダッセえ戦法使う妖仙獣投入しといてよ、よく人様のことをとやかく言えたもんだよなあ…。
ま、そもそもがマトモな人間のココロを持ち合わせてたらとてもやれねえ新興宗教なんざを、こともあろうに家業でやってんだから、人並な恥の感覚なんてもんはとっくに先祖の段階で喪失してるんだろうがな…!」
──ここぞとばかりに放たれたこれらの“報復言辞”は、もちろん光城玄矢に向けられたものである。
「…おい」
沙佐良氷美花は未だ目覚めず、彼女を抱いたままの最強妖帝が傍らに立つ弟に顎をしゃくり、頷いた白彌は観戦シートを一脚手にして二人の代理人のもとに向かう。
「……?」
不穏な空気を感じ取った寺垣らが身構えるのも構わず、光城派副将は東堂の真横に無造作にシートを据えて腰を下ろす。
そのまま腕と脚を組んで無表情で前方を見つめる青年に不気味さを覚えた東堂が盟友に目配せし、頷き合った二人は席を入れ替えるが、さっと立ち上がった白彌は再びシートを手にしてAVの帝王の傍らに陣取る。
この子供じみた?逆襲方式に、これ以上付き合うのもアホらしいと判断した吟士は寺垣と苦笑し合い、背凭れに寄りかかって後頭部で両手を組み合わせつつ小声で語りかけた。
「──あんな口うるせえ兄貴持っちゃ、アンタも大変だな…。
もし光城派のトップがアンタなら、こっちとしてもがっちりスクラム組めるんだけどよ…ねえ寺垣さん?」
この小声の呼びかけに“播磨の鬼獅子”は真顔で頷き、これが二派の共通認識であることは明らかなようであった。
そして1分ほどの沈黙の後、二人の使者は光城白彌から発せられた呟きに耳を疑った。
「──本音を言えば、ボクもほとほと嫌気が差してるんですよ…。
それで、これはあえて身内の恥を晒すことになりますが、家業の光至教自体が非常に難しい局面を迎えていましてね…」
「……!?」
“──こりゃあ、とんでもねえ土産話を持って帰れそうだぜ…”と色めき立った両者が耳をそばだてる傍らで、現教祖である実母に最も愛され、信者間の人気も高い三男坊は密かに訓練を重ねて身に付けた技か、唇をほとんど動かすことなく淡々と、しかし赤裸々に光霊至聖教団の〈内部事情〉を語りはじめた…。
──軽く5メートルは吹っ飛ばされ、固い鋼板に背中から叩きつけられた衝撃で冬河黎輔の意識は一時的に遠のいていたが、迫りくる臙脂色の大魔蟲が放つ不快極まる鳴き声によって瞬時の覚醒を強いられた。
幸い、鉄兜の面頬に開いた隙間の奥の機眼は、謎の粘液で汚されると同時に放出された超強力洗浄液によって八割方回復していたが、それが捉えた呀門の映像はその腹部──しかもそれはかなり上方にあった!
『…てことはアイツ、まさか翔んでるのかッ!?』
そのまさかであった。
臙脂色に鈍く底光りする堅牢な翅を全開して鋼の獲物の真上7メートルに一旦静止し、ジャキリッと不吉な金属音が断続的に響くや、グロテスクな下面部から40センチあまりの薔薇の棘に酷似した形状の鋭利な突起物が数十本生え出し、それはドリルのように高速回転をはじめる!
「ゲッ!? ヤ、ヤベえッ!!
下から〔スピニング・コーン❳(錬装磁甲の拳に仕込まれた、最長露出時25センチの超高速ドリル)で迎撃しようにも、とてもおっつかん…!」
かくなる上は予想される“死のボディープレス”を何とかかわすしかないが、敵はこちらの移動方向にシンクロしながらジワジワと下降してくる…。
『このまま寝転がってたんじゃ串刺しのリスクしかねえ…もちろんタフな磁甲がちょっとやそっとでブチ破られることはねえにしろ、ヤツも畜生の浅ましさで風穴開けるまでガンバルに決まってる…。
まずは立ち上がらねえと…あんなキメえバケモンに騎乗されるのは死んでもゴメンだぜ…!』
──一瞬でも視線を外せば、直ちに悪魔の物体が落下してくることは必定であるため、両肘を利しての反動でとりあえず上体のみを起こした黎輔は、このままでは埒が明かぬと〈誘い水〉をかけることにした。
『とにかくヤツのこちらへの注意を一時的でも遮断すること…となるとコイツが一番有効じゃね!?』
次の刹那、青い錬装磁甲全体が直視できぬほどの光彩に包まれ、宙を舞う妖仙獣は軋るような苦鳴を上げた!
これに乗じて立ち上がり、全力で鉄柵に走った黎輔は右足裏でそれを蹴って一気に斜め上に跳躍する!
「このアホンダラがッ!!」
瞬時に巨大怪虫の背中に飛び乗った錬装者は、両拳のドリルを起動して呀門の頭頂を狙う!
「うまいッ! あのまま頭部に取り付いてメッタ打ちすればかなりのダメージを与えられるはずッ!!」
盟友が拳を握りしめて叫ぶが、横で腕組みした星愁は険しい表情を崩さない。
「ダメだな…これで決まるようなら誰も苦労しない…」
思わず咎めるような視線を向ける恭作を見返すことなく、支部最強者は黙って妖仙獣を指差した。
はたせるかな、開口した呀門から幅10センチほどの、ぬらついた光沢の土留色の舌がズルズルと吐き出され、たちまち3~4メートルに伸びたそれがあたかも視覚能力が備わっているかのように、今しも必殺拳を振り上げた冬河黎輔の首に正確にがっちりと巻き付いたのである!
東堂吟士の口からけたたましい爆笑が発せられ、傍らの寺垣俊之も破顔一笑していた。
「ひっきひひひ…何だよ、あのゲッスい攻撃はよ?
あんなクソダッセえ戦法使う妖仙獣投入しといてよ、よく人様のことをとやかく言えたもんだよなあ…。
ま、そもそもがマトモな人間のココロを持ち合わせてたらとてもやれねえ新興宗教なんざを、こともあろうに家業でやってんだから、人並な恥の感覚なんてもんはとっくに先祖の段階で喪失してるんだろうがな…!」
──ここぞとばかりに放たれたこれらの“報復言辞”は、もちろん光城玄矢に向けられたものである。
「…おい」
沙佐良氷美花は未だ目覚めず、彼女を抱いたままの最強妖帝が傍らに立つ弟に顎をしゃくり、頷いた白彌は観戦シートを一脚手にして二人の代理人のもとに向かう。
「……?」
不穏な空気を感じ取った寺垣らが身構えるのも構わず、光城派副将は東堂の真横に無造作にシートを据えて腰を下ろす。
そのまま腕と脚を組んで無表情で前方を見つめる青年に不気味さを覚えた東堂が盟友に目配せし、頷き合った二人は席を入れ替えるが、さっと立ち上がった白彌は再びシートを手にしてAVの帝王の傍らに陣取る。
この子供じみた?逆襲方式に、これ以上付き合うのもアホらしいと判断した吟士は寺垣と苦笑し合い、背凭れに寄りかかって後頭部で両手を組み合わせつつ小声で語りかけた。
「──あんな口うるせえ兄貴持っちゃ、アンタも大変だな…。
もし光城派のトップがアンタなら、こっちとしてもがっちりスクラム組めるんだけどよ…ねえ寺垣さん?」
この小声の呼びかけに“播磨の鬼獅子”は真顔で頷き、これが二派の共通認識であることは明らかなようであった。
そして1分ほどの沈黙の後、二人の使者は光城白彌から発せられた呟きに耳を疑った。
「──本音を言えば、ボクもほとほと嫌気が差してるんですよ…。
それで、これはあえて身内の恥を晒すことになりますが、家業の光至教自体が非常に難しい局面を迎えていましてね…」
「……!?」
“──こりゃあ、とんでもねえ土産話を持って帰れそうだぜ…”と色めき立った両者が耳をそばだてる傍らで、現教祖である実母に最も愛され、信者間の人気も高い三男坊は密かに訓練を重ねて身に付けた技か、唇をほとんど動かすことなく淡々と、しかし赤裸々に光霊至聖教団の〈内部事情〉を語りはじめた…。
──軽く5メートルは吹っ飛ばされ、固い鋼板に背中から叩きつけられた衝撃で冬河黎輔の意識は一時的に遠のいていたが、迫りくる臙脂色の大魔蟲が放つ不快極まる鳴き声によって瞬時の覚醒を強いられた。
幸い、鉄兜の面頬に開いた隙間の奥の機眼は、謎の粘液で汚されると同時に放出された超強力洗浄液によって八割方回復していたが、それが捉えた呀門の映像はその腹部──しかもそれはかなり上方にあった!
『…てことはアイツ、まさか翔んでるのかッ!?』
そのまさかであった。
臙脂色に鈍く底光りする堅牢な翅を全開して鋼の獲物の真上7メートルに一旦静止し、ジャキリッと不吉な金属音が断続的に響くや、グロテスクな下面部から40センチあまりの薔薇の棘に酷似した形状の鋭利な突起物が数十本生え出し、それはドリルのように高速回転をはじめる!
「ゲッ!? ヤ、ヤベえッ!!
下から〔スピニング・コーン❳(錬装磁甲の拳に仕込まれた、最長露出時25センチの超高速ドリル)で迎撃しようにも、とてもおっつかん…!」
かくなる上は予想される“死のボディープレス”を何とかかわすしかないが、敵はこちらの移動方向にシンクロしながらジワジワと下降してくる…。
『このまま寝転がってたんじゃ串刺しのリスクしかねえ…もちろんタフな磁甲がちょっとやそっとでブチ破られることはねえにしろ、ヤツも畜生の浅ましさで風穴開けるまでガンバルに決まってる…。
まずは立ち上がらねえと…あんなキメえバケモンに騎乗されるのは死んでもゴメンだぜ…!』
──一瞬でも視線を外せば、直ちに悪魔の物体が落下してくることは必定であるため、両肘を利しての反動でとりあえず上体のみを起こした黎輔は、このままでは埒が明かぬと〈誘い水〉をかけることにした。
『とにかくヤツのこちらへの注意を一時的でも遮断すること…となるとコイツが一番有効じゃね!?』
次の刹那、青い錬装磁甲全体が直視できぬほどの光彩に包まれ、宙を舞う妖仙獣は軋るような苦鳴を上げた!
これに乗じて立ち上がり、全力で鉄柵に走った黎輔は右足裏でそれを蹴って一気に斜め上に跳躍する!
「このアホンダラがッ!!」
瞬時に巨大怪虫の背中に飛び乗った錬装者は、両拳のドリルを起動して呀門の頭頂を狙う!
「うまいッ! あのまま頭部に取り付いてメッタ打ちすればかなりのダメージを与えられるはずッ!!」
盟友が拳を握りしめて叫ぶが、横で腕組みした星愁は険しい表情を崩さない。
「ダメだな…これで決まるようなら誰も苦労しない…」
思わず咎めるような視線を向ける恭作を見返すことなく、支部最強者は黙って妖仙獣を指差した。
はたせるかな、開口した呀門から幅10センチほどの、ぬらついた光沢の土留色の舌がズルズルと吐き出され、たちまち3~4メートルに伸びたそれがあたかも視覚能力が備わっているかのように、今しも必殺拳を振り上げた冬河黎輔の首に正確にがっちりと巻き付いたのである!
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる