ボクらは魔界闘暴者!

幾橋テツミ

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第六章 凱歌の行方

冬河黎輔、絶体絶命!?

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「ぎゃっはははははッッ!!!」

 東堂吟士の口からけたたましい爆笑が発せられ、傍らの寺垣俊之も破顔一笑していた。

「ひっきひひひ…何だよ、あのゲッスい攻撃はよ?

 あんなクソダッセえ戦法使う妖仙獣投入しといてよ、よく人様のことをとやかく言えたもんだよなあ…。

 ま、そもそもがマトモな人間のココロを持ち合わせてたらとてもやれねえ新興宗教カルトなんざを、こともあろうに家業でやってんだから、人並な恥の感覚なんてもんはとっくにしてるんだろうがな…!」

 ──ここぞとばかりに放たれたこれらの“報復言辞”は、もちろん光城玄矢に向けられたものである。

「…おい」

 沙佐良氷美花は未だ目覚めず、彼女を抱いたままの最強妖帝が傍らに立つ弟に顎をしゃくり、頷いた白彌は観戦シートを一脚手にして二人の代理人のもとに向かう。

「……?」

 不穏な空気を感じ取った寺垣らが身構えるのも構わず、光城派副将は東堂の真横に無造作にシートを据えて腰を下ろす。

 そのまま腕と脚を組んで無表情で前方を見つめる青年に不気味さを覚えた東堂が盟友に目配せし、頷き合った二人は席を入れ替えるが、さっと立ち上がった白彌は再びシートを手にしてAVの帝王の傍らに陣取る。

 この子供じみた?逆襲方式に、これ以上付き合うのもアホらしいと判断した吟士は寺垣と苦笑し合い、背凭れに寄りかかって後頭部で両手を組み合わせつつ小声で語りかけた。

「──あんな口うるせえ兄貴持っちゃ、アンタも大変だな…。

 もし光城派のトップがアンタなら、こっちとしてもがっちりスクラム組めるんだけどよ…ねえ寺垣さん?」

 この小声の呼びかけに“播磨の鬼獅子”は真顔で頷き、これが二派の共通認識であることは明らかなようであった。

 そして1分ほどの沈黙の後、二人の使者は光城白彌から発せられた呟きに耳を疑った。

「──本音を言えば、ボクもほとほと嫌気が差してるんですよ…。

 それで、これはあえて身内の恥を晒すことになりますが、の光至教自体が非常に難しい局面を迎えていましてね…」

「……!?」

 “──こりゃあ、とんでもねえ土産話を持って帰れそうだぜ…”と色めき立った両者が耳をそばだてる傍らで、現教祖である実母に最も愛され、信者間の人気も高い三男坊は密かに訓練を重ねて身に付けた技か、唇をほとんど動かすことなく淡々と、しかし赤裸々に光霊至聖教団の〈内部事情〉を語りはじめた…。


 ──軽く5メートルは吹っ飛ばされ、固い鋼板に背中から叩きつけられた衝撃で冬河黎輔の意識は一時的に遠のいていたが、迫りくる臙脂色の大魔蟲が放つ不快極まる鳴き声によって瞬時の覚醒を強いられた。

 幸い、鉄兜の面頬バイザーに開いた隙間スリットの奥の機眼は、謎の粘液で汚されると同時に放出された超強力洗浄液ハイパークリーナーによって八割方回復していたが、それが捉えた呀門の映像はその腹部──しかもそれはかなり上方にあった!

『…てことはアイツ、まさか翔んでるのかッ!?』

 そのであった。

 臙脂色に鈍く底光りする堅牢なはねを全開して鋼の獲物の真上7メートルに一旦静止し、ジャキリッと不吉な金属音が断続的に響くや、グロテスクなから40センチあまりの薔薇の棘に酷似した形状の鋭利な突起物が数十本生え出し、それはドリルのように高速回転をはじめる!

「ゲッ!? ヤ、ヤベえッ!!

 下から〔スピニング・コーン❳(錬装磁甲の拳に仕込まれた、最長露出時25センチの超高速ドリル)で迎撃しようにも、とてもおっつかん…!」

 かくなる上は予想される“死のボディープレス”を何とかかわすしかないが、敵はこちらの移動方向にシンクロしながらジワジワと下降してくる…。

『このまま寝転がってたんじゃ串刺しのリスクしかねえ…もちろんタフな磁甲がちょっとやそっとでブチ破られることはねえにしろ、ヤツも畜生の浅ましさで風穴開けるまでガンバルに決まってる…。

 まずは立ち上がらねえと…あんなキメえバケモンにされるのは死んでもゴメンだぜ…!』

 ──一瞬でも視線を外せば、直ちに悪魔の物体が落下してくることは必定であるため、両肘を利しての反動でとりあえず上体のみを起こした黎輔は、このままでは埒が明かぬと〈誘い水〉をかけることにした。

『とにかくヤツのこちらへの注意を一時的でも遮断すること…となるとコイツが一番有効じゃね!?』

 次の刹那、青い錬装磁甲全体が直視できぬほどの光彩に包まれ、宙を舞う妖仙獣は軋るような苦鳴を上げた!

 これに乗じて立ち上がり、全力で鉄柵に走った黎輔は右足裏でそれを蹴って一気に斜め上に跳躍する!

「このアホンダラがッ!!」

 瞬時に巨大怪虫の背中に飛び乗った錬装者は、両拳のドリルスピニングコーンを起動して呀門の頭頂を狙う!

「うまいッ! あのまま頭部に取り付いてメッタ打ちすればかなりのダメージを与えられるはずッ!!」

 盟友が拳を握りしめて叫ぶが、横で腕組みした星愁は険しい表情を崩さない。

「ダメだな…これで決まるようなら誰も苦労しない…」

 思わず咎めるような視線を向ける恭作を見返すことなく、支部最強者は黙って妖仙獣を指差した。

 はたせるかな、開口した呀門から幅10センチほどの、ぬらついた光沢の土留色マルベリーの舌がズルズルと吐き出され、たちまち3~4メートルに伸びたそれがあたかも視覚能力が備わっているかのように、今しも必殺拳を振り上げた冬河黎輔の首に正確にがっちりと巻き付いたのである!



 


 

 


 









 



  








 

 
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